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ふぇんりる!  作者: 豊縁のアザラシ
188/199

EP-188 魔法少女の秘密

「やっぱり可愛いー!詩音ちゃん超絶可愛いー!」

「ほんの少しお化粧しただけでこれかぁ。ウィッグも要らないから変身もあっという間で羨ましい」

「もうこの可愛さだけで悪の組織を改心させられるよ」

卯月(うづき)も早く準備してきなー。ピュアウルフとラビットのツーショットも後で撮るんだから」

「はいよー」


 今回の撮影に集まったクリスマスのイベントに集まったメンバーと同じ。卯月さん以外は既に魔法少女になっているけど。何でも私が来るまでの間にできる事はほぼ全て終わらせたらしい。

 つまりここから先は主に私があんなことやこんな事をされる。と言われたけど、写真を撮る以外に一体何をされるというのか。モデルというのは想像以上に大変なお仕事なんだね。

 魔法少女の先輩達にあっちこっちに振り回されて、別の服を渡されてはまた連れ回される。モデルというのは想像以上に大変なお仕事でした。


「くぅーん、疲れた。疲れたよぅ」

「あー良いよ!その角度ナイスだよふぇんりるちゃん。否、ピュアウルフちゃん!」

「見えそうで見えない。と見せかけてやっぱり見えない。これを無意識でやるとは。末恐ろしい子」

「2人ともいい歳して何をバカなことをやっているんですか」

「何を言っているのピュアキャット。私達は魔法少女。故に永遠の十代なのだよ。これくらい同世代女子の間ではよくあること」

「でもこの前、ピュアスカイさんとマーメイドさんのお2人で最後の二十代だって飲んだくれていたじゃないですか。付き合わされたピュアラビットが泣いてましたよ」

「黙れキャット!お前まだ高校生だからって調子に乗るなよ!」

「私はあの日、もう二度とウォッカはストレートで飲まないと誓った」

「はい詩音さん。お水どうぞ」

「ありがとうございます」


 撮影セットのベッドに座りながらお水を貰って一休みする。

 同じ部屋で仲間であるはずの魔法少女が何故か対立しているけど、私から言わせてもらうと別に気にするほどのことでもない。だってママや愛音の方がよっぽど酷いから。それはもう遠慮も配慮も欠片もないんだから。悪逆の限りを尽くしているんだから。スマホのカメラを向けられたくらいで気にしていたら身が持たないよ。


「皆んなお待たせー。ピュアラビットただいま参上だぞー」

「お、来たね。それでは残りの撮影も張り切って行こう」


 何だかんだと言い争いつつ、やるべき仕事はきちんとこなしていく4人の魔法少女。一度カメラを向けられれば、彼女達の振舞いは正義のヒロインそのものだ。

 以前にも言われたけど、彼女達は目指している目標があり、アルバイトの一つとして趣味と実益を兼ねてコスプレをしている。

 それでも原作を読み込んで物語やキャラクターについて調べて十分に理解したうえで望んでいる。本当にやりたい事が別にあるとしても目の前の仕事にも真剣に取り組む姿勢は凄いと思う。私なんて乃亜ちゃんに教えてもらった内容の他は知らないから、言われた通りの動作しかできない。想いが込められた皆んなと比べると迫力に欠けるのが撮られた写真からも伝わってくる。

 どんな仕事でも真面目に取り組むのだから根は良いヒトなのは間違いない。だからと言って床に横たわってまで画角にこだわるのはどうかと思うけどね。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 時間は流れて昼間を過ぎ、そろそろ陽が傾き始める頃。この日の予定はどうにか無事に終わったらしい。

 最初のうちは表情や動作がぎこちなくて微妙な感じだったけど、後半は見返してもそれなりのものができたと思う。最もこれは皆んなが緊張せずに済むように配慮してくれたからできたこと。私自身が良くなったわけではないけどね。


