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ふぇんりる!  作者: 豊縁のアザラシ
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EP-67 里親探し

 子猫を飼うのは荷が重い。かと言って見つけた以上は見過ごすことができない。無責任でこの子にも申し訳ないけれど、私達は一先ず保護することにした。


「それで、そのまま学校に連れて来てしまったと」

「すみません」


 学校に着いた私達はまず職員室に向かった。子猫を連れたまま教室に行く訳にはいかないからね。

 猩々先生に見下ろされて、鋭い眼孔に突き刺された私は喉を搾り出すようにして謝罪の一言を紡ぐ。それを聞いて猩々先生は静かに手を伸ばし、「構わない」と一言告げて私の頭に手を撫でた。

 良かった。頭を握り潰されるのかと思ったよ。


「動物を学校に連れて来たことは校則違反だが、それはこの際置いておこう。充分に反省しているようだしな」

「うっす」

「とりあえず今日のところは職員室で様子をみておく。放課後になったら2人で動物病院に連れて行くこと。良いな」

「はい」

「飼い主になってくれるヒトを探すのも忘れるなよ」

「分かりました」


 もう一度頭を下げて職員室を後にする。とりあえず子猫が悪いようにはならなかったのは良かったが、飼い主が見つからなければそれも時間の問題だろう。

 あの子の面倒をみてくれそうなヒトはいるだろうか。知り合いの顔を思い出しながら皆んなが待つ教室へと向かう。


「しーちゃんおはよー!」


 いつもと変わらず賑やかな声が聞こえる廊下を通り教室に入る。するとドアを開けると同時に狐鳴さんが胸に飛び込んで来て、逃げる間も無く抱きつかれてしまう。

 可愛い女のヒトが無防備な姿を見せる様子に赤面して、緊張から動けなくなる。狐鳴さんの独壇場となった一瞬だったけれど、思わぬ形でこの拮抗が崩れた。


「うーん、いつもと同じ芳しい匂い。ありがたやありがたや、ってあれ?」


 ふと冷静なった狐鳴さんは私から離れて胸元に手を伸ばす。そして手に取ったのは登校中に抱いていた黒い子猫の短い毛。

 そのとき、かつての飛鳥さんが言葉が脳裏に蘇る。


『稲穂は動物全般のアレルギー持ちで触ることができないの。クシャミと鼻水で大変なことになるんだから』

「っくしゅ!はくしゅん!」


 思い出したときには既に手遅れ。狐鳴さんはみるみる顔を真っ赤にして目を充血させてクシャミを繰り返す。

 皆んなが突然の事態に皆んなが困惑する中、自身の身に起きた症状に心当たりがあるのだろう。狐鳴さんは顔を上げて私を見る。おそらく酷い顔をしている私と手にした毛を見て全てを察したみたいだ。


「うびゃああぁー!」

「ごめん!ごめん狐鳴さん!動物アレルギーなの聞いていたのに」

「その猫毛はボンベイでしょ!羨まじいぃー!」

「思っていた反応と違う!」


 怒られると思いきや溢れる羨望をぶつけられるというまさかの事態。涙と鼻水で可愛い顔を汚しながらも鞄からピルケースを取り出して慣れた手つきで服用する。

 それと同時に事情を把握している飛鳥さんが私に渡してきたのが粘着ローラー。ありがたくそれを受け取ると身体に付いた猫毛を綺麗に掃除した。


「ボンベイって何?」

「猫の種類の1つ。真っ黒な毛が特徴だって」

「ほんの少しの抜け毛を見ただけで当てたの!?」

「動物知識が凄過ぎるな」

「お前達、ホームルームの時間だぞ。席につけ」


 後から来た猩々先生に言われて各々の席に散っていくクラスメイト。いつもと変わらず授業が始まるが、今日ばかりは子猫のことが気になってあまり集中出来なかった。

 試験も近いのにこれは不味い。あの子のためにも早く飼い主を見つけてあげないと。

 上の空のまま午前の授業を終えて、昼休みに改めてクラスの皆んなに詳細を説明する。写真のデータも共有しておこうっと。


「くうぅ、めっちゃ可愛い。ウチの子にしたいー!」

「狐鳴さんは、うん。ごめんね」

「うーん、俺の家は動物を飼う余裕はないなぁ。ごめんよ」

「私の家も日中は誰もいないのよね。悪戯されちゃうと困っちゃうわ」


 やはり動物を飼うというのはハードルが高い。猫用のグッズを買い揃える必要があるし、爪研ぎに家具や壁をボロボロにされてしまうだろう。トイレの掃除も定期的やる必要がある。

