邂逅
仕立ての良い絹の衣。緋のそれが彼女の体の美しさを引き立てている。艶やかさを増した、といってよいだろう。彼女は、どんな服装を着せても華麗に着こなし、そしてエロチックである。そう、エリカ・フォン・ホーネカーであった。彼女はさらわれたあとに、着替えさせられたのだ。そして、いつもは抑えきっている魔力を僅かに開放している。そのためだろう、彼女を案内する鬼たちは内腿を擦り合わせるようにしたり、股に手が伸びては直前で思い止まろうとしたりしている。そもそも女好きが高じすぎて男嫌いになった姫につれてこられた連中が、『最上級の女』に反応しないはずがないのだ。
渡り廊下を歩く引率の二人とエリカ。その先の奥の間。そこにこの館の主がいるのだ。
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用水の水は上の方は全く凍ってないものだ。いよいよこれに浸かりながら行くことになる。覚悟を決めねばならない。
「諸君。これより志願者を募る。この川を歩いて行くぞ。覚悟のあるものは続け。他はここで待機せよ。」
すぐに五人が手を挙げる。先頭にはファルケンハイン少尉。しかし、彼をつれて行くわけにはいかない。
「ファルケンハイン、貴様は残れ。残存部隊に将校がいなくてどうする。」
「はっ」
ものすごく名残惜しそうに答えるファルケンハイン。なかなか良い奴だ。だが、先走る傾向がある。
志願した兵を引き連れて進む。紙製の薬莢は、漆で保護されているとは云え、雷汞水銀のところが弱く、濡れてしまっては撃てなくなる。弾盒を胸に引き上げて小銃弾を濡らさないように装具を整える兵。
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いま、二人の美姫が向き合っている。何人たりともその間に割り込むことはできないような緊張が張りつめる。方やいま恋に身を焦がす乙女のよう。そもそもこの部屋はあやしい部屋である。なにしろ『あやしい』深さの掘炬燵や、『あやしい』滑車や、この部屋がいったいどのような用途なのかを明確にしている。それを横目にちらと見て、嘆息するのは反対の姫。もちろんエリカである。恋に身を焦がしているのは、この屋敷の主である吸血姫、オオヤマ・ユキであった。
「一度でいいから、貴女に逢いたかったの。」
ユキは興奮に上ずった声で言う。
「最高のサキュバス、すなわちこの世でまたとない最高の女である貴女に。」
言われた側は極めて無感動にため息をつく。あまりに言われ馴れていることだ。そしていまやそれは言われれば言われるほどに惨めになる言葉である。本当に言ってほしい人には見向きもされやしない。彼はのらりくらりかわし、そして、戦争にとりつかれている。
「その整った顔、豊満でいて形も美しいその胸、それでいて細い胴の括れも、どんな男も骨抜きにするという極上の腰回りも、白魚がごとき指も、みんながみんな、素敵。」
そうだ、自分はこんなに素敵なんだ。求めてくだされば、いつでも貴方様のために。だから、貴方様のためにこの鬼を手込めにでもしましょうか。身体に触れようと伸びてきた手首をつかんで、反対に押し倒す。本来ならびくともしないだろうが、半分以上魅了されているそれは、あっさりと押し倒される。すでに蕩けたその顔。首筋に息を吹き掛ければ、それだけで可愛く身体をくねらせるユキ。嗜虐心を擽るそれ。
「さぁ、私のキス、受けてみる?もしかしたら、それで壊れちゃうかもね?」
その時行きなり障子戸が開いた。
「ついに、着キマシタワー‼」
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濡れて身体を芯まで冷やしたまま、館に浸入する。奥の間のすぐ裏手にある池に出た。障子に映る部屋のなか。女二人が何か向き合っているようだ。じっとしてたらたぶんこのまま凍えて死ぬだろう。だから、ずけずけと近づく。目標は目の前にいるのだ。縁石のところで長靴を脱ぎ捨てて、縁に上がる。兵も赤なめし革の半長靴を脱ぎ、つづく。そして、目の前の障子戸を勢いよく開ける。中では二人の女が睦あっていた。思わず変な発声になった。
「ついに、着キマシタワー‼」
と。
2018.4.14
以下転載防止文字列
反動中共粉砕、民主化‼不忘六四天安門同志‼習近平黄熊殴殺‼




