一時の幸せ
臨時鉄道省と商工省の会合は無事に解決した。と言うか根回しとかそんなものは先に終わっている。『帝国指導者臨席の会議で決定した』と言う形にするための会議だからだ。よって時間通りに終了した。中でも蒸気機関車の模型デモンストレーションには感動した。数十貫目の重りを載せた貨車を馬より速く、牛より力強く牽く五分の一サイズの機関車。それがこの国を縦横にはしる本物の鉄道に繋がることになる。ついでに鉄道省の編制も完了したから、明日から臨時の文字はなくなる。そのうち大重量貨物列車や軍臨ダイヤ等も見られるようになるだろう。
町に出る。日が当たり、心地よい散歩日和である、と言うか町のなかは駕籠か乗馬か徒歩しかない。まあ、代八車があるこの国で、人力車が出る日は近いだろう。つか馬車あるのに何で代八車の方が普及してんだ、この国は。明らかにこの国は何等かの強固な意思が関与しそのあり方を歪めている。おそらく、馬車の方が異物に見えている今がおかしいのだ。そうでもなければ石畳と言うものが見られることはない。その石畳も、普及していないが、よく調べれば五百年前にはむしろ悉く石畳であったと言う資料すらある。三百年前の前任が石畳を廃したとも聞く。道が良かったら攻め込まれやすくなるとかな。テメーは竜王だからいいだろーが一般庶民の交通手段を奪うんじゃねーよ。物的流通が途絶してんじゃねーか。
近くの二八蕎麦に気がついた。そういや腹が減った。十六文あれば手早く食える、これが二八蕎麦の強み。蕎麦はこの国では割りと一般的である。と言うか何故か魔族の食文化は和なのだ。微妙な差異があるが、誤差だ。だから食事で口に合わないと言うことはない。鰹節擬きの出汁もよく効いてるな、この店は。素材の名はと形は異なれど、出来上がった料理の見た目と味が同じなら同じなんだよ。幸せだ、これで戦争さえなければ。戦争を終わらせるためにこの国を作り替えるまでだと決めたが、この幸せもそのうち無くなってしまうのではないか。近代化は常にそうだ。人の幸せと言うものを無視して勝手に走り行く。その力はきっとどんな機関車よりも強く、速い。そのボイラに火を入れたのは自分だ。そして近代軍隊が戦う地獄を作る覚悟はある。それらすべての業を背負うのも覚悟せねばならない。さて、本当に美味しい蕎麦だった。支払いも単純、現金しかこの国にはないからな。十六文きっかりの明瞭なお値段。ああ、今だけは、この幸せに溺れてしまおう。
2018.4.14
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