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道に咲く華  作者: おの はるか
我、正義の道を執行す
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過去・勇者編 日記帳

「ああ~! もう! 最悪よ~!」


 ギルマット王国から出た公道。十人の男女がその道の端で座り込んでいた。


 そしてその中で金の髪をぐしゃぐしゃにしながら呻く少女がいた。


「それでナイル?、これから私たちは何をするべきかしら?」

「決めてくださると助かりますね。私なんて人形の修理をしていたら突然呼び出され、身支度も早々に、事情も教えられないまま連れてこられたのですが……」


 チェリシュと青いドレスに身を包んだマドルガータが尋ねる。マドルガータの顔は不機嫌そのものだ。


「ああ、そうね【怠惰の使徒】が現れたのよ。能力は恐らく物体を停滞させる霧。室内の戦闘は不利と判断して撤退した次第よ~」

「【怠惰の使徒】?」


 その言葉にマドルガータは怪訝な顔を浮かべる。


「ええ、事情は分からないけれど私たちが出会った【怠惰の使徒】とは全然違ったわね~。まあ、詳しい話は知らないわ~。問題なのは向こうが本格的に私たちを潰そうとしてきたことね~」


「それで……どうする……の」


 声の主はチェリシュという少女。

 ナイルがこれからの方針を決める。


「目のアクア、鼻のチェリシュ、耳のサクラス、それにプレアはソルト君の捕獲を。右足以外が手に入った現状、魔王には一刻も早く復活して欲しいわ。彼の場所はもう絞り込んでるからそこをあたってちょうだい。他のメンバーで王国連陣営の力をそぐわ」


「場所が分かってるの?!」


 聞くのはプレア。ソルトの場所ということでその目は期待で満ちあふれていた。


「簡単よ。悪魔の脳使うまでもないわ。一応使ったけれど」

「それは……どこ?」


「ソルト君の今の状況を考えれば簡単よ。彼も今、私たちと同じく王国連から魔王の血族として追われている。そんな彼が、私たちが唯一回収していなかった右足を確保した、そうなったら王国連の中にいる必要はない」


 巫山戯た間延び口調ではなく真剣な言葉で自身の思考を語る。


「まあ、左足は俺とヴァンだけで十分だったしな」

「こらサクラス~、油断しないの」


 サクラスと呼ばれた青年がチェリシュに怒られる。だが、たいして気にせずにナイルは話を続けた。



「さて、そうなったら彼の次の行動は何か。簡単よ。現状に関する情報収集。しかし、彼は生まれてから狭いコミュニティーの中でしか生きてこなかった。キエラの村と魔王城改め孤児院ね」


 そこで再び声を切るナイル。腰に下げた水袋を口に運び喉を潤す。


「そして、恐らく彼は気付くわ。魔王城は本来辿り着くのに何ヶ月もかかる遠い場所にあるということに。勘が良ければ孤児院が魔王城だということに気付くかも知れない。S級の魔物がゴロゴロ出るのは魔王城か、それに関する場所ばかりだからね。そうなると……」

「キエラの村……」


 プレアは小さく、されど確信を持って呟いた。


「そう。プレアに聞いたところだとその村、昔はセナさんの結界装置もあったのよね。ちょっといじればソルト君なら直せるんじゃない? 隠れるのにはうってつけね。それにその家にはもしかしたらあなたのお母さんの手記もあるかもしれない。情報収集にもうってつけね」


〇〇〇


 シャルトラッハ王国の辺境、壊れた家屋や散見され、十年前には集落があったと思われる場所。


 その場所から少し離れたところで一つの大きな家が建っていた。


 その建物も他と同じく一階の窓はほとんど割れ、人の住む気配はなかった。


 だが、家の中に生物が皆無というわけではなかった。数え切れない程のこうもりが家の中を飛び交い、ひっきりなしに棚を開け、中身を物色していた。



 その家の玄関前に魔法陣が現れ、ソルトがそこに現れる。


「シャル~、見付かったか?」


 すると先程まで縦横無尽に飛び交っていたこうもりはソルトの目の前に集合し、みるみるうちにシャル・ミルノバッハの姿形を形成する。


「頼まれてた物は幾つか。これとこれとこれとこれと」


 次々とこうもりがやって来て足で掴んでいた冊子をシャルの手の上に載せていく。


「とりあえず読めない言語で書かれてたのはこれだけね。日記は見付からなかったからこれじゃなかったらもう無いわ」


 場所はキエラの村はずれ、ソルト達が十年前に住んでいた家だ。


「ああ、それでいい。ありがとな」


 ソルトがシャルに頼んだのは彼の育ての両親セナとジャンが残した情報を探すためだった。


「俺は魔王や勇者との間に何があったのか全くといって良いほど知らないからな」


「でもそれ、どうやって読むつもり? 読めないわよ」


 ソルトが彼女から受け取った本を開く。確かにそこには彼の知らない文字で書かれた文章らしきもので書き埋められていた。


「【リーディング】を使うつもりだったけど……うん……かなり時間食うな……」


 【リーディング】の魔法は必要なことだけでなく書かれている内容全てが頭に入ってくる。


 だが、それも一瞬で、というわけではなく、量が多ければ時間もかかる。その間動けないとなると正直に言って、追われている立場のソルト達にとっては致命的である。


 今でさえプレアがこの場所に思い当たり突撃してくる可能性もあるのだ。常に動ける状態でいることに勝るものはない。


 その時、玄関から唐突にノックの音が響き渡る。


「誰だ!」


 ソルトは即座に腰に差していた刀を抜き、シャルは一瞬のうちに影の中に潜り込む。


「ソル兄様、私だよ。えーでるわいす」


 扉が開かれる。現れたのは背がソルトよりも頭二つ分黄眼の少女。黄色い髪飾りを括り付けた白い髪を地面すれすれまで伸ばし、薄緑の服で身を包んだ彼女はひたひたとソルトに歩み寄る。


