へっつい
いつのまにか鬼の邦の都心、馬鉄の駅にいる。全くそれまでの記憶がない。横たえられた自分の顔を覗き込んでいる女。残念ながらよく見えぬ。目が霞んでいるようだ。その時に聞こえた汽笛のような音。一間当り三貫目という非常にへろっとしたレールを走れる機関車など、作らせた覚えはない。まぁ、作られていてもなんの不思議もないか。
やって来たのは全長十一尺あるかないかのちっぽけな機関車だ。ボイラ中心高は異様に低く、まるで恥ずかしがって布団に潜り込んだ少女のようである。そこまで見て全く自分の目の現金さに気がつく。全く都合のよい目であることよ。客車はどう見ても馬車鉄道のそれをそのまま流用している。車掌が合図をして機関車が、切り離される。そして三貫目レールよりも細いへろへろの機回し線をよたよた走り、今度は反対側に連結している。機関車の向きは変えていない。しかるの後に列車に乗る改札であるが、これは完璧に省略された。どうやら扱いは臨時の団体列車のようだ。ただちにやって来た続行列車。機回し線側に到着したそれは馬が引いていた。どうやら動力は混在しているようだ。給水作業などもっと見ていたかったが、叶わずすぐに客車の中に引き込まれてしまった。そして手早く出された発車合図と共に走り出してしまう。閉塞方式は何かとかとにかく鉄道の運転作業が見ていたかった。
と、ここで気がついた。ユキが居るのである。シレーッと居るものだからかえって気がつかなかった。思うように声を発せぬほどにあるこの身の状況。しかし、何を汲んでか勝手に話し始める。
「別に、あなたに負けたからじゃない。エリカ様に付いて行くためだから。それに、よく考えたら、あなたの側にいればこの国の美姫はいくらでもあつまるんでしょう?なら、逃すわけがないじゃない。」
なるほど分かりやすい。この身としては、男嫌いの吸血姫を手懐けたという実績が手に入り、ユキとしてもいま捌ききれぬ姫たちをくすねるにも良いし、互いの立場としては願ったり叶ったりである。よかろう。それはよい。さて、いまこの身を膝枕をしているエリカが何かを決心したようにも見えた。少しその気迫が恐ろしく、しかしこの抗いがたい眠気に身を委ねざるを得ないのがもどかしく。
2018.4.14
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