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道に咲く華  作者: おの はるか
我、正義の道を執行す
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過去・勇者編 結末

神届物(ギフト)【我、正義の道を執行する】」


 その詠唱とともに魔王の右腕がはね飛ばされる。


「ベル!」

「安心しろ、この程度すぐに回復する!」


 心配するユウヤの声を横に魔王は男達から距離を取りながら後退する。


「ふん、人が、それも勇者が魔王と仲良くしよって。それに頭もめでたいようだ」

「なに?!」


 いらいらしていることが明らかな正義の使徒の声が響く。魔王が怒りをあらわにするも、その怒気をすました顔で受け流し言葉を続ける。


「自分の腕を見てみろ」

「……ちっ、そういうことか!」

「ベル? どうして腕を治さない!?」


 再生しない魔王の腕を見てユウヤは戸惑いの声を上げる。


「治さないわけじゃない! 治せないんだ」

「フォフォフォ。異世界勇者四十人分の能力を凝縮させた聖剣じゃ。それも封印することに特化したな。トレーミ! ほれ!」


「神届物【我、信仰の道を闊歩する】」


 切り取られた腕がまた別の男に拾われ、トレーミと呼ばれた男に投げつけられる。腕を投げつけられた男は受け取ると同時に魔法陣を展開、腕をどこかに消し飛ばした。


「貴様! 我の腕をどこに送った!」

「なに、王国に届けているだけじゃ。勇者が魔王を倒した証拠としてな」

「酔狂な……」


そして戦いは激化する。だが人数の差は魔王やユウヤの実力をもってしても詰められず、じわじわと二人は追い詰められていく。


〇〇〇


「ぜああ!!」

「な?!」

「くっ!」


 ユウヤが二人の命を刈り取る。残り四人。


「強いな、だが、これはどうだ神届物(ギフト)【我、希望の道を吸いつくす】」


 一人の男から半透明の腕が無数にのび、ユウヤへと突き刺さる。


「うああ!」

「ユウヤ!」

「よそ見をする余裕があるとはな」


 大剣を持った男がユウヤに気を取られた魔王の左腕を切断する。


「ああ!」


 呻く魔王。だが男は攻撃を止めず、返す刀で魔王の首を……


「ぎゃーはっはっはっは! 俺様登場!!!」


 突如、上空から黒い化け物が降りかかってくる。大剣を持った男は魔王に対する攻撃を中断し、


「邪魔だ!」

「ガルドリア!?」


 上空から降ってきた魔王の幹部の一人、ガルドリアを一刀のもとに切り伏せる。


「ふん、思わぬ邪魔が入ったが続行だ」


 状況は……


〇〇〇


「はあ、はあ、四人目……」


 魔王が差し違えるようにしてまた一人、男を殺す。だが、彼女の腹にも深々と聖剣が突き刺さる。

 崩れ落ちる魔王に正義の男が近づいていく。


「よくぞ我々に対してここまで善戦したと誉めてやろう。だが、これで人類と魔族の戦いは終わりだ。この件のさびとなり、正義の前に消え去るがよい!」


「やめろおお!」


 裕也が叫ぶ。だが、彼は今、別の使徒に食らった拘束の魔法に捉えられ動けない。

