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異世界で大元帥  作者: General der Nationale Volksarmee
創設期(仮題)
25/60

特殊能力と酒煙草

 さて、異世界転生だとか転移だとかのテンプレートならば、その主体は何らかの特殊なる技能をもって快刀乱麻を絶つとばかりに無理難題を解決するのだろう。さて、それに関して自分は何一つない。日常生活に支障をきたすほど魔力がないとか。というか普通完全に魔力が無いのは死体だけというが、この体には全く魔力がない。それどころか魔力から絶縁されてるとか。剣も使えんし魔法もなければあれだ。ただの愚物がここにいる。

 『帝国の指導者』それは呪いだ。この呪いに縛られて、玉座から逃れることはできない。側近たちももはや一蓮托生だ。何しろ無能なる愚物を召喚したともなれば、一族郎党皆殺しが待っている。だから守り立てる、守り立てるしかないのだ。そして根回しもする。生き残るために。死ほど恐ろしいものはない。敵になりそうなのは遠ざける。近づけてはならない。弱さにつけこまれるだろう。


 ライヒスフューラー。それは偶像であらねばならぬ。金貨のように。偶像は、強くあらねばならぬ。そして強くないこの身は、いつ寝首を掻かれるとも知れない。政略もかねて送り込まれる『閣下のための』美姫が暗殺者とも限らない。彼女らの鋭利な爪でも、金物のごとく強い牙でも、我が身は容易く引き裂かれるだろう。気の休まることがなくなった。執務室で酒を煽り、煙草をふかすことが増えた。あれだ。古今東西独裁者が太ってる印象があるのは、恐れから、というのもあるだろう。気をまぎらわす為に、どうしても手放せなくなった。これでは不摂生で数年のうちに死ぬかもしれぬ。死を恐れてむしろ死を近づけている。でも、やめられないのだ。呑んでいる間は何者にも邪魔はされないし、煙の行く先を目で追うのが唯一の楽しみになってしまって以来。

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