「さて、明日はいよいよちゃんとしたファッション誌のお仕事。詩音ちゃんの体を売って手に入れたこのチャンス。絶対に成功させるぞー」

「何か語弊がある言い方をしていませんか?」

「えへへ、ごめんごめん。ほら、琴音さんも待っているから早く行こっ!」


 着替えるや否や、急かすように声をかけてくる卯月さん。随分と機嫌が良いのは明日が楽しみという事の他にもう1つある。


「卯月さん。今さらなんですけど本当に私達が家にお泊りしても良いんですか?」

「そりゃあ勿論。ホテルに泊まるのも勿体無いし、明日も結構早いからね。元々こっちがお願いしていることなんだからそれくらいはさせてよ」


 そう。私と琴姉ぇは今夜、卯月さんのお家にお泊りするのだ。

 最初が心配性なパパが迎えに行くと駄々を捏ねていたんだけど、私達が暮らしている桜里浜(おりはま)の町とここは結構な距離がある。そのうえ明日の集合場所は更に遠いのだとか。

 別にパパならそれくらい気にしなさそうだけど、私や琴姉ぇはそうもいかない。撮影時間に限りがあることや体調面を考えるとちょっと大変。私なんてきっと疲れてふにゃふにゃになるに違いない。


 ということで無難にホテルにお泊りしようと琴姉ぇと話していたけど、それを聞いた夜桜さんが家に来れば良いじゃないとお誘いを受けたのそちらにお世話になることにしたのだ。

 女性の家に男の私が泊まるのは不味いのではと思ったけど、本人むしろ何の問題があるのかと疑問符を浮かべていた。確かに琴姉ぇが一緒だから心配は要らないけど、女性ならもう少し気を付けないと危ないと思うのです。


「琴姉ぇお待たせー」

「琴姉ぇお待たせー」

「大丈夫よ。いつの間にか妹が1人増えたけれど」

「つまり私は姉を失い一人っ子になったと。悲しいなぁ」

「あ、未月もいたんだ。マネージャーさんに連絡ついた?」

「うん。というかもう着いて外で待っているから早くしてよね」


 私は妹ではなく弟である。そう指摘する間もなく似たような突っ込みを入れたのは琴姉ぇと一緒にいた女のヒトだ。

 声からしてピュアキャットだったヒトという事は分かるけれど、素顔を見るのは初めてだから何か変な気分だ。


「えっと、未月さんって?」

「そう言えば詩音ちゃんは私達の本名を知らないのか。撮影中もキャラクターの名前で呼び合っていたし」

「それなら改めてちゃんとした自己紹介を。私の名前は夜桜(よざくら)未月(みつき)。詩音さんと同じく高校2年生だよ」

「言ノ葉詩音です。よろしくお願いします」

「お姉ちゃんがいつもご迷惑をおかけています」

「こらぁ。そこは普通に「お世話になっています」でいいでしょ!」

「それなら詩音さんに迷惑はかけていないと言えるの?」

「黙秘します」


 黙秘という名の自白をする卯月さんに思わず溜息を漏らす未月さん。その阿吽の呼吸を見るに随分と仲良しな姉妹みたいだ。

 未月さんは姉妹というだけあって卯月さんによく似ている。肩よりも長い癖毛。明るく染めて、今より身長が伸びれば瓜二つになると思う。

 それでも性格には差があるのは私達と同じだ。流石に琴姉ぇと愛音ほどかけ離れてはいないけど。

 あいつも昔は大人しかったはずなんだけどなぁ。何がどうしてあんな風になってしまったのやら。


「ところでお二人の家ってどんな感じなんですか?」

「普通の一戸建てだよ。私が上京するのに未月がついて来てくれて、両親は田舎で暮らしているの。ご飯に家賃に生活費の一部、その他諸々と色々とお世話になっております」

「学生で親元を離れるなんて凄いわね」

「えっと、まぁ。お姉ちゃんだけだと心配ですから」


 何だかんだ言いつつも未月さんは卯月さんのことが好きなんだね。仲良しなのは良いことです。

 その後はこの場に居ない愛音をダシに雑談に花を咲かせて無事に夜桜さんの家に到着。ここまで運転してくれたマネージャーさんにお礼を言って別れ、私と琴姉ぇは2人の自宅に上がらせてもらった。

