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ふぇんりる!  作者: 豊縁のアザラシ
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EP-46 狭間

 授業の後の休み時間。いつもなら長時間座り続けていた体をほぐしたり、友達と雑談に興じたり。そうした息抜きに過ごすヒトが多いだろう。

 しかしこのときばかりはそうもいかない。授業の終わりを知らせる鐘の音がなると、休みも程々に皆んなが次の授業の準備を始める。


「それじゃあ後でな」

「男子は早く出て行けー」

「はいはいっと」


 その理由は次の授業が体育だから。体操服に着替えた後にグラウンドに移動する必要があるため、余り時間に余裕が無いのだ。

 桜里浜(おりはま)高校は1学年あたり4つのクラスがある。選択科目として美術、書道、工芸、音楽の芸能科目のうちいずれかを受験時に学生が選択する。そして同じ科目を選択した学生ごとにクラスをまとめられるのだ。

 最もその年ごとにそれぞれの科目を選択する人数にバラつきがあるため、クラスメイト全員が同じ科目を選択している訳では無い。

 ただこのクラスに関しては皆んな同く音楽を専攻しているらしい。

 そして体育の授業はそのうち2つのクラスが合同で行うことになっている。休み時間のうちにそれぞれの教室に男女で分かれて集まり、着替えを済ませてグラウンドに移動するのだ。

 そしてこのクラスは男子が隣のクラスに移動する必要がある。面倒だけと女子の中で着替える訳にはいかないから仕方ないよね。


「ちょっと待ちなさい」

「わぅ」


 着替えを持って良介の後をついて行くと教室を出る前に襟元を掴まれた。そのまま後ろに引かれると怖い形相の猫宮さんに睨まれた。特徴的な吊り目がいつもより吊り上がっていて怖いです。


「なにナチュラルに男子の後をついて行ってるの。言ノ葉さんはこっちで着替えるの」

「えっ」

「当たり前でしょう!なんで驚いているのよ」


 男である私が女子に囲まれて着替えるなんて無理に決まっている。助けを求めようと良介を見るが露骨に視線を逸らされた。


「健全な男としてそういうのに興味が無いと言えば嘘だ。だがそれはあくまでも妄想。倫理に反する一線は超えてはいけない」

「頼むから俺達に変態のレッテルを貼らないでくれ」

「そんなぁ」


 そんなこと言ったら女性陣に囲まれる私だって不味いじゃないか。愛音や琴姉ぇが相手でも直視できないんだぞ。


「皆んなだって私がいたら嫌だよね」

「全くもって構わないけど」

「嫌がる要素なんて皆無だけど」

「過去はどうあれ今は1人の女の子なんだから男子達と一緒に着替えるなんて絶対駄目。オオカミの群れにウサギを入れる訳にはいかないの」

「あっ、私は狼だから大丈夫」

「「「そういう問題じゃないの!」」」

「くぅーん」


 一言一句違わずに揃った注意に耳と尻尾が萎れる。私の味方はどこにもいなかった。

 そんな言い争いをしている間にクラスの男子は去り、隣のクラスの女子が入って来る。良介とナツメ君も隙を見て移動したらしく姿が見えない。

 やがて私がいることを知りながら、気にした様子も無く着替える始める女子生徒達。慌てて視線を壁に向けて誰も見ないように縮こまる。


「あー、確かに無理強いは良くなかったね。ごめんねしーちゃん」

「だからと言って男子と一緒なんて有り得ないわよ」

「それなら部室棟の更衣室を借りると良いんじゃないかな。朝と放課後の練習以外は誰もいないし、職員室で事情を話せばきっと鍵を貸してくれるよ」

「それだ。小鹿さんナイス!」

「そうと決まれば急ぎましょう。部室棟はグラウンドにも体育館にも近いけど、職員室を経由するならあんまり時間無いよ」

「わ、分かった」


 私は教室を飛び出して職員室へ向かう。でも廊下は走ってはいけないと張り紙があるから、一度外に出て校舎を大きく迂回しないと。


「くぅー、しーちゃんのそういうところ好き」

「飛鳥さん待って。足が速過ぎる!」

「あっ、ごめん」

「じゃあもう部室棟に直接行こう。雲雀(ひばり)は鍵をお願いね」

「はいはーい」


 急足で部室棟に向かうと先回りしていた飛鳥さんが鍵を開けている最中だった。職員室に寄って(なお)、私達が到着するより速いって本当に凄いな。

 グラウンドに1番近い部室の鍵を開けて中に入る。当然だけど誰もいない。ここなら落ち着いて着替えができる。


「ってどうして3人までいるのさ。皆んなもまだ着替えていないのに」

「しまった。勢いで思わずついて来ちゃった」

「今から教室に戻ってもさすがに間に合わないね」

「いっそのこと4人ともここで着替えを済ませるしか」

「何のためにここまで来たと思っているのさ。良いから早く着替えて」


 3人を無理矢理部室に押し込み扉を閉める。時間はもう無いけどグラウンドは目と鼻の先にある。急げば私が着替える時間くらいならまだある。


「待って芽衣理。猫耳を付けるの忘れてるよ」

「それ体育でも付けないと駄目なの!?」

「しーちゃんがもう大丈夫と言うまで付けるよ」

「じゃあもう大丈夫だから。兎に角急いで」

「例え言っても今週いっぱいは付けるよ」

「付けるんかい」

「2人とも急ぐちゅん」

「飛鳥さんはどうしてそんなにノリが良いのよ」


 3人の着替えの後、私も手早く済ませてグラウンドに走る。他のヒトは既に集まり整列していて、それに加わると同時に授業開始の鐘が鳴る。間一髪で間に合った。


「全員いるな。それじゃあ始めるとしようか」


 集まった生徒の半分がふざけた格好をしているのに何事も無いかのように授業を始める先生。

 私が言うのも難ですがそれで良いんですか先生。

詩「着替え終わったー?」


狐「終わったよー」


猫「終わってないでしょ。下着姿で何を言ってるの」


鳥「言ノ葉さん。もう良いよー」


猫「良くない!どうして下着まで脱いだの!」


詩「えぇ、どっちなの?」


狐「芽衣理ちゃんったらもー。時間無いんだから意地悪するのはナシだよ」


鳥「そうだよ。3人のうち2人が良いと言っているんだから良いのよ」


詩「そっかぁ」


猫「騙されないで言ノ葉さん。この2人が悪ノリしているだけなの。私の言葉を信じて!」


詩「わうぅ、分からないよぅ」

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