異世界勇者編 魔王の右足
「それでは王宮の方へ案内させていただきます」
『うん、よろしく頼むね』
異世界勇者の少年たちが目覚めたのは十一時。そこから朝食兼昼食を食べた五人のもとに王宮から再び騎士の女性が宿にやってきた。
「ところで【魔王の右足】って、王宮に封印されてるのか」
リュウヤが疑問に思ったことを口に出すがクルルシアがすぐに答える。
『ある程度の戦力かいつも確保できるからね。流石に軍隊は町の中じゃ訓練できないし』
「どういうことです?」
『数千人が兵士として訓練するからね。町の近くじゃ土地が足りない。だから城に常駐する兵士以外は普段、ここから馬で半日ほどの距離の兵舎で生活しているよ』
「あの……それっていざという時大変では……?」
カイトも少し不安そうに声を上げる。シャルトラッハ王国で【悪魔喰い】が暴れた際に兵士がほとんどいなかったことを思い出したのだ。
『元々戦争は魔族としかやってないからね。そこまで危機はないよ。もっとも大勢の兵がすぐには来れないと言う弱点を【悪魔喰い】は突いてきた訳だが』
そんな知識埋めをしていると気づけば五人は、王宮の門前にたどり着く。緊張したのかユウが騎士の女性に話しかける。
「え~と、ミヤーさん? 俺達はこれから何をすればいいんでしょうか?」
「それほどお気になさらず。あなた方は王へ顔だけ見せて貰えれば結構です」
『そうだね。細かいところは……というか全部私が対応するよ』
そのクルルシアの太鼓判に四人の少年は安心したような表情を浮かべる。シャルトラッハ王国でも王族には会い、最近ようやくそう言った人たちとの会話にも慣れ始めた彼等だったが全く見知らぬ王族となると再びの緊張は避けられないのであった。
「2番隊隊長ミヤー、ただ今戻りました」
「はっ! お疲れ様です」
門番に軽く挨拶をすると敬礼が帰ってくると同時に門が開かれる。そして王宮の中を進み、ひときわ大きな扉の前に五人は並ばされる。
「それではクルルシア様はこちらへ。異世界勇者様も続いて下さい」
その合図とともに扉は開かれ、クルルシアを含む五人は部屋の中に入る。
クルルシアは部屋い入った瞬間【伝達】魔法で自信に向けられる視線の感情をくみ取ると同時に部屋の中にいる人数を把握する。部屋の奥、その薄い布で遮られた空間に二人、恐らくこれが王族とその護衛だろう。そして布のクルルシア側には彼女から見て右側に文官らしき服装をした男達、左側には騎士の甲冑に身を包んだ集団が待機。
(屋根裏にも七人、そして私の後ろにも姿を隠して六人……私が【伝達】魔法を使えることを知らないのかな……)
部屋に入り、薄布の手前でひざを折り、頭を伏せる五人。その間にもクルルシアはさらに部屋の状況を確認していく。
少年たちは気づいていないが、五人の背後には姿や気配を隠蔽した存在が六人、王国側はクルルシア達のことをよほど警戒しているようであった。
だが、クルルシアが何を考えているか知らずに布の向こう側から声が響く。
「お主がクルルシアか。活躍は聞いておる。そして後ろの少年達が勇者として召喚された者達だな。我がこの国五代目の国王シュルマートス・ギルマット。この度は来てくれたことに礼を言おう。感謝する。顔を見せて貰えるか?」
「は、はい」
少し緊張したようにしながらも顔だけ挙げて、向こうから顔が確認できるようにする少年たち。
「うむ、お主らの顔は覚えた。活躍期待しているぞ。それと、クルルシアよ。お主はいつまでこの国にいるのだ? 出来ればお主にも魔王の右足を守る手伝いをして欲しいのだが」
頭を下げたままのクルルシアに王と名乗った男は誘いの声をかける。だがクルルシアの返答はそっけないものだった。