 一戸建てのその家は2人で暮らすには十分な広さがあった。電化製品も一通り揃い、部屋の数もあり、お風呂もそれなりの広さがある。玄関のドアも立派でセキュリティもしっかりしてそうだから安心だね。


「ふひひ、お泊りなんて超楽しみ。ねぇねぇ、何する?ウチにはゲームも漫画も一通り揃っているよ」

「姉さん。2人とも疲れているんだからそんなのやる時間ないって」

「えー、折角良いところを見せようと練習したのに」

「一先ず荷物を置いて夕食にしたいかな」

「それならどこか食べに行こうか。いや、折角だから出前でも良いかな」

「この家の冷蔵庫には飲み物とアイスくらいしかないもんね」


 あんなに立派な冷蔵庫があるのにアイスしか入ってないなんて、宝の持ち腐れにもほどがあるだろうに。と思って中を覗いてみたけど、本当にアイスが冷凍庫にあるだけだった。こんなのママが見たらショックで倒れかねないぞ。

 結局夕飯は卯月さんセレクションの出前料理でさながらパーティのような夕飯を楽しんだ。愛音が知ったら羨ましがるだろうなぁ。


「さーて。そろそろお風呂が沸いた頃かな。2人が先に入っちゃって良いよ」

「あ、私は最後で良いです?」

「別に遠慮しなくて良いんだよー」

「いやその。私がお風呂に入ると抜け毛が、その」

「排水溝が詰まって大変なことになるの。だから家でも最後に入ってもらっているのよ」

「ワーオ、そんな苦労があるとは。だったら琴音さんが最初ね。ついでに私も入っちゃおっと」


 どうやら卯月さんはお風呂の時間も私達とお喋りがしたいご様子。それだけこのお泊りを楽しみにしているということなのだろう。

 でも抜け毛云々(うんぬん)の事情が無くても私と一緒に入るのダメだよ。だって私は男だから。だって私は男だから。大事なことだから2回言わせて頂きました。

 2人がリビングから出た後、残された私達は片付けや布団の用意をして過ごす。本当は中身が寂しい冷蔵庫を何とかしたかったのだけど、食材どころか調味料すらまともに揃っていないのではお手上げである。この時間から買い出しに行くわけにもいかないからね。


「詩音さんはいつも家でどう過ごしているんですか?」

「ママがカフェをやっているのでそのお手伝いをしていますよ。後は一緒にご飯を作ったり、掃除とか洗濯もやったり」

「す、すごく家庭的ですね。私はお姉ちゃんと分担してやってますよ。料理は2人ともできませんけど」

「ちなみにどのくらいできないのです?」

「んー、炊飯器でご飯を炊くとか。後はゆで卵とか適当な野菜炒めくらいですかね」


 乾いた笑いをして自虐的に語る未月さん。でもそれだけできれば十分だと私は思います。

 何せ世の中にはお鍋で水を沸かせることすらままならないヒトがいるんだから。誰とは言わないけど。ご飯を炊こうとしてお米を洗ったときに水と一緒にお米まで捨てるヒトがいるんだから。誰とは言わないけど。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「はい。これでおしまい」

「ううぅ、ふぐぅ」


 しばらくしてお風呂から戻ってきた琴姉ぇと卯月さん。しかしのんびりする間もなく何故か唐突にリバーシ始めた。誰もが知る白と黒の陣取り合戦のアレである。

 何でも一緒にいる間に話題に花が咲き、その流れで卯月さんがちょっとした賭けを挑んだらしい。詳しい内容は分からない。私に分かるのは琴姉ぇ勝負の内容を得意な頭脳戦ボードゲームに持ち込むほど勝ちに拘っているということ。良い大人を泣かせても譲らないなんて、一体どんな賭けをしているのだろうか。


