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ふぇんりる!  作者: 豊縁のアザラシ
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EP-51 授業の準備

 言ノ葉詩音を取り巻く仲間達はクラスの中でも個性が強いものが多い。幼馴染の大狼良介(おおがみりょうすけ)。クラスのムードメーカーである狐鳴稲穂(こめいいなほ)。暴走しがちな彼女の手綱を握る飛鳥雲雀(あすかひばり)。言葉にし難いこともはっきりと口に出してしまい、人間関係に摩擦を起こしやすい猫宮(ねこみや)芽衣理(めいり)

 それらと比較するとだいぶ平凡な性格をしているのが鮫島(さめじま)(なつめ)である。誰に対しても態度を変えず平等に接することからクラスメイトとの交友関係を広く持つのも彼だ。


「なぁ、サメよ」

「どうした」

「言ノ葉さんって見ているだけで癒されるよな」

「それ本人に言うと微妙な顔をされるから気をつけろよ」


 授業の合間の休憩時間。鮫島を捕まえた槌野(つちの)は何気ない日常会話の後にふとそんな言葉を発した。対して鮫島は最近本人と話して分かった情報を伝える。

 誰の目から見ても愛玩人形のような愛嬌がある詩音だが、話してみると元男という話が納得できるくらい話しやすい。逆に見た目通りに女性として接すると、不満そうに頬が少し膨らみ尻尾の揺れ方が変わる。実に分かりやすい感情表現だ。


「槌野。ちょっと話しがあるんだけど」

「どうした小鹿」

「どうしたじゃないの。あなた陸上部の朝練に来なかったでしょ。理由を聞かせてもらおうじゃないの」

「いや俺も行こうとしたんだよ。でも重い荷物を背負ったお婆さんを背負って運んで、迷子の子どもを交番に連れて行き、目の前で起きた引ったくりの犯人を追いかけて捕まえていたの。そりゃ朝練も遅れるって」

「そんな訳あるか!」


 朝から賑やかな2人に挟まれながらも次の授業の準備をする鮫島。ふと視線を視線を前に向けたとき、教卓の上にいたのは自分の隣人。言ノ葉詩音である。

 何をしているのかと思えば、徐に黒板消しを取り書かれた字を消し始めたではないか。

 こうした雑務は日直が行うものであり、日直はクラスメイトが日替わりで行う。今日の詩音は日直では無いのだが、こうして自主的に雑務をやっている姿をよく見かける。


「癒されるわぁ」

「尊いわぁ」

「そうだね。言ノ葉さんは本当に良いヒトだよね」

「おいおい、近くにいる機会が増えて感覚がおかしくなったのかサメ。言ノ葉さんはそこにいるだけで至高の存在なんだ。全人類の宝なんだよ」

「おかしいのはあなたの頭よ。でも見ているだけなのにずっと飽きない魅力はあるわよね」


 右へ左へ移動する詩音の後姿を穏やかな眼差しで眺めることしばらく。とうとうそのときがやってきた。

 手を真っ直ぐに伸ばして黒板の上部を消そうとする詩音。しかしどれだけ頑張って伸ばしてもそれには届かない。

 爪先立ちになり、体をプルプルと振るわせて伸びる。それでもほんの僅かしか消せなかった。1番高い場所には掠ってすらいない。それもその筈で頭一つ以上離れているのだから、椅子などの足場無しではまず届かないだろう。


「ふにゅ!ふにゅ!」


 それでも詩音は椅子を使わない。その場で飛び跳ねて勢いをつけて更に高さを求める。しかしそれでも届かない。飛び跳ねるくらいで補える身長差では無いのだ。


「うぅ〜」


 しかし詩音は諦めない。と言うより半ば意地になっているようだ。どうにかして道具を使わずに消してやろうと試行錯誤を繰り返している。


「困難に立ち向かう言ノ葉さん。動きはあんなにあざといのに本人は真面目だなんて。萌える要素しかない」


 クラスメイトの数名からスマホのカメラを向けられていることも知らずに挑戦を続ける詩音。疲れたのか飛び跳ねるのをやめて息を整えている。

 届かないのではない。後回しにしているだけだ。そうやって自分を誤魔化すように一旦クリーナーで黒板消しの掃除をする。

 そして再びチャレンジ。けれどやはり届かない。その一方で手が届く範囲に関しては時間が経つにつれて綺麗になっている。


「今まで何回か見てきたけど全く飽きる気がしない」

「とは言ってもそろそろ次の授業が始まるから手伝わないと」

「そうだな。んじゃ行くか」

「そうね」

「日直お前らだったんかい」


 ひとしきり眼福して満足した2人は何事も無いかのように装い詩音に近付く。手伝うと声をかけられて笑顔の花を咲かせた詩音は嬉しそうに黒板消しを渡す。

 その様子にやれやれと息を吐く鮫島。一連の全て知る彼はそれを胸の内に秘めて、隣の席に戻って来た詩音といつもと変わらない他愛の無い言葉を交わすのであった。



鹿「はぁー、放課後の掃除って面倒ねー」


槌「裏庭までゴミ袋運ぶの誰がやる?」


鹿「そんなのやりたいヒトなんている訳ないわよ。いつも通りジャンケンで」


詩「よいしょ、よいしょ」


鹿「言ノ葉さんゴミ捨てに行ってくれるのねありがとうでも今日は私が行くから先に帰っても大丈夫だよそれじゃあまた明日ねバイバイ!」


詩「あ、うん。ありがとう小鹿さん」


槌「小鹿、お前も他人のこと言えないからな」

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