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ふぇんりる!  作者: 豊縁のアザラシ
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EP-91 初めてづくし

 私は今日、皆んなと一緒に隣町の映画館に訪れている。今まで大きなスクリーンで鑑賞するなんて今までやったことが無いから内心とても楽しみにしていた。

 色々な広告を眺めながら何を観るのか全員で決める。とは言え私はよく分からないから皆んなに全てをお任せして一人ワクワクしているだけだ。

 でも一つだけ条件は提示したよ。ホラー系は断固拒否すると。もしもどうしても観たいのなら私は外で一人ポップコーンを食べる不思議ちゃんになることだろう。折角遠出したのにそれは寂しいな。


「さて、まずはどのジャンルにするか決めないとな」

「あんまり殺伐としたものはやめておきましょう。言ノ葉さんには刺激が強いわ」

「となると戦争系はパスか。アクション映画はものによるな」

「ミステリーとかサスペンスは?」

「私そういうの観ると眠くなっちゃう。アニメなら平気だけど」

「言ノ葉さんが好きそうなのはミュージカル系だろうけど」

「生憎そういうジャンルは今は無いみたいね」


 この時期は毎週放送しているアニメの劇場版が観られるのか。私でも知っている有名なタイトルで、毎年新作を公開しているんだよね。

 こういう類は子ども向けのイメージがあるけど、アニメの種類によっては大人の世代までファンがいる作品も多い。

 とりあえず何かを観るならこうした有名どころを選べば、つまらないということはまず無いだろうな。


「あの宣伝広告をみてあの尻尾の動き。どうやらアニメ映画に興味があるみたいだ」

「幼児向けのやつが好みって訳では無いか。さすがに」

「普通に楽しく観そう。ちびっ子に混ざっても違和感無いし」

「体裁が悪いから避けているだけか」


 この映画の監督さんの名前は聞いたことがあるぞ。数年前に作品が大ヒットして、それ以降面白い映画を作っていると愛音や琴姉ぇがよく話していた。

 舞台は現代だけど、ファンタジーやSFなどのフィクションを取り入れて独特の世界観を創造している。

 日常にあるかも知れない非日常の世界。とても親近感が湧くのはどうしてだろうか。


「どうやらあれが気になるらしい」

「そうみたいね。耳まで動いているくらいだし」

「あーあれ面白いよ。監督のらしさが出ていて一回は劇場で観るべき映画だよ」

「私と稲穂は前に観に行ったね」

「2回目か。それなら別のにした方が良いかな」

「いやあれにしよう。何回観ても面白い良作だから」

「決まりね。言ノ葉さーん」

「なぁにー?」


 猫宮さんに呼ばれて皆んなと合流。チケットを買うために券売機に並ぶ。先に買った良介に倣い無事に入手した。

 次に用意したいものは鑑賞中に食べたい軽食だ。映画館でポップコーンを食べるのって1回やってみたかったんだよね。


「えっ、ポップコーンってこんなに高いんだ」

「映画館にある飲み物や軽食なんてこんなもんだぞ」

「飲み物だけでも家から持って来れば良かった」

「残念。ここは飲食物の持ち込みは禁止だよ」

「むー」

「映画館側の大切な収入源だから。割り切って楽しもうよ」


 しばらく悩んだ結果、ポップコーンは皆んなから分けてもらうことにして飲み物だけ買うことにした。

 スクリーンがある部屋に入る前にスタッフからおまけのパンフレットをもらい、チケットに記された指定席に座る。椅子の肘掛けにジュースを置くといよいよ雰囲気が出てきたね。