『すみませんが私はすぐにここを発ちます。ここへの任務は異世界勇者様の送りのみですので』
「ふむ、分かった。こちらも無理に、とは言えん」
『温情感謝いたします』
心の中ではちっともそんなことを考えていないクルルシアだったが一応丁寧に返事を返す。
「では、クルルシアよ、お主はもう下がっても良い。グーバーは四人の少年達を封印場所へ案内してやれ。普段はこの王宮にすむことになるとはいえ、一度くらいは封印場所を確認しておいてもらえ」
「はっ!」
左側に控えていた中で最前列に並んでいた男が返事をする。一番立派な鎧を身に着けている男であった。
その後、クルルシア共々、五人はその部屋を一旦退室するのであった。
〇〇〇
「緊張したな~」
部屋をでてグーバーという男に案内された部屋で少年たちは気を緩めるのであった。なんでも案内するために少年四人には特別な装備がいるらしくその準備のための待ち時間、彼らは暇になったのだ。
だが、先ほどの会話を思い出したのか、リュウヤが話題を上げる。
「クルルシアさん、ホントにいなくなっちゃうんですか?」
内容はクルルシアのことだ。先ほどのやり取りを聞くかぎり、クルルシアが彼らと行動を共にしてくれるのはこれが最後だ。
『うん、悪いね。私もちょっとやらなければならないことがあるから』
「ソルト君ですか」
『……そうだよ』
一瞬答えに詰まりながらも【伝達】魔法で意思を伝えるクルルシア。
「あの……正直に言わせて貰うんですが魔王の体を守らないのはなぜですか。魔王が復活してしまえば世界が終わってしまうかも知れないんですよ」
魔王の復活を阻止する、という理念に共感を示さないクルルシアにリュウヤが詰め寄る。
「おい、やめとけって」
「そうだよ、クルルシアさんに失礼だよ」
カイトもユウも流石に失礼だと思ったのか、それともクルルシアが起こると思ったのか、リュウヤを止めに入る。ダイに関しては興味ありげに耳を立てていた。
クルルシアが答える。
『いや、いいよ。せっかくだから教えてあげる。わたしは正直魔王が復活しようが滅びようがどうでもいいんだよ。私にとって大切なのはソルト。それ以外は本当にどうでもいい』
「そ、そうですか……」
『【悪魔喰い】騒動の時は、まだ彼自身が知らなかったから防衛側に付いただけだ。知らないならそのままのほうが何倍もよかったからね……』
「ど、どういうことですか!」
『自覚するだけで世の理は動き出す。それも魔王と勇者、両方の関係者ともなればね。本格的に干渉してくるだろうね。彼が君たちのような傀儡になる前に私は彼を見つけないといけない』
彼女の口から出てくるのは転生者である少年たちにも意味不明な言葉の羅列。
『分かったら封印場所でも確認してきなさい。私は明日にはこの街を出る。【直感】が働くんだ……。ソルトが近くにいる。だから私は君たちの護衛をしてここまで来たんだ……』
そう言って部屋を出ていくクルルシア。気まずい雰囲気の中少年たちは顔を見合わせる。
「じゃ、じゃあ、俺達も行くか。城の中庭で待ち合わせだったよな」
「そうだね。あと数分かな」
〇〇〇
「そうですか。ホントに異世界から来てくださったのですね」
「ま、まあそんな感じです」
約束場所の中庭に着いた四人はグーバーと名乗る騎士に案内されながら地下へと続く階段を下りる。
「いや~、しかし、助かりますよ。なにせ敵は転生者。それに対抗するには我々だけでは心細い面もありますからね。あ、そうそう。この腕輪を。魔王の足は腕に比べて瘴気が何倍も強いのでこちらの腕輪をしてください」
そう言って四人に銀色の腕輪を手渡す男。礼を言いながら四人はそれを上腕部にはめる。
「ありがとうございます。ところでそんなに戦力がちがうのですか?」
