幕間 シャル・ミルノバッハ
次章がはじまるといいましたね
すみません。嘘になりました……
小さいころからおかしな力が使えた。
影に潜れるし蝙蝠にだってなれる。真っ暗の中でも視力は問題ないし、怪我をしてもすぐに治る。
晴れの日には頭がいたくなる。だから曇りの日は好きだ。でも雨の日は嫌いだ。
氷魔法は使えてもその基礎となる水魔法は苦手だった。
〇〇〇
小さい頃から家の外には出されなかった。それを変だと思ったことはない。そういうものだと思っていたから。
異世界勇者の両親のもと、私はすくすくと成長する。
だが、親からは時々変な視線を注がれていた。なんというか……変なものを、自分とは違うものを見る目だ。召使もみんなそうだった。
そんなある日、両親と、学校に行くか、という話になった。
二つ返事で了解した。友達ができるというのは魅力的だった。他の異世界勇者の子供と遊ぶことはあっても皆私を変な目で見るのだ。
だが、その時いろいろと条件を課せられた。よくわからなかったが自分の能力は全面的に使用禁止ということだった。髪や肌の色まで変えるとのことだった。
赤目赤髪がそんなに珍しいのだろうか。それともこの白い肌?
なぜか、と問うと両親は言葉に詰まった。答えにくいことなのか。
〇〇〇
とりあえず私は学園のために勉強したり、魔法を鍛える事にした。だがその中で私はあるものを見つけてしまう。
いつものように庭で訓練し、居間に向かった私は本棚の一冊が目を引いた。その本だけ汚れ具合に年季が入っていた。
たまたま目に入ったそれを興味本位から開く。日記のようだった。
中に書かれている字は母親のものだった。何が書いてあるのか、興味が湧いた。
それがいけなかった。
「面倒」
最初に目にとまったのはそんな文字だった。異世界の言葉だが少しなら私も読むことはできる。
私は更にページをめくった。どのページに書かれていることは共通していた。面倒な存在が家にいるらしい。
そして私は知った。
私がその【面倒な存在】だということを。
今の両親は本当の親ではないことを。
そして、
本当の両親を居間の両親に殺されていることを知った。
信じられなかった。だから問い詰めた。
否定して欲しかった。そうしてくれたら私は信じた。けれど彼らの反応は……
「わ、私たちは悪くない!!」
「魔族に子どもがいるなんて知らなかったんだ! 俺たちはそそのかされたんだ!」
「それに本当ならお前だって殺す予定だったのよ! 呪いをあいつにかけられなかったら殺してやったのに! 殺さないだけいいじゃない!」
「学園だって箱詰め生活なお前がかわいそうだから入れてあげるんだけだからな!」
私ってそんなに面倒な存在なの?
両親を殺しておいてそれ?
呪いがなかったら殺してもいいの?
【勇者】って……そういうものなの?
幾つもの疑問や度し難い怒りがこみ上げる。
その中で最後の理性を振り絞って両親の名前を聞く。そしてその両親の素性も。
【ミルノバッハ】魔王の幹部のうち二人、一組の夫婦。
乾いた笑いが出た。私は人の子でもなかったようだ。彼らが面倒がる理由もわかった。人類の敵である魔族なんて一緒の家にいたくないのだろう。
両親の謝る声が続く。だが、彼らのような人間から謝られたところで何の価値にもなりやしない。
相手の話を聞かずに最後に一つ質問する。ミルノバッハの名前は有名なのか。私は聞いたことがなかった。
返答。どうやら魔王やその幹部の名前は一般には広がっていないらしい、
それならば、と私はその名前で学園に通うつもりであることを伝える。彼らと同じ名前であることがもう嫌だった。
あなたたちの顔なんて見たくもない。名前も使いたくない。
消えて……違うわね。消えるわ。
そして私は彼らと縁を切った。
そのうえでとりあえず精神を崩壊させたうえで半殺しにしておいた。
家を結界に包んだからまだ見つかっていないだろう。餓死しているかもしれないが。
〇〇〇
ソルトという少年と出会った。
私の嫌いな【勇者】だった。
いつもお姉ちゃんお姉ちゃんとそればかり。頭の中はお花畑か何かだろう。
そう思っていた。
だが、見ていて、そして話を聞いているうちに彼の事情もある程度聞いた。
まっすぐな心を見た。その心の在り方に私は惹かれた。
村で情報収集だけの予定だったのに、村を困らせてる魔物を一銭にもならないのに討伐していた。
子供の落とし物を探すために王都中を駆け回った。
私を……変な目で見なかった。
私以上の絶望を経験しているはずなのに、誰を恨むこともなく生きている。
彼は真っ白なのだ。憎しみをぶつけず、それを飲み込んできたのだ。それが良いことかどうかは置いておいて……。
彼を見て学べば、私も成長できるだろうか?
〇〇〇
さらに時が流れた。王都に【悪魔喰い】が電撃戦を仕掛けてきた。
その最中彼が魔王の子であることを知った。彼の探していた姉が王国の敵になったことも知った。
似てるなんてものじゃない。
私達一緒なんだ。
小さいころに両親を殺されて、ソルトなんて私の倍殺されて……
魔族の親を持ち、素性がバレたら人の世界では生きられない。
育ててくれた相手は悪意はなくても裏がある。
あいつは今何を信じればいいのだろう?
何を信じているのだろう。
〇〇〇
「呪い?」
王都から逃げる最中、ソルトに異世界勇者の両親の話をした。
「そうよ、私を殺したら死んじゃう呪いかけられたみたい。良い気味よ」
「……」
私の言葉に考え込むソルト。どうかしたのだろうか?
「シャル……その呪いだけどさ……。お前の両親がかけてくれたんだよな」
「? そうね。ほかにいるとは思えないわ」
「良い両親だな」
「は?」
こいつは何を言っているんだろう。あんな屑どもの方を持つのだろうか?
「違う違う。吸血鬼の両親だよ。シャルのためだろ? 詳しい状況は知らねえけどお前だけは助けてくれようとしたんじゃないか」
「……そう……ね……」
言葉に詰まる。なぜ私はそこを考えなかったのだろうか。
「俺も似たような状況だからわかるけどさ。親を殺した相手より想ってくれた、守ってくれた両親のことを考えようぜ。今すぐじゃなくていいから」
私の前をどんどん進んでいく。置いていかれないように私は彼を追いかけた。
彼なら私の灯になってくれる気がしたから。
つ、次こそは……次章に……
日曜の夜十時を予定しております。




