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道に咲く華  作者: おの はるか
我、正義の道を執行す
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過去・勇者編 途中経過

「八十六年八の月十三日」


 エーデの声が響く。景色が洞窟らしき牢屋から整理整頓された部屋に変わる。

 白装に身を包んだ八つ目の女性が扉から入り、書類に目を通していた魔王に告げた。


「魔王様、勇者が帰ってきました」

「報告ありがとうエリー。入ってもらってくれ」

「分かりました」


 部屋から出て行く女性、そしてそれと入れ替わるようにユウヤが部屋に入ってきた。


「帰ってきたぞ~。しかし、これは本気でダメだな」


 部屋に入って早々にユウヤの口から愚痴が出てくる。


「全くだ。まさか、洗脳があれほどとは……お前達がギリギリだとは思わなかった」


 状況は単純であった。洗脳を解くためにユウヤが他の異世界勇者を連れてきても洗脳が解けなかったのだ。


 どうやら時間と共に悪化していく類の洗脳だったらしくユウヤ達がギリギリだったらしい。


「しかし、これからどうするんだ? 勇者達はリナですら洗脳解除不可能。その首謀者も不明。そして唯一洗脳解除に成功した俺達はすでに顔が割れて追われる立場……」


「分かっている。だが、今私やお前達が活躍できる場所はない。エリーに情報収集を任せるしかないな」


 だが、その二人の声は暗い。状況はかなり行き詰まっていた。情報が集まらないと力を振るうこともできない。


「クアドリリオンさんでしたっけ? あの人の能力ってホントに情報収集に向いてるよな。この世界の全ての蜘蛛を操れるとか……」


「戦闘力も申し分ないぞ。蜘蛛の中にも魔物はいる。それもA級やS級、果てはSS級などな。勝てるとは思わない方が良い。それに、例え殺せたとしても他の蜘蛛に転生するだけだ」


