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ふぇんりる!  作者: 豊縁のアザラシ
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EP-70 二極化

 七月も下旬に差し掛かり、待望の夏休みが目前に迫るこの頃。長く待ち望んだ楽園を前にして、学生達の前に立ちはだかるものこそ前期期末試験という名の絶壁である。

 桜里浜(おりはま)高校の試験は国英社理数の基本五科目赤点を採ると先生方から補習という名のプレゼントを受け取ることになる。勿論拒否権は無い。


「なぁ、この都市伝説を知っているか?2年生になると社会は地理、日本史、世界史に分かれて、理科は化学、物理、生物に分かれてそれぞれ別に試験があるらしいぞ」

「それ入学のときに貰った資料に書いてあったよ」

「マジで!?」


 驚いている良介だけど、2年生からは理系と文系で勉強する内容が変わるから当たり前だよ。どちらにせよ琴姉ぇから懇切丁寧に教えて貰うのは変わらないけどね。

 しかし今はそんなに先のことを考えても仕方がない。大切なのは先週に行った試験の結果だ。赤点さえ回避していればそれで良いのである。


「言ノ葉詩音」

「わふっ」


 名前を呼ばれて最後の答案用紙を受け取る。琴姉ぇに教わり、皆んなと勉強したお陰で平均点は余裕を持って超えることができた。

 席に着いて安堵の息を漏らす。程なくして同じように答案用紙を受け取ったナツメ君と結果を見せ合う彼も問題無さそうだ。


「うわっ、総合点負けてる。ちょっとショック」

「でもナツメ君の方が3科目も点数勝っているよ」

「そうは言っても僅差だしなぁ。英語なんて惨敗だし」

「えへへ」

「くぅ、英語のテスト学年2位か。悔しいわ」

「他の科目で全部1位の奴が何か言ってるぞ」


 総合成績にて堂々トップを飾ったのは我らが猫宮さんである。ほぼ満点という快挙だけどそんな彼女から1科目だけでも点数を上回った猛者がいるのか。私には想像もつかない頂点の世界だ。

 会話に混ざってきた良介はというと、一部危ない科目もあったが補習は無事に回避したらしい。気を良くして補習を免れれば全て満点と言う始末だ。

 浮かれる気持ちは分かるけど、調子に乗ると夏休み明けてから足下を掬われるぞ。


「夏休みはどうしようか」

「まずは宿題を片付けるわ。後半の数日にちゃんと復習すれば休みが明けても授業に置いてかれることはないと思うし」

「英語なんて大嫌いだぁ」

「やっぱり海とか行きたいな」

「泊まりは流石に俺達だけでは厳しいか」

「理科なんてクソ喰らえだぁ」

「あっ、私夏祭りとか皆んなで行きたい。友達とお出かけってあまり経験ないけど」

「ヒトが多いところはまだちょっと」

「補習嫌だよぉ。行きたくないよぉ」


 途中に挟まる呪詛に否が応にも会話が止まる。その根源がある方を見れば狐鳴さんが机に突っ伏して白目を剥いていた。理由は言わずもがなである。

 そう言えば皆んなで図書館に行ったときも1人だけ気絶していたな。確かその原因は。


「いつか女子だけでスイーツバイキングに行こうね」

「えぇ、そうね」


 全く気にした様子もなく満面の笑顔で誘って来る飛鳥さん。対して声をかけられた猫宮さんは若干苦笑いを浮かべている。

 たぶん私も同じ反応をしている。彼女の胆力を半分でも分けて貰えばもっと生きやすくなると思う。


「お前達、私語は慎め。桜里浜高校の生徒として自覚を持ち、夏休みだからと羽目を外し過ぎないように」

「「はーい」」

「我々教師の手を煩わせることをすればどうなるか。分かっているな?」

「「ハイッ、猩々先生!」」


 皆んなの心が一つになったところで先生の授業は終了となった。

 夏休み前の最後のお弁当を広げるといつものように机を合わせてくれた。


「おのれリア充どもめ」

「過ぎたことは仕方ないでしょう。いつまでも淀んだ空気を出さないでよ」

「私の稲荷寿司。あげるから元気出して」

「それなら私は稲荷寿司をあげる」

「じゃあ俺からも稲荷寿司を」

「全部稲荷じゃん!何で皆んなのお弁当に揃って稲荷があるのさ!ありがたく頂きます!」

「なんか供え物みたいだな」


 やけくそだと言わんばかりに猛然と稲荷寿司を食べる狐鳴さん。やっぱり彼女は空元気でも賑やかでいる方が似合う。


「ところで飛鳥さん。あの猫の調子はどうかな。元気にしてる?」

「そりゃあもう。ご飯を食べて一日ぐっすり眠ったらすっかり元気よ。知らない場所で緊張するかと思ったけど家中走り回るくらい楽しんでいるわ」

「良かった。今度様子を見に行っても良いかな」

「勿論。ついでにウチのきなこも紹介させてね」


 きなことは飛鳥家で以前から飼っている柴犬の名前だ。新入りの黒猫も寛容に受け入れて仲良くしてくれているらしい。

 そう言えばあの黒猫にはまだ名前が無かったよね。遊びに行ったときにでも飛鳥さんと相談しよう。


「私も行く。きなこをもふもふするために絶対に行く!」

「アレルギーあるんだからやめておけよ」

「動画と写真ならいつも送っているでしょ。それで我慢しなさいよ」

「画面越しでは私のもふもふ欲は満たされないの。そこにしーちゃんと黒猫が加わったとなれば尚更ね」

「確かに3匹が仲良く戯れている様子は見てみたいかもな」

「3匹じゃない。2匹と1人と言え」


 良介の言葉を訂正しつつ私はこれから訪れる夏休みの予定を考える。

 思えば家族以外の誰かと遊ぶなんて初めてかもしれない。今までとは違う夏の訪れを前に私は尻尾を左右に振った。

鮫「しかし猫宮さんは凄いね。5科目ほぼ満点なんて」


猫「そりゃ頑張って勉強したもの」


鳥「音楽と家庭科は酷い有様だったけどね」


猫「音楽なんてできなくても受験に影響はないから良いの!」


詩「猫宮さん音楽嫌いなの?」


猫「あっ、いや。嫌いじゃないわよ。好き嫌いと得意不得意は必ずしも一致しないでしょ。確かにちょっと苦手だけど音楽は大好きよ」


詩「そうなんだ。良かったぁ」


狼「必死の弁明めっちゃ面白い」


狐「激しく同意」


猫「黙りなさいそこの2人!」

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