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道に咲く華  作者: おの はるか
我、正義の道を執行す
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異世界勇者編 ギルマット王国

『さっきはすまないね。彼女の正体に気付くのが少し遅れてしまった』

「い、いえ……」


 夜の闇の中を飛ぶこと数時間。顔色の悪い四人の少年と一人の少女。その中でクルルシアが謝り、リュウヤが話題を逸らすように話を変える。


「ところでクルルシアさん……貴方って本当に人間……、人族なんですか?」

『私? 勿論だよ。探したらまだ戸籍もあるんじゃないかな』

「探したら、ですか……。いや、そうではなくて……」

『ん? ああ、この状態のことか』


 現在五人がいる場所は上空。いや、五人というのは正確ではない。ぱっと見では四人と1匹の龍だ。

 ジャヌを孤児院への遣いにやった後クルルシアは龍と化し、四人を背中に乗せて飛び立ったのであった。


『私も昔は普通の人だったよ。今はそうだね……正確にいえば半人半龍かな』

「あの、【心通者】ではなかったんですか?」


 カイトがクルルシアに尋ねる。【名探偵】のジョブによるスキルでクルルシアのジョブを看破したのだろう。だが、その瞬間足下のクルルシアから怒気が発せられる。


『君、見たな』

「ひっ」


 間近から殺気にも似た圧迫感を与えられ龍となったクルルシアの上でへたり込むカイト。クルルシアが怒気を抑えて、言葉を続ける。


『君、少し軽率すぎるよ。人の、それも紹介していないのに第二段階のものを答えるなんてマナー違反だ』

「ご、ご免なさい」

『うん、今後気を付けるように。他の三人もね』

「わ、わかりました」


 大人しく頷く三人であった。


『まあ、第二段階までしか分からないようだからそこまで問題もないか……。ちなみに私のはもう一つ上だ。寿命も、体力も生命力も姿形さえも共有している』

「だ、第三ジョブ?!」

「そ、それって俺達異世界人とかだけしか辿り着けないんじゃ?!」


『異世界人だけ? 何のことだい?』


 クルルシアが不思議そうに尋ねる。


「あ、いえ……王宮で習った内容では第三ジョブは僕たち異世界者の証明だと思え、と言われまして……」

『私は純粋にこの世界の住人だから、多分それ間違ってるよ』

「そのようですね……」


 一応自分たちが間違っていた、という形で話を終わらすカイト達。実際に少年達が聞いた内容は第三ジョブもこの世界の住人でも辿り着ける、というものだった。


 だが、そのためには血の滲む努力を数十年かけてようやく辿り着く、という過酷なものだ。二十にもならない少女が会得するものではない。


 改めてクルルシアの才能を感じる少年達であった。


 そしてまた数時間飛んだとき、クルルシアが【伝達】魔法で少年たちに呼びかける。


『よし、そろそろ見えてくるんじゃないかな』

「え? 一体なにが?」


 少年たちが前方を見たその瞬間、地平線の向こうに夜にも関わらず明々とした光が見え始める。その距離はぐんぐんと縮まり少年たちも目で捉えはじめる。


「あれは……町?」


 呟いたのはユウ。クルルシアが答える。


『そうだよ。ギルマット王国、王都パラサラット。魔王の体が封印された場所の一つだ』


〇〇〇


「シャルトラッハ王国よりよくぞ参られました。この度案内をさせていただきます、ギルマット騎士団二番隊隊長テルレム・ミヤ―と申します」


 町の外で龍から降り、門まで歩い五人を出迎えたのは騎士の鎧を身にまとった女性であった。クルルシアが女性だということでギルマット王国が気を使ったのかもしれない。


『うん、出迎えご苦労様。ギルド長や王様にはすぐ挨拶したほうがいいのかな?』


 その言葉を受けてミヤーはクルルシアの後ろに並ぶ少年たちに目を向ける。


「いえ、もともとの予定より早いご到着ですので明日で結構です」


 少年たちが疲れていることを見抜いたのかもしれない。予定を伸ばしてくれる女性。


『そう、ありがとう。じゃあ、宿まで案内してくれるかな?』

「はい、お任せを」


 それだけ言うと五人に背を向け歩き出す女性。少年たちも遅れないようについていく。


「なあなあ、俺たちここでどんな扱いなんだっけ?」

「それは確か……」


 こそこそと話す少年たち。そこにクルルシアの【伝達】魔法が割り込む。


『魔王の右足を守るべく君らは選ばれた。もう一つの魔王の体が封印されている場所にも君たちと同じレベルで戦える子たちが向かっているよ』

「え?」


『君たちは今すでに十分な戦力となっている、というのはさすがに建前かな。四十人もいて転生者一人に負けたんだから』

「うっ……」


 その言葉に人形遣いのマドルに負けたことや語尾を伸ばす少女ナイルに何もできずに敗北した記憶がよぎる。


『しかし王都も現在、けが人が多くてね。君たちですら立派な戦力に数えられているのは間違いない。あと声を出すのはやめたまえ、彼女に聞かれる。君たちがいた国と仲のいい国でもない。警戒だけはしっかりとしておいてくれ』


