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ふぇんりる!  作者: 豊縁のアザラシ
141/199

EP-141 プレゼント交換会

「そんな事を言いつつ、次に言ノ葉さんにプレゼントを渡すのは俺なんだけどな」

「「裏切者がー!」」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべる槌野(つちの)君に浴びせられる非難轟々の雨霰(あめあられ)。そんな逆風も意に返さず、やたらと大きな包みを渡してくれた。

 座る私の膝の上に置くと顔の半分が隠れるくらい大きい袋。抱えないと持てないけど、大きさの割には重くないな。

 槌野君に許可を取り袋を開けて中をみると、つぶらな瞳のぬいぐるみが顔を覗かせていた。何のキャラクターなのか分からないけど、このあどけない表情は結構好きかもしれない。


「大きいドラゴンのぬいぐるみ。格好良いだろ」

「凄いねぇ。ありがとう」

「どっちかと言うと可愛い系のデザインだけど」

「あなた、絶妙に言ノ葉さんが嫌じゃなさそうなやつを選んだでしょ」

「お前達も想像してみろ。小柄な言ノ葉さんが可愛くて大きなぬいぐるみを抱えているところを。アリだろ」

「アリだね」

「可愛いものとかに興味が無い言ノ葉さんが受け入れてくれそうだったのがあのドラゴンだったんだよ」

「意外と熟考した末に選んだのか」


 しばらくぬいぐるみの柔らかい触感を堪能した後、汚れないうちに戻しておく。私の部屋の住民がまた1人増えた。結構な大きさだからね。はてさてどこに置いたものかな。


「プレゼント交換会も後半に差し掛かってきたわけだが、ここで真打ち登場だ。言ノ葉さん、よろしく頼む」

「はーい。ちょっと待っててね」


 持って来ていた袋の中身を漁り、目的のものを探す。さっき入れたばかりのドラゴンが早速行く手を塞いでいる。こんなに主張が強いのにふわふわで柔らかいなんて。ツンデレか。これがツンデレというやつなのか。愛いやつめ。


「詩音ちゃんがプレゼントを渡す相手は誰なの?」

「えーっと、最初は馬場君だね」

「え、俺?」

「皆んな、馬場という男の存在を消せ!」

「うおわぁ!?お前ら落ち着け、落ち着くんだ。冷静になるんだ!」

「問答無用だおらぁー!」

「ぎゃー!」


 別に馬場君をどうにかしたところで彼に渡すプレゼントの譲渡権が誰かに変わることはないんだけど。

 狂戦士(バーサーカー)と化したクラスメイト達に襲撃された馬場君。カーペットに倒れた彼の手に用意していたものをあげる。なんかお供え物みたいになってしまった。


「これね、ティン・ホイッスルっていう笛なの。ケルト音楽でよく使われる楽器なんだよ」

「それはお前の趣味だろ。馬場は別に音楽にそこまで興味ないって」

「上手くなったら一緒にセッションしようね」

「ありがとう。折角の機会だから色々調べて触ってみるよ」

「まだだ。まだあと2人残っている。次こそ俺が」

「いいや私が」

「理不尽に恨まれるくらいなら私は辞退するわ」


 殺伐とした雰囲気の中、理性を保つ少数派の1人である猫宮さんが素直な感想を述べる。私も余計な争いを生む火種になるくらいならプレゼントを持って来なければ良かったと後悔しているよ。


「こうなったら早く済ませた方が良いよ」

「飛鳥さんの言う通りかも。それじゃあナツメ君」

「出ましたよ皆さん。これが友情補正ですよ」

「あー、つまらない。ハァー、つまらない」

「皆んな俺のこと嫌い過ぎじゃない?」

「心当たりが無いとは言わせない。その胸に手を当ててよく考えろ」


 項垂れる鮫島君を励ます意味も込めてクリスマスプレゼントを渡す。味気のないシンプルな封筒なのはご容赦して欲しい。ショッピングモールにあるものではなかったから入手に時間がかかり、包装には手が回らなかったのだ。


「その中身は何なの?」

「お米券」

「金券かよ!もう少しセンスが良いものあっただろ」

「そうかな。お米を貰って嬉しくない日本人はそう多くないと思うけど」

「サメが擁護するんかい。いやまぁ、お前が良いなら良いんだけどさ」


 何か納得いかない様子だけど、これを手に入れるのは大変だったんだぞ。

 そもそも買い方がよく分からないからママにお願いすることになったし。その対価としてクリスマス仕様の制服を着させられる事になったし。あれはクラスメイトの誰にも見られたくないな。


