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こげちゃいろ

身内を当て馬にされた脇役少女が、主役カップルに陰険な復讐をしてみたい話。

※諸注意

・上記の説明でお分かりかと思いますが、語り手の性格は、少なくとも『良い』とは言えません。

・浮気ものの王道(かと思われる)「本当に好きなのはお前だけ」に対して語り手が物申します。前述のような物語がお好きな方はご注意ください。

・なお、作者の考えと致しましては、こういう見方もあるということを書きたかっただけで、特定の作品や個人の嗜好を侮辱するなどの意図はございませんので、ご留意ください。


 私としては貴重な男子の友人をひっ捕まえると、計算していた位置に陣取る。

「ごめん、愚痴みたいな話になりそうだけど。女にとって、男って永久に理解できない生き物なのかな」

「お、何、恋バナ!?」

 愚痴だって言ったのに、途端に目を輝かせた。うん、女子か!って思わないでもないけど、まあ恋バナに対するやや冷やかしめいた独特のテンションって、割と男女共通なのかな。出歯亀したくてたまらない野次馬のノリ、嫌いじゃないけど。

「や、最初に断ると、この話のメインって、私じゃないの。誰かバレちゃうと彼女の名誉にかかわるからさ、んー…仮名で、ぴーちゃんとでもしよっか」

「鳥じゃねーか」

「何故バレた。確かに昔飼ってたセキセイインコの名前から取ったけど」

「おい、流れからして結構身内っぽいのに、良いのかよ」

 ノリが良くて頭が回るところが、安心できる我が友人。

 そんなことを思いながら、話を続けるね、と流れを修正した。

「あのね、ぴーちゃんが浮気されてたの」

「……あー…いや、浮気は男の甲斐性、みたいな時代は終わったぞ? ちゃんとわかってるぞ、男だって」

「えええ…何か怪しいよその言葉運び…」

「そんなことないって浮気は悪いことだってわかってるって。ギャルゲ的なハーレムシチュエーションに憧れてるなんてそんな」

「男って………」

 おどけたような言葉の裏に、冷やかしじゃなく、私をほぐそうとしてくれている気遣いが見えた。

 だからこそ、私も流れに乗って半眼になってみせた後、再び話を続ける。

「…しかもね、ちょっと状況が酷くて。…日曜日、彼氏の部屋でいちゃついてたら、別の女の子が其処に来たんだって」

 因みに、日曜日、っていうのは本当だけど、誤解させるためのフェイクに近い。もう一か月くらい前の、日曜日の話だ。出来るだけぼかしたい。

「え、修羅場!」

「でしょ? そんでもって、彼氏は後から来た子に向かって『本当に愛してるのはお前だけだ!』って叫んだんだって」

「…………え、マジな話?」

 引いている。ごめんねこんな話に付き合わせて、と思わないでもなかったが、続ける。

「その言い訳を要約すると、彼氏的には後から来た子…面倒だしこれから『Aさん』とでも言うね、そのAさんが本命で、ぴーちゃんは浮気相手。Aさんの気を引きたくてわざと浮気してたんだって」

「…その流れ、『ぴーちゃん』は自分がちゃんとした彼女だと思ってたんだよな?」

「普通に告白した返事に、良いよ、って返された女の子が、自分は彼女じゃなく当て馬だなんて認識すると思う?」

「……ないわー、マジないわー」

 げんなりしたような友人に、少しだけ胸がすく。

「あ、やっぱり男から見ても、ないんだ」

「ねーよ。普通に最低じゃん。『ぴーちゃん』を騙してたってことだろ。ってかモテる男はハゲれば良い」

「最後のでちゃんと本音だってわかった」

 軽口をたたくのは、どうしても険しい顔になっている私をやっぱり気遣ってくれてる所為だろう。ごめんホントに巻き込んで。

「『ぴーちゃん』、災難だったなあ…そんな男ばっかじゃないぜ、って言っておいてくれ」

「ありがと。もうちょっと立ち直ったら、そう声かけてみる」

 好きな人に裏切られた彼女の傷心ぶりと言ったら、見るに堪えない。一か月近く経っているのに、まだ彼女は憔悴したままだ。失恋を癒すには次の恋、なんてよく言うけど、彼女の場合、次に目を向けようと思うまでには時間がかかる。