 正義の使徒が持っていた大剣で魔王を屠るべく、一歩、また一歩と進み、


「では魔王よ、さら……ば……」


 突如、足も、口も止まる。


「アッセル、どうした」


 突然動きを止めた正義の使徒にほかの使徒も怪訝な顔をする。


 だが、彼は他の者の声には耳を貸さずに目の前の者に対してのみ注目し……


「貴様!! 魔王ではないな!!」

「気づかれちまったならしょうがねえな! ぎゃーっはっはっはっはっはっは」


 アッセルの怒声に魔王は、いや、魔王の形をしていた者は全身を黒く醜い姿へと変え、ひたすら男たちを馬鹿にするように笑う。


「い、一体いつから……あのときか!」


 思い当たるのは一回しかない。上空から降ってきた悪魔を切ったとき、正義の使徒は一瞬魔王から目を外した。

 勿論、普通ならそれで見失ったり、逃げられたりするはずもないが、相手は魔王の幹部、それくらいやって見せるだろう。


 その場にいる魔王が偽物だとわかった男たちの行動は迅速だった。生き残った三人は即座に探知魔法を展開。魔王の場所を突き止め、出発する。


 あとには悪魔とユウヤだけが残された。


「わりぃな~、最後に付き合うのが俺様みたいな化け物でよ」

「いやいや、そんなこと気にしないでくれ。ベルを逃がしてくれたんだろ。まあ、贅沢を言うなら最後までベルの格好をしていてほしかったけどな」

「ぎゃーはっはっは。俺っちは悪魔だぜ! 人が喜ぶことをするわけないだろう」


「…………」

「…………」


「ありがとう。……ごふっ」


 ユウヤが吐血する。満身創痍の体がついに耐えられなくなり自壊を始める。


 だが、その顔は安らかな者であった。


「ちっ、なんで俺様こんなことを……」


 魔王の姿を模した悪魔は一人つぶやく。自分が使えた主のことを想いながら。


「一人だと騒いだって楽しくないってのに……さて、この後はわざと捕まったら一矢報いるくらいはできるかね」


〇〇〇


「ここは……」

「べ、ベルさん!?」


 景色が変わる。魔王は魔王城の一室、セナとジャンが子供たち二人と遊んでいる部屋に飛ばされたのであった。


「セナに……ジャンか?」

「いったいどうしたんですか! もしかしてほかの幹部の方を倒した奴らが?!」


「そうだ……まだユウヤが戦ってる……」


「なんで私たちに黙って出て行ったんですか! だめです! そんな怪我でどこにも行かせませんよ!!」

「そうですよ! 兄はあなたに戻ってきてほしいなんて望んでいません! あなたのことです。どうせ私たちがいても足手まといだと思ったのでしょう。きっとその通りです。でもそれは今のあなたが言ったところで同じです!」


 ジャンが怒り、セナも怒鳴る。


「では! ユウヤを見捨てるというのか! 我は認めんぞ! あやつは! あやつは!」

「いい加減にしてください!」


 バシンと部屋に乾いた音が響く。向こうで寝ていたソルトは驚き泣き始め、プレアはじっと三人の姿を見守っていた。


「今から行ったところで兄は助からないでしょう! でも! あなたはもう一人じゃないんです! ソルトがいるんですよ! 母親なんですよ! 自分のいのちは大切にしてください!!」


