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ふぇんりる!  作者: 豊縁のアザラシ
83/199

EP-83 くじ引き

「それじゃあ皆んな。出発するぞー」

「「「おー!」」」


 パパの呼び方に集まった全員が元気良く返事をする。海水浴に行くだけだと言うのに、気付けば随分と大所帯になったものだね。

 今回一緒に出かけるのは言ノ葉一家5人と私と仲が良いいつものメンバー5人。そして昨日突然の参加を決めたゲスト1人の合計11人だ。さすがにこの人数で動くのは大変だから、我が家にある車とは別にレンタカーを借りることになった。

 ヒトも荷物も沢山入る自動車をパパが運転してきたところでいざ出発。と思ったのだけど、事はそう簡単には運ばなかった。


「はい!私はしーちゃんと同じ車に乗ります」

「はい!私はしー姉ぇと同じ車に乗ります」


 ほぼ同じタイミングで宣言をしたのは狐鳴さんと愛音だった。2人は自分と近しい思考を持つ相手を視線の先に捉える。

 緊迫のひと時。次の瞬間、2人はお互いの手を固く握り締めた。


「「同志!」」


 気の合う仲間を見つけたことがよほど嬉しいのか、笑顔の花を咲かせる2人。喧嘩にならなかったのは良かったけど紛らわしいことはしないでね。

 しかしこの2人と同じ自動車に乗ると目的地に着く頃には私の気力は使い果たしていることだろうな。彼女達を同時に相手するのは荷が重い。

 さっさと自動車に乗り込んで出発するとしよう。そう思い私は自分の左手の中に小さな手を収める。


「それじゃあ行こうか。ノアちゃん」

「あい!」


 本日のゲストこと、海月(みつき)乃亜(のあ)ちゃん。実は彼女の母親の仕事がまた忙しくなり始めたので、時々こうして預かる機会が増えていたのだ。

 そして折角だからと今回の海水浴に誘ったところ、前のめりになって了承してくれた。それからずっと楽しみにしていたのか、未だ出発していないのに随分とご機嫌である。

 視線を合わせると満面の笑みを見せてくれるノアちゃん。それだけで心が癒されます。


「さぁ、仁義なき戦いの始まりだ」

「どの自動車に乗るか決めるだけなのに大袈裟だなぁ」


 強い覚悟を決めたような真剣な顔をする良介。その割には内容はしょうもないけど。

 自動車は2台あるが、ママが運転する我が家の自動車には他に4人しか乗れない。必然的に残りの5人とパパはレンタカーに乗るため、どうしても2組に分かれる必要があるのだ。

 さてどうやってグループを分けようかと思案していると、良介がくじ引きができるツールをスマホの画面に映していた。スマホってそんなこともできるのか。


「じゃあまずは詩音からな」

「何故に私からなのか」

「全員が1番気になることだから」


 良介の言葉に皆んなが頷く。別にどっちでも構わないから良いけどさ。強いて言うならレンタカーに乗ってみたいくらいだし。

 さっさと終わらせようとすると、か弱い力が私の手を引っ張った。それはつぶらな瞳で私を見上げているノアちゃん。そうだ、この子と別々の自動車に乗るという選択肢は無いな。


「私のぶんもお願いして良い?」

「あい!」


 一緒にいるから安心してね。その気持ちが伝わったのか、ノアちゃんは嬉しそうにまた笑う。可愛い。

 彼女に運命を委ねた結果、私はパパが率いるレンタカーチームになった。さすがノアちゃん、引きが強い。


「しーちゃんと一緒、しーちゃんと一緒。来い来い来い来いぃやああぁー!」

「煩悩にまみれているからそうなる」

「私は狐鳴を慰めるからパスでいいや」


 四つ這いに崩れた狐鳴さんの背中をさすりながら飛鳥さんはそう言った。どうやら初めからこうするつもりだったらしい。


「こういうのは無欲で挑まないといけないんだよ。いつもの変わらない自然体でやれば何てことはなぁんでえぇー!」

「あなたは自然体から既に欲望に染まっているからよ」


 その場で倒れた愛音に冷たく言い放つ琴姉ぇ。出かける前から服を汚すようなことをしないで欲しい。後で洗うの大変なんだから。

 その後もグループ分けを行った結果、パパチームとなったのは私とノアちゃん、琴姉ぇ、猫宮さん、良介の5人。ママチームは愛音、狐鳴さん、飛鳥さん、ナツメ君となった。


「俺達のグループ。既に半分が意気消沈しているのだけど」

「鮫島君。ファイトよ」

「それじゃあ行こうか。大狼君は助手席ね」

「ざっす!今日はよろしくお願いしまっす!」

「急にどうした」


 パパに肩を叩かれた途端に汗を滴らせる良介。確かに今日は快晴でとても暑い。早いところエアコンが効いた自動車に乗りこむとしよう。


「ちゃんと荷物持った?スマホとか家に忘れると大変よ」

「んー、うん。ちゃんとあるよ。準備ばっちり」

「その割には随分と身軽そうだな」

「ふふん。実はもう水着を下に着ているからね」


 これから行く海はこの時期結構ヒトが多い。もしかすると落ち着いて着替えられないかも知れないと思い既に装備しているのだ。時短にもなるし我ながら良いアイデアだと思う。


「詩音。服の下に水着を着ていることを男の子に言っちゃうのはどうかと思うわ」

「どうして?」

「それじゃあ大狼君。そこにある荷物を全部積み込んでくれたまえ」

「う、うっす」

「こうなるからよ」


 パパの指示に従い山積みの荷物を運び始める良介。指示を出したパパと言えば彼の背中を見ているだけで何もせずに仁王立ちしている。なんて|大人気〈おとなげ〉ない大人なんだ。


「早く遊びに行きたいし、手伝いに行こうか」

「んっ!」

「頼むから何もしないでくれ」

「なんで!?」


 両手に荷物を抱えたままいつになく真剣な表情で断る良介。ヒトの行為を無碍にするとは酷い男である。

 その後もせめて理由だけでも聞きたいとノアちゃんと2人で付き纏うものの、良介は何も語ることはなかった。

 とりあえず汗を流して頑張る彼に手を貸さないパパとは口を効かないようにしよう。

愛「狐鳴先輩、お近付きの印にこれを」


狐「なっ!これは寝起きのしーちゃん!何というレアな1枚。では代わりに私もこれを」


愛「これは!?体育の授業でダンスをするしー姉ぇ!普段絶対に見せない激レア写真だよ。これを上回るのはこれしかない!」


狐「はわぁ!尻尾を抱き枕にしたままソファでうたた寝するしーちゃんだ!こんな無防備な姿を晒しちゃって。天使かよ」


鳥「面白そうなことをしているね。なら私もをこれを提供しよう」


愛「ぐはぁ!?黒猫と戯れるしー姉ぇだとぉ!」


狐「小動物としーちゃんの組み合わせは反則だよー」


鮫「写真交換会、楽しそうだねー。本人が知ったら羞恥心で発狂しかねないけど」

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