「でもさ、私、その彼氏さんの言い分自体が理解できないの」

「うん? 気を引きたくて云々ってのは単なる言い訳で、ホントはバレない限り二股かけ続ける気だったんじゃないかとか疑ってる?」

「その発想はなかったわー…男って…」

 少しだけ身を引くと、一般論だからなー!と慌てて叫ばれた。なるほど一般論。不倫が減らないのって女の所為ばっかりじゃないってことか。

「ってか、お前はじゃあ何が理解できないんだ?」

 言われて、此処からが本題だと気合を入れる。

「まず『愛してるのはお前だけ』とか、それを言えばほだされるって思ってるから出る言葉でしょ、それって」

「そんなにお安くなくってよ、ってことか」

「まさにそれ言いたい。あと、これが一番大きいんだけど、『浮気すれば気が引ける』っていう発想」

 ふむ、と友人は腕を組んだ。

「浮気されたって思えば強引にでも気は向くぞ」

「うん。でも、費用対効果が良いとは思えない」

「ああ…確かに。Aさんの性格分からんから何とも言えないけど、即別れ話になったっておかしくはないよな?」

「私なら別れる。少なくとも、今後一切、そいつのことは信用できない」

 お前ならそうだろうなあ、と友人は苦笑する。

「信頼のない恋愛でも長続きするものかな」

「……あー、冷静に分析すれば、そりゃ確かに『理解できない発想』になるわな。でも、当事者にはまた違った言い分があるのかもしれないぞ」

「うん、勿論、第三者だから言える意見だって分かってる。だけど、本当に長続きさせたいなら、恋人からの信頼をドブに捨てるような真似するのは、おかしいよ」

「…アレだ、相手の奴、別れ話になるなんて発想がないんじゃ」

「え、それも理解できない」

「………『5年前に別れた彼女と、今もう一度キス出来ると思ってる男は結構いる』とかいうたとえ話、聞いたことないか?」

「…………………言っておくけど、同じこと考えられる女のほうが稀だからね?」

 どんな健気な少女漫画のヒロインだってレベルだと思う。

「でも実際、そういう奴っているよ。彼女の中での自分の存在感に無駄に自信ある、っていうか」

 ふうん、と私は相槌を打つ。

 恋愛だの結婚だのに関しては女のほうが打算的だものね、お互い様か。

「うん、お前の言いたいことわかったわ。浮気、ダメ、ゼッタイ」

「ありがと、聞いてくれてすっきりした。モヤモヤしてたんだ」

 やっぱり、未来ある恋愛に浮気なんてマイナス要素しかないよね。

 ごめんね、巻き込んで。

 最後にそう付け足して、その話題を終える。

 そのまま彼と雑談に入りながら、自然になるように、こっそり視線を移す。休み時間でもそんなにうるさくない我がクラス、そして陣取ったこの位置なら、きっと聞こえたはずだから。

 案の定、かわいらしい顔からは血の気が引いている。少しだけ溜飲が下がった私は、きっと性格が悪い。

 ……………さあ、あのは、どうするのかな。

 例の修羅場の後は仲睦まじくお付き合いをしているらしいと聞いているけれど、ねえ、気づいてた?

 他人の幸せを壊すような真似、褒められたことじゃないってわかってる。こんな手段が陰険だってこともわかってる。何も知らない気の良い友人を、復讐に利用したんだってことも、わかってる。

 でも。

 幸せそうだったのに、あの日から一転、あたしが馬鹿だったの、なんて自虐のように笑うだけになった、彼女。

 私は全部を知ったわけじゃない。彼女からの伝聞がほとんどだ、歪んだ情報だってあるだろう。だからかまをかけたんだけど…あの反応を見る限り、かなりの部分が真実だったらしい。それなら、彼女だけが傷ついて、彼女を傷つけた詐欺師が『本当の恋人』とハッピーエンド?

 そんなの、許容できない。


 私が注いだこの毒は――遠からず、効果が出るだろう。

 報いになるくらいには、きっと、強くなって。


 世界の主役は、「ぴーちゃん」が当て馬やらされたカップル。そういうわけで『むらさきいろ』とはちょっと違うパターンの浮気脇役もの。

 つまり語り手の意図は本命彼女へのあてこすりにあった、という話。「ぴーちゃん」という鳥を思わせる仮名で印象を攪乱したり、日付をごまかしたり、というのは、すべて当てこすり相手のクラスメイト(Aさん)に『自分の居合わせたものではない、だけど似たような状況』と誤解させ、身内に火の粉が掛からないようにするための小細工です。しかし、真似しないほうが賢明かと思われます。それでも言わずにはいられないのが身内としての感情、なのでしょうね。

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