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道に咲く華  作者: おの はるか
我、正義の道を執行す
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戦いの狼煙編 第二戦・悪魔喰いの目的

「ふう、これで大人しくなったかしら」


 ソルトたちのもともと住んでいた家の中、刀の峰でたたきつけられたチェリシュは腹をさすりながら倒れたソルトに近づいていく。だが、


「チェリシュちゃん! 待って!」


 プレアの制止がかかる。その声に足を止めた彼女だったが時すでに遅く、


「【神縛呪鎖】!」

「きゃっ!」


 腹をチェリシュの槍で貫かれた倒れたはずのソルトが呪文を唱える。即座に四方向から鎖が伸び、チェリシュとそれを止めようとしたプレアの両手両足を縛りあげた。


「チェリシュさん、油断しすぎじゃないか?」

「私の【幽霊武器ファントムウェポン】を急所に食らって動けるその精神力を褒めたいところね……。で、こんな風に女の子二人を縛って何がしたいのかしら?」

「お前らの目的はなんだ」

「私達の目的?」


 場に似つかわしくないかわいらしい声でチェリシュが再度問う。


「そうだ。お前ら【悪魔喰い】はなんで魔王を復活させようとしているんだ。まさか、俺のためじゃないだろ」

「ええ、そうね。それもないことはないけどプレアに協力することが一番の目的ではないわ」

「じゃあ、なんだ」


 さらにソルトは詰め寄る。チェリシュはもう目の前だ。


「そんなに難しいことじゃないわ。いい? ソルト君、今人族は魔族と争ってる。そして人族はその戦いのために異世界から人を召喚するし、人族の神は異世界に干渉を仕掛けてきているのよ。私達はそれが許せない。だから」


 そこで言葉を句切るチェリシュ。そして、


「だから魔王を抑止力としていてもらう必要がある」

「魔王は抑止力にはならないだろ。実際に俺の母さん、魔王は殺された」


 ソルトが反論する。しかし、情報は彼女たちの方が上だった。


「それは使徒がいたからよ。だけど今、使徒の数は七人しかいないわ。このガダバナートスの使徒が半分にまで減っている状態の今こそ、魔王にはいてもらう必要がある。今のうちに講和か、あわよくば終戦まで持ちかけなければならない」

「使徒が半分?」


 過去をエーデルワイスに見せてもらっているときにガダバナートスの十四柱よして現れた七人の男達のうち四人が倒れるところまでは確認したソルト。だが、後の三人は知らない。いや、


「正義の使徒は知っているはずでしょう? 彼が一番厄介だった。倒してくれてありがとうね。それと色欲と強欲はすでに倒したわ。だから残りは七人。やつらの人数が減り、魔王の力の拮抗者となるものがいない今しかないの。どう? これでも協力する気にはなれない?」

「ならない。力で得る平和なんて賛成できない」

「そう……」


 ソルトの返事を受け、残念そうにため息をつくチェリシュ。そして、


「プレア。もう逃げていいわよ」

「【偽装】解除」


 さっきまで鎖に捕まっていたプレアの姿が消え、その後方に再び現れる。

 同時に、チェリシュの手から半透明の拳大の球体が零れ落ちる。


「プレア! 退きなさい! 神届物(ギフト)幽霊武器(ファントムウェポン)不殺(ころさず)の手榴弾】」


 言うが早いか、球体が爆発するのが早いか、眩い閃光が室内を満たす。


 その威力は全ての物質を貫通する驚異の手榴弾の爆風だ。避けるには距離を取るしかない。


 だが、後ろが玄関ですぐに退避できたプレアと違い、ソルトの後ろにあるのは氷の壁だ。逃げ道は……


「【転移門】」


 なかったはずだが、ソルトは目の前に転移門を展開。その中に飛び込み……。


〇〇〇


「あれ? ソーちゃんは?」

「私の神届物を回避した?」


 手榴弾による爆発が消えてからチェリシュは部屋の中を確認する。再び家の中に入ってきたプレアも同様だ。だが、そこにソルトの姿はない。あるのは真っ二つに斬られた氷の壁だけだ。