「これで最後の1人が大狼なら戦争だ。どんな手を使っても大狼の首を取る」

「何で聖夜の夜にそんな殺伐とした争いをしないといけないんだよ」

「お前は知っているか?どうしてサンタクロースの服が赤色なのか」

「少なくとも返り血を目立たなくするためではない」


 私は綺麗なラッピングがされたそれを抱えると周りを見回してそのヒトを探す。とは言ってもすぐに見つかったけど。何せそのヒトはクラスの中でも背が高いから。


「帆立君、これどーぞ」

「ゑ」


 突然名前を言われて呆然と立ち尽くす帆立君に袋を抱えさせて開けるように促す。言われるがままに従う姿は玩具みたいでちょっと面白い。


「これ、これは、これ」

「帆立君は確かバスケ部だったよね。これなら試合中でも使えるかなと思って。大会に出場するときは教えてね。応援に行くから」


 プレゼントの中身はリストバンド。色違いの3個セットだから、ちゃんと洗えば毎日使うことができるはずだ。これでもっと部活に打ち込んで強くなってくれたまえ。

 そう伝えると帆立君は奇声を上げて外に飛び出して走り去ってしまった。数人が追いかけて行ったけど、近所のヒトに迷惑をかけるのはやめようね。


「他にプレゼント配っていない奴いるかー?いなければビンゴ大会を始めようと思うんだけど」

「まだ何人か残っているぞ。俺も渡してないし」

「おっ、良介は誰に渡すのかな」

「ほれ、メリークリスマス」


 私の友達は誰に何を贈るのだろうか。皆んなのように野次でも飛ばしてやろうと近付くと、良介は私の手の上にそれを置いた。私にくれる3人目はお前だったのか。

 そう言えばまだ音々(ネオン)さんと槌野君の2人からしか貰っていなかった。


「そっちのパターン、だと」

「あのリア充を許すな!総員かかれー!」

「「わぁー!」」

「だー!もう面倒な連中だな!」


 瞳を濁らせて襲いかかる亡者を手当たり次第投げていく良介。柔道有段者だから痛くはないはずだけど、何故か派手に転がっていく。彼らにはスタントマンの素質があるらしい。


「ねぇねぇ、大狼君から何を貰ったの?」

「何だろう。開けてみようか」


 愉快な仲間達の1人に紛れていた狐鳴さんの頭を突っついていると、飛鳥さんが開封を促してきた。私も気になるので早速開けてみる。

 それはオカリナだった。優しい音色が特徴的で、種類にもよるけど誰でも音を出しやすい楽器である。


「詩音ちゃんを相手に楽器を贈るなんて勇気あるね」

「こいつは聴くより鳴らす方が好きだからな」


 そう言いながら華麗な絞め技で意識を刈り取り、また1人犠牲者を増やす良介。

 私が持っていない楽器を選び、みた限り値段もそこそこ頑張っている。普通に嬉しいのがちょっと悔しい。


「さて、運命に見放された哀れな者達。嘆くのは次のビンゴ大会が終わってからにしてくれ」

「そう言えばそんなイベントあったわね」

「言ノ葉さんと仲良くなる以上に大切なことなんてない」

「主催者を前にはっきり言い過ぎだろ。まぁ良い。俺が用意した景品を見たら度肝を抜かれるぜ」

「お金が無い中では結構頑張ったよね」


 皆んなからの期待は薄いというのに2人はそれなりに自信がある様子。そんな事を言われたら期待せずにはいられないね。

 早速小鹿さんからビンゴカードを貰い、真ん中に穴を空ける。こういうのなんだか無性にワクワクするよね。


「実は友達のツテとか知り合いの有志に頼んで色々とグッズを作ったんだよ。ほれほれ」


 そう言って槌野君は私がキャラクターの缶バッチやキーホルダーを並べていく。何となくデザインが私の部屋に置いてあるぬいぐるみと似ている気がする。

 手芸部のヒトのご厚意で貰ったぬいぐるみ。私が勝手に「ふぇんりる」と名前を付けているけど、あれは確か製作者の創作キャラのはずだけど。


「基本的にはこの「ふぇんりる」グッズを早い者勝ちで獲得できる感じでいくぞ」

「私が勝手に付けた名前が正式名称になっている」

「どうして知られているのよ。普通に怖いんだけど」

「ちなみに1位から3位には別途景品がある。あと最後までビンゴができなかったヒトのためにラストワン賞も用意した」

「3位はアクリルスタンド。2位はデフォルメ2頭身フィギュア。1位は一回り大きいクリスマス限定ぬいぐるみ」

「普通に良いラインナップだな。クオリティも結構高いし」

「そしてラストワン賞は等身大抱き枕カバー」

「「欲しい!」」


 皆んなの心が1つになったところでいよいよビンゴ大会が始まった。クリスマスパーティーとは思えないほど空気が殺伐としているけど。

 ちなみに私は小さなぬいぐるみ付きのキーホルダーを貰いました。ドラゴンと一緒に部屋の中に飾っておこうと思います。

槌「ちなみにこのふぇんりる達はまだ非公式だから。そこのところよろしく」


狼「そりゃあオリジナル作品だからな」


鳥「詩音ちゃんはこれ好き?」


詩「まぁ、可愛いと思うよ」


鳥「種類がたくさん増えたら嬉しい?」


詩「そうだね。好きなヒトは好きなんじゃないかな」


狐「今このとき、ふぇんりるは公式に認定されました」


詩「なんで?どうして?」


狼「お前は知らない方が良い」

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