「エーデ……なんでお前がここにいるんだ」


 ソルトは彼女を知っていた。ファミーユ孤児院の義妹。エーデルワイス。年は十三。愛称はエーデ。二人にとって数か月振りの再会である。

 だが、勿論、ソルトはここで喜べるほど楽観的ではない。


「エーデがここにいるってことは……リナ母様は俺の場所に気づいているのか?」


 ソルトが真っ先に警戒したのはそこだ。ソルトは現在、リナも魔王陣営ではないかと疑い始めている。隠していることが多すぎるのだ。孤児院だって王都から一か月で行ける場所にはなかったし、SS級冒険者を見たソルトは鍛えてくれた鬼のバミルや骸骨のワーリオプスが如何に埒外な実力を持っていたかを知った。


「ううん。これは私たちのどくだん」

「私達?」

「けけけ! 俺様もいるんだぜ! エーデ一人で孤児院から無傷で出られるわけないじゃねえか。こいつ戦闘力零だぜ」


 ソルトが「私達」という部分を聞き返した瞬間玄関からもう一人の少女が踊るように飛び行ってくる。


「ジギ……お前までいたのか」


 新たに出現した少女にソルトは警戒心を強める。エーデるワイスと同じく孤児院の少女。年もエーデルワイスと同じ十三。名前はジギタリス。愛称はジギ。特徴的なのは間違いなく鮮やかな紫の髪だろう。緑の目に対し妖しくなびくその髪は強力な魔力を帯びていた。


「けけけ。そうだぜお兄様。まあ、この場所だろうって言ったのはノイだけどな。大変だったんだぜ。ここまで来るのは」


 また別の人物の名前を出すジギタリス。


「ノイか……相変わらず頭だけは回るって感じか」

「しゃ―ねえだろ。あいつまだ九歳だぜ。流石に付き合わせるわけにはいかねえよ」


 孤児院の外に出る、これは実力がなければ自殺行為にも等しい。なぜなら孤児院を取り囲むのはS級の魔物がざらに出てくる危険な森だ。ソルトもまともに森の中でまともに逃げ回れるようになったのが十四になったから、魔物と戦えるようになったのは十五になってから、魔物相手に負けなくなったのは十六になってからだ。


「しかしお前ら……よく森を抜けられたな」


 言外にソルトが年齢のことに触れる。彼女たちは二人とも年はまだ十三。だが、ジギタリスはその言葉を鼻で笑う。


「おいおいおい。何のために俺様がエーデに引っ付いてきたと思ってるんだよ。この俺様、ジギタリスちゃんだぜ。襲い掛かってくる魔物なんていねえよ」

「それもそうだな。毒を操れるんだったか?」

「どっちかといえば体内の特定の毒だけを操れるんだけどな。だからリア姉の料理は無理だ」


「ジギ、悪口はだめ。用事をはやくすまそう」


 隣で黙って聞いていたエーデルワイスが会話に割り込み、中断させる。ジギタリスは「そうだった、そうだった」と言いながら話を切り出す。


「用事?」


 ソルトのといかけに「そうだ」とジギタリスが答える。


「簡単なことだ。今の状況はリナ母様の行動見張ってたら大体わかった。お兄様が姿を隠した経緯もな、理由はどうでもいいから考えてないけどな」

「お姉ちゃんが許せなかっただけだよ」

「お姉ちゃんか。俺様も見てみたいぜ。と、まあ、話を戻してっと、今、お兄様はかこに何があったのか探している訳だろ? そしてその手掛かりのあるこの家にやってきたわけだ。しかし、文字が読めない! はっずかしい!」

「ジギ、ソル兄様を悪く言わないの」

「わりぃわりぃ。で、そこはノイのやつが予想してくれた通りになったわけだが、そこで私たちが助けに来たわけだ。エーデの力を使えば一瞬で解決だろ?」

「なるほど、【かの地よりこの地へ】か」


 ソルトはようやく納得する。エーデルワイスの持つ固有魔法【かの地よりこの地へ】。故人の遺品を手に取れば、生前どのような生活や思い出をしていたのかを一瞬でくみ取ることができる魔法である。


 たしかにそれなら余計な時間をかけずにソルトたちは目的を達成することができる。だが、


「お前らの目的はなんだ? そこだけがわからないんだが」

「目的? はは! 笑わせるぜ!」

「ジギ、笑わない。ソル兄様は今大変なんだから」

「しかしよ~。こんなにかわいい妹が二人もお兄様のために動いたんだぜ」


 紫の髪を手で弄りながら、上目遣いでソルトに死線を向ける。その緑の両目に少し悲しげな色を乗せて。


「お兄様が好きだから、じゃ、だめか?」


〇〇〇


「これでいいかしら?」


 最初ソルトの影からシャルが現れ、一瞬は驚いたジギタリスとエーデルワイス。


「充分です。はじめましょう」


 だが、その警戒もソルトがシャルと親し気に話し出すと少女二名はすぐに警戒を解く。シャルが懐からセナの手記らしきものを取り出すとエーデルワイスが受け取った。


「固有魔法【かの地よりこの地へ】発動」


 その瞬間、四人の視界がぐにゃりと歪む。


 手記の一番最初に書いてあった内容は日付。


 二十年前の日付がそこには書いてあった。


これからは日曜の夜(十時半ろ)に投稿させていただきませす

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