「まあ、そうですね。こちらも転生者を何人か確保していることはあるのですがそれでも【悪魔喰い】の転生者と思しき者は格が違う。まるで神が力を与えたかのような次元なのです」
高らかに歌うように話す騎士。だが、その直後ボソッと呟く。
「だからこそ、こちらの世界の住人でありながら彼らと張り合えるクルルシア嬢は手駒に加えたかったのでしょうな……失敗しましたが……」
「何か言いました?」
カイトが不思議そうに聞き返すが騎士の男は再び全員に聞こえる大きさにまで声を大きくする。
「いえ、何も。そして勇者様方。そろそろ封印が見え……」
「ど、どうしました?!」
声の大きさを大きくしたと思ったら今度は無口になる男グーバーに戸惑う少年たち。
「し、静かに!」
だが、騎士から帰ってきた返事は緊迫感を孕んだもの。自然と少年たちにも緊張が走る。
そしてそこに聞こえてきたのは魔王の体の封印場所に似つかわしくない女性の声だった。
「やられた。先を越されるとは思ってなかった」
「ほんとに……それ……」
「二人とも、任務中は静かに。油断もしちゃダメよ」
階段の下の方から聞こえてきた声に五人の警戒心はさらに高まる。
「あ、あの声は……」
「まさか【悪魔喰い】のやつらか!」
騎士の男がその正体に思い当たり警戒を促す。
「全員戦闘態勢を取ってください」
「え、もうですか!? まだ心の準備が」
「何を言いますか。ここで右足を奪われれば魔王復活がまた一歩近づくのですよ。安心して下さい。私が一人を担当します。残り二人は四人で何とか倒して下さい」
「わ、分かりました」
強く言われ言う通りに武器を構える少年たちであった。
〇〇〇
当然少女たちの方も気づく。
「ふたりとも、ストップ」
「ん? どうしたのアクア……ああ、なるほど。ミネルヴァ、結界頼めるかしら。洞窟が崩れないように補強しておいて」
「わか……った……」
途端に壁の中にミネルヴァの魔力が浸透していく。その気配を感知したグーバーが戦闘に突入する。
「くっ、バレたか! いくぞ!」
「は、はい!」
急いで会談を駆け下り敵の姿を確認する異世界勇者組。階段を駆け下りた彼らが視認したのは三人の少女。
一人は黒髪、十四という年齢にふさわしい身長の白衣の少女チェリシュ・ディベルテンテ。
一人は金髪、二十を超えているにもかかわらず小柄な体格のミネルヴァ・アルトリア。
一人は茶髪に猫耳を生やし、二人よりも少し長身の少女アクア・パーラ。
猫耳少女が冷静に判断を述べる。
「チェリシュ、閃光弾を。その間に私が片付ける」
「はいは~い。神届物【幽霊武器・不殺の閃光弾】」
右手に召喚したのは半透明な閃光弾。少年たちが下りてきた瞬間に彼らに向かって投げつける。
「くっ!?」
「ま、眩しい!」
会話を聞き目をふさいでいてもそのすべてを貫通してチェリシュの閃光弾は網膜に疑似ダメージを与える。
「落ち着け! 【幽霊武器】ならばその使用者以外なら全員にこの閃光は効くはずだ! 視界がつぶれているのは相手も同じ、怯むな……よ……」
「グーバーさん!? どうしたんですか?」
状況が全く呑み込めずにあわてる少年たち。だが、混乱する彼等もまた攻撃を受け……
「【キングシールド】!」
その寸前、直感に従ったダイが五人それぞれに結界を張る。
「な?!」
今度の声は猫耳の少女から。殺すつもりの一撃が遮られ驚きの声を上げる。
だが、彼女は即座に行動を変更。守りに徹し始めた勇者に追撃をすることなく、日本の剣を背中の鞘に納めると腰にほかの二人の少女を抱え、階段を駆けあがるのであった。
視界が戻った少年たちの目に留まったのは頭と胴体が分かたれた騎士グーバーの死体だった。