 悲痛な声が魔王の耳にこびりつく。魔王は目を見開く。何十年も、何百年も孤独に生きてきた魔王は初めて家族を得た。そしてそれは十分な決断の糧となる。


「分かった。セナ、ジャン。私達三人は逃げるぞ。私はソルトのために生きて見せよう」


 泣き叫ぶソルトに魔王は歩み寄る。風魔法で浮かせるとセナの方に彼を渡す。両腕がないため抱くこともできないのだ。


「セナ、頼む」

「ええ、わかったわ」


 三人と二人の赤ん坊は魔王城を跡にする。追跡者から逃げ延びるため、子供を生かすため……


 だが……


〇〇〇


「待て、その背負っているものを置いていけ。そうすれば貴様らは見逃してやろう」


 魔王城から出てすぐに男たちに捕捉される。正面に立つのは大剣を持った正義の使徒。だがその後ろにも二人の使徒が待機している。


「そんなことさせるものですか!」

「セナ! やめろ!」


 ジャンの制止も聞かずにセナは魔法を撃ち放つ。だが、どんなに極大な火球も、どんなに細く、鋭い氷柱も一刀のもとに切り落される。


「安心しろ。魔族以外には手を出すつもりはない。今のところはな」

「くっ」

「ジャン、セナ、もうよい、私は行く。だから」


 魔王はジャンとセナの横を通るとき、ソルトに【認識疎外】の魔法をかける。彼から魔族の気配が消え、普通の人間と変わらなくなる。


「ソルトのことを頼んだ。母として何一つできたことはなかったがどうか、私の代わりに育ててくれ」

「ベル!」


 セナの声に、魔王は耳を貸さない。まっすぐに正義の使徒に向くと、


「約束しろ。この二人と二人の赤ん坊には手を出すな。貴様、仮にも正義の使徒なのだろう?」

「分かった。良いだろう。私の敵は魔族のみ。だが、お前が暴れた瞬間その約束は消え去ると思え」

「いまさら暴れやしないよ」


 一歩一歩、魔王はおとこに近づいていく。そして十分に近づいた時、


「ふん!」


 彼女の首が胴体と離れ離れになる。正義の使徒が持っていた大剣で両断したのだ。


「な!?」


 突然の攻撃に驚くジャン。だが、正義の使徒は悪びれずに続ける。


「安心しろ。約束通り、貴様ら人間は助けてやる。どこへでも行くがいい」


「くっ」


 悔しそうに歯を食いしばるセナとジャン。気づけば男達の姿は消えていた。


〇〇〇



「あいつらが……母さん達を……」

「おおう……随分と重い話になったな……」

「これでだいたいお終い。後はきっとお兄様の記憶に繋がるはず。知りたいことは知れた?」


 エーデルワイスが魔力の放出を止める。固有魔法が解かれ、四人の視界がもとの荒れ果てた家に戻った。


「ああ、ありがとな。お前達のお陰で時間も短縮できたし、今の情報を知ることもできた。ありがとう」


 ソルトが二人の妹の頭をなでる。恥ずかしそうにしながらも甘んじてそれを味わうジギタリスとエーデルワイス。


「ん……」

「い、いいって」

「けけって笑わないんだね」

「う、うるさい! エーデ! とっとと帰るぞ!」


 シャルがジギタリスをからかう。顔を真っ赤にしながら彼女は反論し踵を返す。


「ちょ、ちょっとまってよ」


 エーデルワイスが慌ててその背に追い付く。


「送っていかなくても大丈夫か?」

「うん、大丈夫。私は一度行った場所なら一瞬で移動できるから」


 壊れた扉をくぐりながらエーデルワイスが答える。


「そういえばそんな能力も持ってたな……気を付けろよ」

「うん、またね」

「けけっ! それじゃあ二人ともまたな!」


 外の、太陽の光に照らされながら、二人の少女は家を後にする。残ったのはソルトとシャル。


 だが、シャルの顔は少し硬かった。


「シャル? どうかしたか?」


 疑問に思ったソルトは問う。


「ねえ、ソルト、エーデちゃんって一瞬で移動できるって言ったよね?」

「そうだな。固有魔法【この地よりあの地へ】。彼女が覚えている場所ならどんな場所からでも移動することができる」


 齟齬が生じないようにシャルは正確に先ほど聞いたソルトたちの会話から分かったエーデルワイスの魔法の一つを確認し、ソルトもしっかりと答える。


「ねえ、それならおかしくない?」

「なにがだ?」

「なんで彼女、この家から移動しなかったの?」


〇〇〇


「ジギ! 止まってよ!」

「おっと、わりぃわりぃ」

「怒らないから、理由を話して」


 家を出て早歩きのジギタリスにエーデルワイスが制止を呼びかける。

 彼女の固有魔法【この地よりあの地へ】はどんな場所からでも彼女が行ったことを覚えていれば使うことができる。精神さえ集中出来たら。

 とてもではないが歩きながらでは無理だ。


「いや~、大好きなお兄様の両親がああなって俺様としては非常にむしゃくしゃしてるんだわ。そしてそこに、ちょうど良さそうな奴らが来てな」


「丁度良さそうな奴?」

「あれだよ、あれ」


 ジギタリスの指さす方向にエーデルワイスは見たこともない服装に身を包んだ四人組を視界に捉える。


「あれは……」


〇〇〇


「神様は私たちに期待しているようね、こんなにも素晴らしい能力をくれたんだもの!」

「しかしな~、その最初の任務がソルト君の殺害だとは思わなかったぜ」

「仕方ないさ。だって魔王の子供なんだぜ。倒さなきゃいけねえよ」

「皆、覚悟はいいな? これが人と魔族、ひいては神と邪神の戦いの狼煙(のろし)となるんだ。気を引き締めろよ」


〇〇〇


 耳を澄ませたエーデルワイスの耳に聞こえてきたのはそんな声であった。


「ジギ……」

「エーデ。手を出すなよ。俺様一人でやる」



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