「まだ、まだ諦めない!次こそ琴音さんに勝ってピュアドラゴンのコスプレをしてもらうんだ」

「絶対に嫌よ」

「お願いだよー。琴音さんこそ理想のモデルなんだよー。大和撫子のような美貌。お淑やかに見えて熱いものを秘めている芯の強さ。こんな逸材他にいないのに」

「わぅ。琴姉ぇ、ちょっとくらいお願い聞いてあげれば?」

「何より慎ましやかな胸部!小柄でありながら豊満なものを持つピュアウルフと対照的なそれこそピュアドラゴンの象徴といっても過言では」

「絶対に嫌よ」


 どうやら今夜の琴姉ぇは妥協するつもりが皆無らしい。いつもはちょっと難しい頼みをしても仕方ないなと聞いてくれる優しい姉なのに。たまにこんな風に頑なになるんだよね。

 私としては琴音ぇを巻き込んでやりたいところだけど、こうなった以上は自然に機嫌が直るのを待つ他にない。


 これ以上リバーシの盤上が一色に染め上げられるのを見ていてもつまらないので、一先ずお手洗いに行こうと立ち上がる。お手洗いはお風呂場の近くにあるけど、そういえば未月さんはどうしているだろうか。

 琴姉ぇ達と入れ替わり、今はちょうどお風呂に入っている頃だろう。案の定、脱衣所の扉にはめ込まれたすりガラスから浴室の明かりが点いていることが分かる。

 未月さんって結構長風呂なんだな。そう思いつつ私はお手洗いのドアを開ける。


「「えっ?」」


 お手洗いには何故か先約、というか未月さんがいた。先程まで湯船に浸かっていたのだろう。髪から水滴を落としつつ、一矢纏わぬ姿でそこにいた。


「ご、ごめんなさい!」


 って何をしているんだ私!見知った家族とは訳が違う。咄嗟にドアを閉め、その勢いのまま廊下まで走る。完全に油断していた。物音を聴いていれば事前に分かったはずなのに。

 この後どうやってお詫びをすれば良いのか。そう考えて尻尾を震えさせる私に先の光景がフラッシュバックする。煩悩を振り払うように頭を振ったそのとき、ある強烈な違和感に気付いた。

 一瞬とは見てしまった私の罪が消えることはない。それもう誠心誠意謝罪をする他にないのだけれど、それはそれとしてどうしても無視できない点があった。

 勿論、私の早とちりの可能性もある。その確率の方が高いと思う。でもこれだけは確認しないと気が済まない。この胸の内のモヤモヤは本人に答えてもらう以外に消えることはないと言い切れるから。


「あの、その、未月さん」

「はいっ!?」

「いや、今のは本当にごめんなさいなんだけど。1つだけどうしても気になることがあって」

「はい」


 お手洗いのドアを挟んで話す私達。私は最後に一度聞くかどうか悩んだ末に意を決して言葉を続ける。


「えっと、未月さんって、その。彼女ではなく彼、ですか?」


猫「っくしゅん!」


狼『ん、どうした猫宮。風邪でも引いたか?』


猫「いや、そんな事はないけれど」


狐『誰かがメイリの噂でもしているんだよー。メイリは美人だもんねー』


猫「うるさいわね」


鳥『でも今日はこれでお開きにしようか。グループ通話勉強会』


鮫『そうだね。結構時間も遅くなってきたし。ありがとう猫宮さん。勉強凄く捗ったよ』


猫「私も色々とためになったわ。また機会があればやりましょう」


狼『今度は詩音も入れてな』


狐『それじゃあお休み!』


皆『お休みー』

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