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ふぇんりる!  作者: 豊縁のアザラシ
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EP-65 知略

 それ以降も小次郎ちゃんの捜索を続けるものの、それらしい姿は見つけられなかった。今まで歩き続けていたこもあり、私達は近くの公園に立ち寄り休憩を挟んでいる。


「ふぃー」

「わふーん」


 缶コーヒーを片手にベンチに寄りかかる竜崎先生。私はその隣りで丸くなる。ヒトの姿ではとてもできない体勢がこの体ならできるから不思議だ。


「小次郎ちゃん、見つからないですね」

「仕方ないさー。空から探せる訳でもないんだから地道にやるしかないよ」

「あっ、それ良いアイデアですね」


 天啓を得た私はベンチから降りると近くにある木の下に寄る。何の変哲も無い木に見えるけれど、夜になると(すずめ)が集まり寝床にしている。

 彼らに捜索を手伝ってもらえないか協力してみよう。


『お休みのところごめんなさい。少しお時間良いですか?』

『なーに?』

『私いま猫を探しているんです。手を貸して頂けませんか?』

『良いよー』


 まさかの即答に拍子抜けしている間に雀達はあちこちに飛び去って行く。中には心当たりがある子もいたみたいだから期待しておこう。


「何してるの?」

「皆んなに協力をお願いしました」

「最早なんでもありだなー」


 飛び立つ雀達を見送る竜崎先生。それを他所に近くに集まっている(カラス)にも同じように声をかける。

 ついでに雀と喧嘩しないようにお願いするとそれも合わせて快く承諾してくれた。


「動物ネットワークとかもうチートじゃん」


 私の頭の上に戻って来きた雀。早速小次郎ちゃんらしき猫を見つけたという。雀はそのまま私の頭に留まり羽を閉じた。

 竜崎先生はのんきな表情で羽休めをする雀に乾いた笑いを浮かべる。こんなことできるなら最初に教えてくれと言わんばかりだ。

 私だってできるかどうかは半信半疑だったんだよ。

 雀の案内に従い歩いて行くと私の鼻もその気配を捉えた。アザラシのぬいぐるみと同じ匂い。間違いなく小次郎ちゃんが近くにいる。


「この辺りは小次郎が野良猫だったときに縄張り(テリトリー)にしていた地域だね。まだ飼われたばかりだから帰り方が分からず、ここへ戻って来たのかな」

「先生!匂いがしましたよ」

「ナイスー。風上を重点的に探すぞー」


 家と家の間にあるヒトが通れないほど狭い隙間。体を滑り込ませるとその子はいた。

 町の明かりを受けて光る2つの瞳。私の気配を感じて頭を持ち上げたその猫は写真と同じ特徴を持ったキジ猫。間違いなく小次郎ちゃんだ。


「見つけた!」

「でかした。でもここからだとよく見えんなー」

『うえっ、この匂い嫌だ!』


 竜崎先生が近付こうとするとその分距離をとる小次郎ちゃん。先生も心配して丸一日探し回ってくれたのにこの反応は悲しいな。

 報告に戻ると案の定、先生は四つ這いになって落ち込んでしまった。


「良いだろう。向こうがそのつもりなら俺にも考えがある。詩音君はちょっとここで待っていてくれ」


 怪しい笑みを浮かべて立ち上がる先生。駆け足で曲がり角に消える後姿を見送ってしばらくすると、小次郎ちゃんが声を上げて泣いた。

 振り返ると何かから逃げるように私に向かって走って来た。脇目も振らず私の目の前を通り過ぎようとしたので後ろ首を咥えて小さな体を持ち上げる。


『助けて!死神がやって来る!』

『大丈夫ですよ。私が一緒にいますから』


 死神呼びが意外と広まっていることに内心で笑いつつ、小次郎ちゃんが落ち着いたところで降ろしてあげる。

 丁度そのタイミングで竜崎先生が戻って来た。また逃げるかもしれないと思ったけれど、意外にも小次郎ちゃんは私に身を寄せるだけで動かなかった。

 この場を離れるよりも私の側にいる方が安心できると思ったのかな。もしもそうなら嬉しい。


「おー、やっぱり出てきてくれたみたいだね」

「どんな方法を使ったんですか?」

「別に何も。ただ風上に移動しただけ。薬の匂いから逃げるのならそれを利用して誘導できるかなと思ってさ」


 若干羨望(せんぼう)の視線を向けつつも種明かしをする先生。確かに何もしなくても動物が懐いて寄ってくるなんて動物好きには堪らないのだろう。仕事で動物達と触れ合うなら尚更だ。

 いずれにせよ迷子を見つけられたのならそれで良い。竜崎先生は直ぐに笑顔を見せると飼い主に連絡を取った。

 それから飼い主が迎えに来るまでの間、小次郎ちゃんは私に顔を擦り寄せて決して離れることはなかった。

詩「ただいまー。今回も無事に獣化を乗り切ったよ」


琴「おかえりなさい」


父「詩音、どうして頭の上に雀がいるんだ?」


詩「訳あって友達になったけど懐いちゃったみたいで。離れてくれないんだよ」


母「あらまぁ。なんて愛くるしいのかしら」


愛「小動物を装備するなんて。しーねぇは天才的に可愛いを突いてくるね。これはもう才能だよ」


詩「そんな才能は要らない」

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