逝く行く
ステータスを見ることができるようになって思うことは煩わしいということか。特に見えたとして何がいいということもない。何しろ基準値がよくわからないからだ。あくまで相対値に過ぎない。さらに、数値の上で小さな攻撃でも死に至ることがある。何の役にも立たない指標だ。見えてしまうのが厭だ。死に別れ行く相手の名が、妻子の有無がわかってしまうのが嫌だ。それでも結局は。
「勇者様、行きましょう。」
行くしかないのだろう。それのほかは選び得ないのだから。
「ふむ、村長。君はこの地を我が親衛隊の演習地に提供したい、と言うのかね。」
「はい、閣下。このところ離農者多く、畑も維持がままならなくなりました。兵が居るならば、他に人も来ましょう。」
「だがね、それに関しては私は認可しない。」
「なぜです‼」
「いいかね、その林を見るが良い。人の手が入りそれほど危険でもなく、また爽とした風が抜ける。して、夏衣をも抜ける風の快なるを我は他に知らず。」
「閣下、人が来なければ無駄です。」
「ファルケンハイン中尉、ファルケンハイン中尉‼」
副官の一人、ハインツ・フォン・ファルケンハイン中尉を呼ぶ。
「はぁ」
「君の家は確か伯爵だったか。」
「その通りであります。」
「君をしてこの地に別荘を建てよ。して紀行文を書きたまえ。」
「つまりは」
「この地を一大別荘地に仕上げるぞ。」
意図せぬままに軆は動く。まるで踊るかのように。
「帝都から鉄路を引けばここまでも一飛びだ。二十余里、それは一刻あまりでここの野菜は帝都の胃袋という大きな顧客が得られる!そしてここが優れた避暑地ともなれば貴族共も来よう。村長、鉄道建設の嘆願書を書きたまえ。私はそれを快く認可しよう。」
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(五十年くらいあとの歴史教科書より)
無理矢理親衛隊の演習地として接収しようとした帝国指導者から村を守り通した村長の像が駅の改札に鎮座している。
(写真欠落)