「なにか魔法をかんじた……空間系の魔法?」

「【転移門】……。それも無詠唱か……。うん、とりあえずソーちゃんを追いかけよう」


 少しだけ悩んだそぶりを見せたプレアだがその行動は即決即断。すぐさまソルトを追うべく行動を開始する。


「分かったわ。【悪魔の鼻】発動」


 しばらくその場で匂いを嗅いだ後、遠保からソルトの匂いをかぎ取ったチェリシュはそのまままっすぐに彼のもとに向かう。


「やっぱり説得はできないか……」


 プレアは一人呟くのであった。


〇〇〇


 一方そのころ……。


「ハアッ、ハアッ、ハアッ」

「いい加減諦めなさい。あなたじゃ私に勝てない」


 地面に伏して、荒い呼吸に苛まれているのはシャル。とっくに吸血鬼としての本来の能力を開放しているはずだがそれでも全く歯が立っていないのであった。


 一人の獣人少女、アクア・パーラに対して。


「まだよ!」


 シャルは勢いよく起き上がると無詠唱で魔法名すら言わずに魔法を発動。瞬間、アクアの周囲に数十の炎の槍が浮かび、そのすべてが一斉に一人の少女へと襲い掛かる。


 が、


「無駄よ」


 アクアが炎を槍を斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。


 ほぼ同時に射出された数十の槍が、たった少女の二本の剣によって切り伏せられる。そして次の瞬間、アクアの姿が掻き消え、


「無駄」


 後ろから声がかかり、シャルの体に衝撃が走る。視界が揺らぎ、彼女が蹴られたのだと自覚するまで理解するのにさほど時間がかからない。


「くっ!」


 吹き飛ばされたシャルは周囲を見回すと再び突撃してくるアクアを視界に捉える。今シャルを圧倒しているのは彼女のみだ。もう一人の追跡者サクラスはずっとそれを静観している。万が一の逆転を許さないつもりなのだ。


「はあっ!」


 迫りくる双剣に慌てて距離を取るシャルだがすでにその動きは緩慢だ。アクアの斬撃がシャルを捕らえ、鮮血がまき散らされる。。


 だが、それでも彼女は降伏の気配を感じさせない。


「シャル・ミルノバッハ。魔王の腕と聖剣を早く差し出しなさい。そうすれば殺しはしない。抵抗も無駄。夜の吸血鬼であろうと私の敵ではない」


 そう言いながらもアクアは双剣を構え、一切の隙を見せない。


「降伏の意思なし……。しかし分からない。どうしてあなたはソルト・ファミーユの味方をするのか。マドルガータからあなたの親は魔王の直属の部下であることも聞いた。あなたが両親の仇である勇者に育てられたこともすでに調べた。でも、あなたが彼に味方する理由がわからない」


 質問を重ねるアクア。シャルは血を吐きながら立ち上がる。


「あいつは……面白い奴よ。いっつもお姉ちゃんお姉ちゃんって。いっつもそればっかり……。初めは変なやつって思ったわ。ギルドで受ける依頼も情報収集に関係しそうなものばっかり」


 砂埃を払いながらその視線をアクアに向ける。


「私は【勇者】なんて嫌いよ。私の親を殺したのは異世界から来た勇者。罪悪感から私を育てはしてくれたけれどそれでも人間、嘘はつくし、都合が悪くなれば逃げるし……。でも、ソルトは違った。あいつは嘘なんて一回も付いたことはなかった! いや、善意の嘘はあったかもしれない。誤魔化したこともあったかもしれない。だけど」


 長めのナイフを逆手に持ち真上に掲げる。


「アクア! 何か来るぞ!」


 静観していたサクラスが慌てたようにアクアに警告を飛ばす。


「あいつは信頼できた! 共感できた! それだけよ! 咲き誇れ【血華】」


 短詠唱の魔法名のみ。アクアは周囲に意識を飛ばしどこから魔法が来ても対応できるように。

 だから反応が遅れた。その魔法にすぐに気づいたのはサクラスだった。


「アクア! 剣から手を放せ!」

「?! しまった!」


 瞬間、剣に付着していたシャルの血がアクアに向かって針のごとく伸びる。慌てて剣を手放したアクアだったが数本が胴や腕に突き刺さる。

 意識を周囲に向けてはいたが自分の剣は無意識のうちに信頼していたのだ。


 再び逃げようとするシャル。満身創痍のためかその動きは鈍い。サクラスは自分一人でも充分と判断し、彼女を捕まえようとするが、


「させるか!」


 そのタイミングで突如真上から現れたソルトが乱入する。刀でサクラスに斬りかかり、それを彼は紙一重で躱す。そしてその隙をついてシャルを抱え逃げようとするソルト。


「ちっ!」


 サクラスが再度追いかけようとした時であった。


『ソルトオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』

「く、クル姉!?」

「な、なぜ彼女がここに!」


 突然頭に響くのはクルルシアの声。見るとはるか上空から急降下してくる一匹の龍とその頭に乗っかるクルルシアの姿が映る。


 そして地面すれすれまで下りてくるとシャルを抱えたソルトごと掴み、再び上昇。一気にその場から離れるのであった。

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