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道に咲く華  作者: おの はるか
我、正義の道を執行す
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過去・勇者編 旅に出てから一年

「これは……つまり、母様やリナ母様はやっぱり異世界の人だったか」

「そういうことみたいね……そして、ソルトを育てたジャンさんとセナさんはこうして知り合ってたのね」


 ソルトとシャルがそれぞれの見解を述べる。ジギタリスとエーデルワイスも続ける。


「しっかし、これからこのユウヤとかいう勇者が魔王を倒しに行く感じなのかな」

「ジギ、多分違うよ。勇者パーティーは複数ある感じだった」


 エーデルワイスの言葉に「確かに」とジギも頷く。


 そして再び場面が移り変わる。


「八十五年、十二の月、二十五日」


〇〇〇


 ユウヤとセナ、そしてジャンが一つの町に入ろうとしているシーンであった。すでに旅が始まってから二年経っている影響か服装も変わり、体つきも逞しくなっていた。


「龍が……現れた?」

「はい……そのせいでこの町にやってくる商人は絶え、食料すら龍に襲われて満足に得られない状況です」

「なるほど、事情は分かりました。私たちにお任せ下さい。必ずや龍を生け捕りにいたしましょう」

「面倒な条件を押しつけてすみません。勿論無理そうであれば殺していただいて結構です。新鮮な龍の肉ならば食べることができるというだけですので」


 状況的にはユウヤ達三人が立ち寄った町が龍に襲われ、その龍を退治すると言う流れらしい。


 町に荷物を預けると戦闘に必要な武器と道具だけを手に持ちユウヤとセナ、そしてジャンは町の外に出ていく。


「ユウヤってほんとにお人よしよね」


 発言したのは紅一点のセナ。龍の生け捕りという明らかに困難な任務をあっさりと請け負ったことに少し怒っているのかもしれない。


「まあまあ、セナさん、そこがあなたのお兄様の長所でもありますから」


 隣で立っていたジャンがセナをなだめるようにしてユウヤのフォローにまわる。

 しかし、それではセナの怒りは収まらなかったようで、


「ジャンったら! そんなこと言うからこの前危なかったじゃない! 盗賊が命乞いしたからってそれをあっさりと信じたりして。【勇者】なら相手の悪意がわかるのでしょう? それすら確認しなかったのよ!」

「わ、悪かったよ」

「謝罪の言葉が欲しいわけじゃないの!」


 それきりそっぽを向いてしまうセナ。ジャンとユウヤは仕方ない、とため息をつきつつ、龍が目撃されたという場所に向かうのであった。


〇〇〇


「母様の……兄?」

「もしかしてソルトのお父さんって……この人?」

「目つきは似てる……」

「面白すぎだろ!」


〇〇〇


 再び場面も変わり、岩場が多い場所に三人はやってきたようだ。警戒しながら道とも言えない道を進んでいく。


「目撃情報から考えると多分ここら辺だと思ったんだが……!?」

「あ、あれは!?」

「間違いありません! 龍です! まだ子供のようですが油断はなりませんぞ!」


 ユウヤが一番に気づき両手剣を、次いでセナは魔法の威力を増大させる杖を、ジャンも片手剣を構えて警戒する。


 三人の視線の先には黄金の雷を纏った龍がいた。洞穴からのっそりと歩いて出てくる。睡眠から覚め、今から餌を探しにでも行くのだろう。


 だが、龍の方も三人に気づいたのか、飛び立つために広げようとした翼の動きを止めユウヤ達の方を向く。そして口の中に魔力を充填し、


「気をつけろ! ブレスが来るぞ!」


 ジャンの声にハッとした二人は急いで距離をとる。


 ほとばしるは黄金の雷。それが戦闘開始の合図であった。


 だが、ユウヤやジャンの戦闘力、連携は見事なものであり、セナの支援の魔法も完璧であった。結果としてそう長くない間に龍はユウヤの【束縛】魔法に捉えられ、その力を抑え込まれたのであった。


〇〇〇


「え~、あれで終わりかよ~」

「ジギ、そんな風に言わないの。あの三人が強いんだよ」

「あの三人の連携すごかったね……」

「でもあの龍……どっかで……」


〇〇〇


「おおお!! ありがとうございます! ありがとうございます!」


 町に戻った三人を町長と思われる男が町民総出で歓迎する。龍は【束縛】魔法で縛ったまま町の中央広場に固定され、苦しそうに呻いているがユウヤとセナが協力して作った魔法を破る力は内容で全く抜け出す気配はなかった。


「いや~、勇者様、本当に感謝いたしますぞ」

「いえいえ、それにこの龍はまだ子供です。そんなに難しくはありませんでしたよ」

「いやいや、子供とはいえ雷龍の子供を捕らえるなど、勇者様でなければできませんとも」


 だが、その時唐突に龍は咆哮をあげる。先ほどまで完全に拘束していたはずなのにその魔法を力づくで破ると翼を広げる。空へ逃げようとしているのは間違いない。


「な、何故?! 完全に捕まえていたではないか!」


 町長と思われる男は恐怖のあまり腰を抜かす。だが、龍は暴れるようなことはしなかった。ユウヤ達が武器を構えるよりも早く空に飛び立ち、あっという間に三人が手を出せない上空にまで到達する。


「な、なんでいきなり龍の力が増したんだ?!」


 動揺のあまりユウヤは叫ぶ。隣でジャンが推測だが考えを述べた。


「魔物の力が増大……確か【魔獣調教師】と契約すればそんなことが起こると聞いた記憶が」

「そんなまさか、龍と契約可能な人がこの街に?!」


 セナもおどろくが、そう言っている間に龍は上昇を止め、今度は一直線に一つの家に急降下する。


「な!? 家が!」

「セナ! 援護を頼む! 俺とジャンであいつを!」


 しかし、一瞬ユウヤが振り返っただけの時間で龍は目的を終えていた。一人の赤ん坊を頭に乗せ再び咆哮を上げた。


「あ、あれはうちの子よ!!」


 一人の女性が声を上げた。その声にハッとし、追いかけようとする三人だったが逃げに徹した龍に追い付くことは難しく、直ぐに見失ってしまったのであった。


〇〇〇


「なあ、時系列的に考えて……」

「え、ええ、そうよね」

「間違いなくプレア姉さま」

「俺様、エーデについてきてよかったと思ってる……赤ん坊のお姉さまむっちゃかわいい……」


〇〇〇


「申し訳ありませんでした……俺たちのせいで女の子が……」


 ユウヤが申し訳なさそうに謝罪する。部屋にいるのは町長とユウヤのみ。ジャンとセナは戦闘の疲れを考慮して先に宿で休んでもらったのであった。


「いえ……生け捕り、という無茶な願いを出したのは我々です。あなたがたはそれに答えただけに過ぎない。それに龍の住処だった場所には今も戻っていません。既に住処を変えたとみるのが妥当でしょう。少女一人の命でそれが達せられたというのなら……ましな結果と言えるでしょう……」


 悔しそうに拳を握る町長。ユウヤも責任を感じ提案をあげる。


「私達が何としてもあの少女を救い出します。それで許して、とは言いません。しかし魔王を倒す道中で必ずや見つけてみせます!」




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