「ねーメイメイ。私と席変わってよー」

「メイメイじゃなくて芽衣理(めいり)よ。あとその相談は聞けないわ」

「それなら私と変わって。ランラン」

「誰がランランだ。稲穂は言ノ葉さんの隣に座りたいだけでしょう。それとパンダみたいな名前で呼ばないで」

「良介、ポップコーンちょうだーい」

「おぅ、良いぞ」


 隣で行われているやり取りは放置して口寂しさを紛らわせる。

 私語は控えてスマホはマナーモードにして触ってはいけない。勿論撮影をするのは禁止と。なるほどなるほど。


「はーい私の勝ち。ほら退いて退いて」

「くっ、狐鳴さんってこういうとき本当に勝負強いわね」


 全員の席が決まりほど無くして部屋が暗くなり映画が始まった。



*****



「ふえぇ、良かった。良かったよぅ」

「よしよし」


 無事に映画を鑑賞してその感動的な結末を見届けた私は部屋を出た後も感情を溢れさせて号泣していた。再放送をテレビで観るものとは味わえない迫力と臨場感。

 これが本物の映画。なんて素晴らしいものだろうか。是非ともまた皆んなで来たいと思った。


「ここまで感情移入して映画を楽しむヒトは初めて見た」

「映画を作ったヒトも本望だろうな」

「ハンカチあるけど使う?」

「大丈夫ぅ」


 他のヒトにはお見せできない姿で外を歩き回る訳にはいかない。皆んなで話し合い、一先ず近くのカラオケボックスに入って私が落ち着くまで時間を過ごすことになった。

 ご迷惑をおかけして申し訳ありません。


「勢いあまってここに来たけど、カラオケは初めてなのよね」

「とりあえず何か食べようか。ポップコーンだけじゃあお腹は膨れないもん」

「俺は唐揚げとポテト」

「私はサラダ」

「人数いるしオードブルでも頼もうか」


 思い思いに欲しいものを注文する皆んなの姿を眺めている間に結構な品数が注文される。私は飲み物だけ頼んで皆んなから少しずつ分けてもらえば良いや。

 だってここにある食べ物よりママが作るご飯の方が美味しいもん。値段もカフェの方が安いし。ここでお腹を満たすのは勿体無い気がするんだよね。


「詩音ちゃんは飲み物どうする?」

「お茶にしようかな」

「なら私もお茶にする」

「私も」

「俺もとりあえずお茶で」

「お揃いだー」

「高校生が集まったカラオケでお茶しか飲まないなんてことある?」


 様々な飲み物や食べ物を注文できるのはカラオケの長所だけど、本来の用途は歌を歌うこと。予定には無かったが折角来たからにはそれを楽しまないのは損だよね。

 問題なのは楽器を演奏するのは好きだけど歌の経験はほとんど無いということ。別に嫌いでは無いけど上手く歌える自信もない。

 それに十八番とかも無いから選曲をするだけでも一苦労だ。いきなり指名されたらどうしよう。国歌でも歌ってやろうか。


「それじゃあトップバッターは私ね。カラオケ素人どもよ、私の美声に酔いしれるが良い」

「中学卒業したときに私と一回来たきりなのによく言うよ」

「バラすな雲雀ぃ!」


 狐鳴さんが選曲したのはとあるアニメのオープニング曲だった。元々は漫画で面白いと話題になった作品らしい。

 原作は知らないけど曲は知っている。歌に合わせて器用に合いの手を入れる飛鳥さんと良介を見ている間に狐鳴さんの熱唱は終わった。


「狐鳴さん歌が上手いんだね。驚いたよ」

「どやぁ。と言いたいところだけど、それなりに練習したからね」

「その努力の成果ははたして何点になるのかなー」

「えっ、これ点数出るの?」


 良介に習い画面を見ていると、確かに歌唱力を点数化されて表示された。

 まるで学校でやった音楽の試験みたいだけど、平均点の基準がどのあたりなのか分からないや。80点くらいなら充分高得点だと思うけど。


「普通に上手いのか。つまらん」

「柄にも無く真面目にやったんだけど。90点の壁は厚いなー」

「カラオケの点数は上手さというより原曲にどのくらい近いかだから」


 そう言って次の曲を設定してマイクをもらう良介。対する未経験3人は楽器を手にして適当に鳴らす。私のマラカスでこいつの歌を台無しにしてやるのだ。

 因みに歌の点数は狐鳴さんより低かった。まぁ、音も外れていたしリズムも少し狂っていたから妥当だと思うけどね。

 それから飛鳥さんとナツメ君も好きな曲を選びマイクを手に取る。


「うーん。初めてならこんなものなのか」

「ナツメ君は全体的に声が小さかったから仕方ないよ」

「カラオケより詩音のアドバイスの方が的確で点数伸びそう」

「それな」

「今のところ得点の1位は稲穂か。残りは猫宮さんと詩音ちゃん。前座はこれくらいにして本命いってみよー」

「頑張って猫宮さん」

「言ノ葉さん。それ本気で言っているの?」


 猫宮さんが珍しく怖い顔を向けてきた。また何か気に障ることを言ってしまったのだろうか。

 カラオケは初めてだけど皆んなの歌い方を聴いて高得点を採るための方法は分かった。それができるかどうかはまた別の話だけど。

 曲は皆んなが歌ったものから適当に。1番楽しそうだった狐鳴さんと同じ曲にしよう。

 飛鳥さんに機械を操作してもらい曲を登録。マイクを受け取って流れる音楽に沿って歌を歌う。誰かの前で歌うのは慣れていないと緊張するな。


「得意な曲なのに惨敗した。む、無念」

「相手が悪かったねー」

「初見でこれとか最早人間業では無い」

「確かにもう人間では無いけども」


 映画にカラオケ。初めてづくしで大変だけど、友達と楽しく過ごすことができてとても充実した1日を過ごすことができた。

 猫宮さんの歌?その結果は、うん。触れない方が良いと思うよ。

詩「皆んなで映画、楽しかったね。また行きたいな」


鮫「それは良かった」


猫「どのシーンが印象に残ってる?」


狐「中盤に展開が変わって驚いたところとか、クライマックスで目を輝かせるところとか、終盤の感動シーンで思わず泣いちゃうところとか。挙げたらキリがないよ」


鳥「そうだねぇ」


狼「そんなシーンあったか?」


狐「一番最初の大きな音に驚いたところとか凄く良かった。詩音ちゃんのリアクションが」


詩「何で私!?映画を観てよ」


狐「1回観た映画より詩音ちゃんの初見のリアクションの方が貴重だから」


皆「確かに」


詩「何それぇ」

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