「なるほど……」


 前向きな話題が出て雰囲気が明るくなる魔王の執務室。だが、魔王は一旦口を閉ざすと何か重要なことを言うかのようにユウヤの顔を真っ直ぐ見つめ語りかける。


「ところで、だ」

「な、何ですか?」


 突然変わった魔王の雰囲気にユウヤは戸惑いを隠せない。だが、そうしている間にも魔王は机を回り込み彼ににじり寄る。


「いつまで名前を呼ばぬ気じゃ。ここにいるのは我とユウヤのみであろう。約束はどうした」

「わ、分かったよ。これでいいか? ベル」

「うむ、満足じゃ」


 たが、それでも魔王は歩みを止めず、ついには勇者の眼前にまで迫る。そして幾つかの魔法陣を展開するとそこから出てきた鎖や触手がユウヤを縛る。


「ちょ、ちょっと!」


「これ! 抵抗するでない。我とお主の仲であろう。それにどうせエリーの探索が終わるまで暇であろう!」


〇〇〇


「閉ざせ! 閉じよ! 闇が訪れ光の精は消え去らん! 【暗黒視界】!」


「わっ?!」

「けっ! これから面白くなりそうだったのによ!」


 突然視界がふさがれ驚くソルトと舌打ちをするジギタリス。


「八十七年、九の月、九日」

 エーデが顔を赤く染めながらも次の場面を宣言する。


〇〇〇


 八角形の机に幾人かが座る。場所は魔王城の会議室。だが、八つの席も座っているのは五人だけだ。


 鬼のバミルがその元凶を報告する。


「緊急事態だ。エリーが封印された。そしてノックスもキサも死んだ。二人の子供も行方不明だ。推定だが恐らく襲ってきた勇者に誘拐されたと考えられる」

「ふむ……それは本当か」


 納得のいかない表情で魔王はバミルに問う。

 だが、その答えは骸骨が机の上の蜘蛛をつつきながらその質問に答えた。


「間違いないらしいのう。蜘蛛も応答せん」

「ぎゃはは、こりゃあもうやべえじゃねえか!」

「しかし、おかしくないか。いくら異世界から勇者が召喚されたところであの二人が倒されるとは思えん……」


 そこで一旦言葉を切り、思考にふける魔王。そして、何かを決めたのか、唐突に切り出す。


「よし、バミル、リナ、ワーリオプス、ガリドルアは各自情報収集にあたれ」

「ですが、それだと魔王城の守りが足りないのではありませんか?」

「ユウヤにセナ、それにジャンもいる。勇者がちょっと攻め込んでくるくらいなら問題はない」


 セナの言葉に魔王は返答する。

 だが、バミルはまだ納得しない。


「勇者ぐらいならな。だが、エリーを封印した存在といい、ノックスとキサを殺した存在といい間違いなく勇者など問題にならない存在がいるはずだ。それについてはどう考えている」


「その時は私が本気を出せばいいだろう。というか私はお前たち全員より強い。私を守ろうだなんて考えるな」

「そうか。失礼した」


 そこまで言われてようやくバミルは引き下がる。


「話しは終わりか!よし! 俺様はとっとと情報とやらを探してくるぜ! ぎゃーはっはっは!」

「では儂も出るとするかのう」


 真っ黒な悪魔ガルドリア、そして骸骨のワーリオプスも部屋の外に出ていく。

 そしてバミルとリナもそれに続き、机には魔王のみが残った。


〇〇〇


「おい、ベル。本当にあいつらを外に出してよかったのか? 少しでも集まっていた方がいいんじゃ……」


 魔王の後ろで控えていたユウヤが問う。


「いや、彼らがいても無駄だ」

「無駄?」


 理解できない返事にユウヤは聞き返すが魔王はそれに取り合わない。


「ソルトは今ジャンとセナのところだな?」

「あ、ああ。プレアとずっと遊んでるよ。それがどうかしたか?」

「いや、あの部屋なら安心だ」

「いったい何を言って……」

「ユウヤ、【転移門】を。場所はここから北北西の方向」

「【転移門】? それはいいけど距離は……これは!!??」


驚愕し、目を見開く。


「お出ましだ」


〇〇〇


「これ……お兄様のお母様の持ち物じゃないかもな。あ、今言ったお母様はセナさんな」

「だね……もしかしたらユウヤさんのものかも」


 能天気に語るジギタリスとエーデルワイス。

 一方ソルトとシャルは顔を真剣な目で事態を見守る。


「なにが起ころうとしているんだ……」

「お父さんとお母さんを殺したのは誰……? 勇者じゃなかったの?」


〇〇〇


「ふふふ、やはりばれてしまいましたね」

「当り前だな。これだけの大人数」

「まあまあ、面倒が省けたのですから問題ないでしょう」

「ふん、その通りだ。魔族が自分からやってきたのだ。ありがたく殺させてもらおう」


 魔王とユウヤが転移して見た光景をソルト達も目にする。


 視界に映るのは薄暗い森の中を進む七人の男達。その誰もが強者の雰囲気をまとっ


「ぐはっ?!」

「エイラス!?」


 魔王が名乗りもせずにいきなり【瞬間移動】の魔法を行使し、七人のうち一人の首を手刀で刈る。


「貴様ら一体何者だ?」


 その時になってようやく男達に問いかける魔王。だが、男たちに動揺はない。既に心を鉄にして全力で警戒に臨む


 だが、名乗りだけは忘れなかった。


「ガダバナートス十四柱が一人【博愛の使徒】イルポット・ジャーニュー」

「ガダバナートス十四柱が一人【希望の使徒】マムミル・ミーノー」

「ガダバナートス十四柱が一人【信仰の使徒】スプルホ・トレーミ」

「ガダバナートス十四柱が一人【正義の使徒】アッセル・ディールトボルト」

「ガダバナートス十四柱が一人【堅固の使徒】ガギュール・シャルロス」

「ガダバナートス十四柱が一人【節制の使徒】ポピトラ・カイロ」


 初撃を生き残った六人が名乗り、激闘が始まる。


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