 慣れないヒトがいきなり飼おうとしても上手くいかない可能性が高い。

 こうしてみると犬も猫も飼っている竜崎先生や戌神さんは本当に凄いなぁ。


「言ノ葉さん。もしもその子猫を僕が飼うと言ったらどうする?」

「元気がどうか気になるから定期的に遊びに行くかな」

「だったら飼う!」

「いいや私が飼う!」

「いや俺が!」

「私が!」

「いま挙手した奴ら全員失格!」

「「えー!?」」


 よく分からないけど過半数が飼育の権利を失ったところで話し合いが滞る。分かっていたことだけどそう簡単には飼い主は見つからない。

 どうしたものかと悩んでいたとき、満を持して1人が手を上げた。


「誰もいなさそうなら私が引き取ろうか」

雲雀(ひばり)!?」


 そう言ったのは1人で黙々と三段の重箱お弁当を食べていた飛鳥さん。驚く狐鳴さんを他所にスマホに送った子猫の画像を見ながらなんてこと無いという様子だ。


「飛鳥さんの家は大丈夫なの?」

「うん。私の家って無駄に広いし、お爺ちゃんとお母さんもいるからちゃんとお世話もできると思うよ」

「駄目だよしーちゃん。雲雀はヒトが可愛がっている動物を無節操に掠めとる酷い奴なんだよ」

「稲穂が小さい頃に顔をくちゃくちゃにしてまで隠れて飼おうとした柴犬を引き取っただけでしょうが」


 言い争う2人の話しを聞いたところによると、飛鳥さんは前にも似たような理由で犬を引き取ったことがあるらしい。

 そして狐鳴さんも私と同じように飛鳥さんに泣きついた過去があったという事実。最も彼女の場合は最後まで自分が飼うと抵抗したらしい。

 当時の彼女のご両親はさぞ説得に苦労したことだろうね。


「そういうことだから猫1匹増えるくらいなんてことないから。たまに様子を見にきてくれるのなら面倒をみてあげるけど。どうする?」

「分かった、是非お願いします」

「決まりね」


 笑顔で了承してくれた飛鳥さん。まさかこんなに早く引き取り先が見つかるなんて思わなかった。

 後ろでハンカチを噛み締める狐鳴さんを意識して見ないようにしつつ、私は彼女と握手をした。

校長「おやおや、大変そうですね猩々先生。なんでも担当するクラスの生徒が捨て猫を拾ったとか」


猩「校長先生」


校長「ペットの引き取り先を探すというのは中々難しいだろう。そこでだ。飼い主が見つかるまで私が預かってあげようじゃないか」


猩「お言葉は嬉しいのですがこれは私の生徒が起こした問題。これを収めるのは担任である私の役目です」


校長「成程。しかし君は動物を飼った経験はないだろう。そんな簡単な話ではないぞ。その点、私は既にももちゃんを飼っている。新しい子も馴染みやすいはずだ」


猩「日中の世話は妻がいるので問題ありません。それに私も妻も実家ではペットを買っていました。ものを揃えるのに多少時間はかかりますが既に準備を進めています。何も問題ありません」


校長「今から揃えるなんて考えが甘い。我家なら今日にでも引き取ることができる。その子は私が引き取るのが最適だ」


猩「校長、もうこの辺にしましょう。どうしても引かないと言うのなら、例えあなたが相手でも私はやらざるを得ない」


校長「良いでしょう。私は逃げも隠れもしない。君の全てを受け止めて、その上で完膚なきまでに制圧してあげよう」


教師「2人とも。推しの動物写真の見せ合いとかどうでも良いのでさっさと仕事をして下さい」

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