親衛隊技術研究所へ向かう
帝都中央病院、別命顕徳鶯尼病院。そこは帝国随一の医療施設である。ホーエンツォレルン伯の三男坊と鶯尼の二人が始めたと言われる。現在ホーエンツォレルン伯はとっくの昔に御家とり潰しになっていたはずだ。八十年ほど前のことか。とかくその歴史は古い。そんな病院の個室である。鶯尼の話を延々と聞かされて正直うんざりだ。
『鶯尼、その者は昔帝都に居た尼僧。数多の者病の手当後に快復が緩慢にしてむしろ他の病にて死すを幾度とも看取りしに、天啓を得たり。手当が後の居寝環境を調えよと。教え子のホーエンツォレルン伯の三男坊と共に建てた施癒院は、その威力著しく。その死するまでその術を保ちて、或は後輩に伝授して往生す。その徳を称えて建つが顕徳鶯尼病院なる。』
戸が開いた。外からやってきたのは、エリカである。あいかわらず美しい。触れたら触り心地の良さそうな肌。きっと羽二重よりもしっとり手に馴染むだろう。本人の曰く、男に触れられたことは殆どないと言うが、さて、どこまで事実であろうか。なにかを決意したような顔。たぶんろくでもないことだ。と言うかこのあと予定があるんだが。
「抱いてくれないなら、抱けばよい、間違いありますかぁ?」
目が逝っておる。
なにかいろいろ吹っ切れ過ぎている。退却できるか?窓へは立てれば五歩か。左手は利かぬ。医者にも動かすなと言われている。血が足らぬ、たてば立ち眩みは必定、恐らく逃げることもままならず、ベッドに押し倒されるだろう。そのあとは、まぁ、一方的な蹂躙であろう。淫魔による一方的な蹂躙、それはある種桃源郷であろう。しかし、このあと予定があるんだ。その予定は楽しい愉しい親衛隊技術研究所である。あそこには色々な兵器を、いろいろな方法で研究するための設備がある。火砲の試作を可能とする工場。いや、鉄道車両ですら小形なものなら実際に製造し、構内の入換に活用されている。そんな研究所の視察、行かないなどという選択肢はない。
そんなことを考えていれば、いつのまにか抱きすくめられる身体。強い。目的の男をのがしまいとするそれ。淫魔の本能か、それともこの身に対する意思の現れか。最高の女とも言われるものに抱きすくめられることはやぶさかではない。でも、逃げねばならぬ。いや、逃げんでもいいか。こうなれば逆転の発想だ。発想の常勝無敗を目指すのだ。
部屋にまた入ってくる者の姿があった。ファルケンハイン少尉だ。エリカの頭をこの身の胸に押し付けてそれを悟られないようにする。彼女はすでに理性が飛んでおるから、何を仕出かすかわからん。
「御取り込み中でしたか。」
「気にせんで宜しい、少尉。これも連れて行くぞ。」
もぞりと動くエリカ。なかば腰に回していた腕を戻して、いそいそと服を着直す。それだけで先程の非常に淫卑な印象は失せて、楚々としたように見える。女は化けるとも云うし、究極の女とも言われる彼女ならそのくらい簡単なことであろう。胸元より襟首はすべてホック止めである。なるほど、それで手早く、か。ここまでおとなしく着いてくる理由は恐らく正妻の位置を非公式にでも既成事実化しようと画策しているのだろう。まぁ、なんだ。どうせ研究所事態が機密の塊だ、外に出るわけもなかろう。
二人に支えられながら病院の車寄せに出た。幾台か馬車が止まっているが、そのなかで異彩を放つモノがある。濃緑色に塗粧されたそれは床下から蒸気を僅に吐いている。馬はない。そして一人親衛隊の技師の作業装の男が何やら点検をしている。まるで自動車か。夢のようだ。あれほど技術が必要なものはない。それこそひとつの都市や国が必要なほどの総合産業である。産業ベースに乗れば、であるが。その男、こちらに気がついて様にならない挙手の礼をした。こちらは戦闘帽も手にしていないのでただただ、軽く会釈して、作業に戻るように言う。
「いえ、もう出せますので。」
ファルケンハインが後席の扉をあける。エリカを先に乗せる。マナー?知らんな。そして席につく。ファルケンハインは扉を閉鎖して前席についた。運転席には先程の男。して間もなく車は床下から蒸気を吐きつつ動き出す。それもすぐに収まり、あとは軽やかに速度をあげて行く。先程のはシリンダ内のドレンを切ったのだろう。ならばこの車は蒸気駆動か。思わずに言葉が出る。
「この車の構造はどうなっておるのかね?」
運転席の男が答える。
「閣下、研究所につけばこの車を持ち上げる機材があります。それを用いて解説いたします。」
「宜しい。楽しみにしておるぞ。」
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2018.4.14
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