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道に咲く華  作者: おの はるか
私は、知恵の道に何を見る
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知恵の使徒編 神との邂逅

『力が欲しいのですね』


 その言葉の直後、私の意識は暗転し、再び目を覚ますと何もかもが白い部屋にいた。


 辺りを見渡すと……一人の女性が立っている。


「ラディンさん、でよろしいですね?」


 先に言葉を発したのは彼女だ。私は肯定する。


「そうですけど……あの、ここは一体……?」


「ここは準神域です。神が地上の存在と連絡を取るときや、今回のように力を授ける時に使う場です」

「力を?」



「先程の言葉は聞こえませんでしたか? あなた、力が欲しいですよね。ソルト君やクルルシアさんのような、そんな逆境をものともしない力を欲しているのですよね?」


「ぺ、別にそんなことは……」


否定しようとする私を彼女は手で制する。


「隠さなくても構いません。そして神は求める人に力を与えます。ソルト君もそうです。彼の【勇者】の力は神から与えられたものですし、他のものも皆そうです。神の力無しで今回の闘いを生きのこるなど簡単なものではありません」

「今回の……闘い?」


「その説明はしなくてもいずれ分かります。それよりも今はその原因について。古来よりあなたの住む世界は皆の実力が乱れないようにジョブによってある程度の力の調節を行って参りました。

そして中でも十四柱は力を調整する機関として働いて貰っていました。しかし最近その均衡を崩す存在が現れたのです」


「だれ……ですか?」

「あなたもご存じ、魔王含む魔族、魔物です。本来彼らは私の作った世界にはいませんでした」

「あなた……神なんですよね? どうしてそんなことが……」

「残念ながら神は一人ではないのです。貴方たちで言えば私の妹、といって良いでしょうね。彼女は安定した世界より混沌とした世界を好みました。その結果が魔族であり、魔王軍であり、今暗躍している【悪魔喰い】という集団です」

「悪魔喰い?」

「まだ知らないでしょう。しかし、すぐに知ることになります。貴方たちが何としても倒さねばならない存在です。そのためなら多少の犠牲は構いません」

「そ、そんなにですか……」


「はい、彼らはその神から、私が十四柱に与えたものと同格の力を与えています。生半可な抵抗では十四柱もろとも私も滅せられるでしょう。手駒を失うとは神にとってはそういうことなのです。それに実際、既に幾つか柱は落とされてしまっています。最補充が可能とはいえ厳しい戦況です」


「再補充が可能なんですか?」


「可能です。ただ、十数年の時を置かねばなりません。私にとっては一瞬ではありますがその間に全ての十四柱を殺されてしまうと、もう補充は出来ません。彼らのいずれかに協力して貰う必要があるので」


「なるほど……では【悪魔喰い】の目的は何でしょう? その悪い神が命令したから従っているだけなのでしょうか? それだけなら説得できる可能性も……」

「それができないのです。私の責任でもありますが十四柱が暴走したことがありましてね……。【勇者】の作り方はご存じですか?」


「勇者の……作り方?」


「その者の故郷を、滅ぼし、かつ、復讐心に捕らわれない。これが勇者としての力を神から与えられる条件です」

「あの……それが一体何の関係が……」


 どこかで聞いたことがある気がする境遇だ。これは確か……


「十四柱は魔王軍と戦うために【勇者】を複数人作ることにしました」

「それがなんの……まさか!!」


「はい、その通りです。彼らは十人の【勇者】を作るべく十の村を滅ぼしました。十、というのは当時生き残っていた柱の数ですね。そして、私の妹はそれを利用しました」

「利用?」

「その勇者となるはずのもの達に記憶を与えたのです。神を憎むような人生を歩んだ、そんな人々の。転生させた人がそうなるように運命を仕組んだ、とも言えますかね」

「そんな……」


 説得絶望的じゃないですか! いや、誤解を解けば何とか……いや、でも故郷滅ぼされてるわけだし……


「はい、ですので、十四柱に戦闘の意思がなくとも彼らにはあります。【勇者】の力こそ与えられてはいませんが皆あの馬鹿から力を貰っています」


 最初は妹だったのに言い方が段々酷くなってる……。


「闘って下さい。世界の安定を保つために、人々を守るために。このままでは十四柱は皆破壊され、人々は魔族の支配下に生きることになります。そして、彼らに対抗するには同じく神届物(ギフト)を持つしかありません。受け取ってくれますか?十四柱として闘ってくれますか?」


 断るわけ無い。人が苦しんでいるのだ。ソルトさんやクルルシアさんなら必ずハイと答えるだろう。


「はい」


「では、よろしくお願いします。魔族を、悪魔喰い達をたおし、人の世界を守って下さい。授けます。新たな【知恵の使徒】よ。その知恵を持って人々を導き……」


 だが、彼女の言葉を聞けたのもそこまでだった。


「あ、あァああアア!」


 頭が、頭が割れるように痛い!


「言い忘れてました。知恵の使徒の能力は知恵の行使。あらゆる知恵を、あなたの求める知識を与えます。最初は痛いでしょうが我慢して下さい、この一瞬だけです。それでは、また会いましょう。その時までに平和な世界の中になっていること……」


 あ、ああ……痛みがようやく引いてくる。


「それでは私はこれでお終いです。色欲も強欲もまだ準備期間、正義は盗られましたし……。仕方ありません。十一人しかいませんが……」


 その先は聞き取れなかった。再び意識は暗転し……。


〇〇〇


「い、今のはいまのは……」


 布団の中に戻る。今のは……夢じゃない……。さっきまで見ていた光景は明らかに人の領域ではなかった。


 その証拠だろうか。何というか……頭の中に情報が渦巻いているのだ。


「これが【知恵の使徒】の影響か……え?!」


 その中で見つけてしまう。ソルトさんが……十四柱が敵と定めている魔族であることを……倒さなくてはならない魔族であると言うことを……。


 どういうこと?!


 私は……私はどうすればいい?!


 私が力を欲したのは彼やクルルシアさんのように人を助けたかったからだ! なのになぜ!? この力は彼を倒すことに使われようとしている!?


 考えろ、考えろ、考えろ!


 知識はある、だから考えろ!


 この闘いの、神の代理戦争とも言える闘いの終着点を……


 そうだ、これだ……。これが一番……誰も死なずに……。


 だが、それどころではなくなった。


「ラディン~! お客さんよ! 降りてきなさい!」


 その母の言葉に悪寒が走る。一階の気配を探ると間違いなく使徒がいる。不味い、このタイミングで来るとしたら【憤怒の使徒】か……。まだ私の計画がバレるわけにはいかない。だけど彼は能力的に他人の感情には敏感のはずだ。話せばすぐに私の考えていることがバレるだろう。だが、まともに闘って敵う相手でもない。


 倒すだけなら何とかなるだろう……その方法は思いついた。だけど、そうしたらお父さんが……お母さんが……村の皆が……間違いなく殺される……

 いや、これは私が何をしても変わらない……どうせ一階に行った時点で皆殺されてしまうだろう。


 だから私にできることは……ここで憤怒の使徒を倒すこと。


 そのためには……


「【自己催眠】【何があってもうろたえるな】【何があっても怒るな】【何があっても泣くな】【何も知らないふりをしろ】【油断するその時を待て】」


 そして私は……

次の投稿は十二日以降となります。

ご了承下さい<(_ _)>

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