 前を歩く女性騎士に目を向けながらクルルシアは少年たちに伝える。

 だが、そんな注意をする間にかなりの距離を歩いたのか一つの建物の前で騎士は足を止める。


「ここがお泊りいただく宿になっております」


「すげえ」

「おおお」

「これ……宿なのか」

「俺、異世界の宿って初めてだわ……


 案内されたのは異世界になら普通にある宿。勿論五人を歓迎するため、そこらの宿とは格が違うが少年たちにとってそこは重要ではない。


『はいはい、みんな。とっとと中に入るよ。ではミヤーさん、案内ありがとうございました』

「いえ、任務ですので、お気になさらず。では明日の昼、再び迎えに参ります」


 そう言って足早にその場を離れる女性。クルルシア達もその姿を見届けた後宿の中に入るのであった。


〇〇〇


「やっと休める~」

「全くだぜ。一日中座りっぱなしっていうのも辛いもんだ」

「ダイなんて体が大きいから滑り落ちないようにバランスをとるのに必死だったもんね」

「カイト、ジョブのスキルでそういうのを見るのはよせよ」

「ダイ、ごめん、俺でもわかった」

「ユウ?!」


 宿で受付を済ませ、クルルシアとは別の部屋に泊まる四人。気分んは完全に修学旅行のノリであった。

 ちなみに時刻は午前四時、夜通しで竜の背中に乗っていたのでそろそろ眠い四人であった。


「それにしてもごはんもおいしかったな!」


 ユウの言葉で宿で出された軽食を思い出しながら、同時に四人は道中で出会った青髪の人食い少女を思い出す。


「うっ、おれちょっと気分が悪くなってきたぜ……」


 ダイが気持ち悪そうに胃をなでる。


「でも結局あの女の子何だったんだろうな、魔力量なんてほとんどなかったと思うのにクルルシアさんでも逃げを選んだんだろう?」


 ユウがベッドに寝転びながら会話に混ざる。


「うん、そうだね。彼女に聞いても答えてくれないし……」


 すでにクルルシアへの聞き込みは済ませたカイト。


「とりあえず寝よう。これから僕らは魔王の足を守るべく戦わなければいけないんだ。休息も大事だよ」


 そう言ってリュウヤもユウと同じくベッドにもぐりこむ。その行動を合図にまだベッドの外にいたカイトとダイもベッドにもぐりこみ、眠りにつく。


(それにしてもクルルシアさん……ジョブ以外に持ってたあの照合用……どういう意味なんだろう)


 クルルシアに能力看破を仕掛けたときに見えた明らかに【魔獣調教師】の進化系ではない称号にカイトは疑問を浮かべながらベッドで、眠りにつくのであった。


(【神抗者】ってなんだよ……)


 だから聞こえなかった。隣の部屋から聞こえてくる一つの小さな心の悲鳴を。


『ソルト……どこにいるの……』


〇〇〇


「ふうっ、ようやく儀式の準備が整ったね~」


 シャルトラッハ王国、その首都の地下で男が怪しげな魔法陣の中で佇んでいた。

 その後ろから騎士の一人が【正義の使徒】が持っていた大剣だ。もっとも今は折れてしまっているが……。


「怠惰の使徒様、こちらを……」

「おお~、ご苦労だよ~。助かるね~。取りに行くのは面倒だったから」

「しかし、使徒様、何故このようなものをお求めに?」


 命令されたから従いはしたものの理由が分からず困惑する騎士の男。


「なに、簡単なことだ~。正義の使徒の本体はこの剣。あの男は剣が操っていたに過ぎないのだよ~」

「な、なるほど、ではこの魔法陣はいったい?」


 今度は部屋いっぱいに拡張された魔法陣を眺めながら尋ねる。


「それはもっと簡単だよ~。この剣を触媒にして異世界の勇者を呼び出すんだよ~。こうすれば剣との適合率が高い勇者を召喚できるし、それによって強力な能力を使役できるようになるのだよ~」


 言いながら魔法陣の中心に折れた大剣を置き魔法陣の外側に退避する二人。


そして、魔法陣は起動する。眩い光を放ちながら異界への門を開き大剣に適合する勇者を探し出す。


「しかし呼び出した勇者はどうやってこちらの手駒にするのですか?」

「さっきも言っただろう。あの大剣が正義の使徒本体。その持ち手を掴めばどんなものだろうと彼の精神汚染の被害者となるのだよ~。私も君に散々直接触れないように注意しただろう」


 そして、眩いばかりの光が収まったとき魔法陣の中心には一人の少女が大剣を不思議そうに眺めながら立っていた。


「よし、これで正義の使徒の復活だね~。しかし女か~。残念だね~。できれば男が良かったけれどさすがにそれはぜいた……がふっ!?!」


 突然吐血する怠惰の使徒。だがそれも当然。少女がまるで【瞬間移動】のごとく二人の男の前に現れ、持っていた折れた大剣で斬りつけたのだ。


「男女差別、それは悪」

「し、使徒様!?」


 大量の出血を伴いながら力尽き、倒れる怠惰の使徒。


「ふうん。ここがあの神が言ってた異世界……」

「ひ、ひいいいい、な、何故正義の使徒様に操られていない!? その大剣を直接持てば必ずや正義の使徒様の精神侵略が……」

「ん? なんか剣が喋ってると思ったらそう言うこと?」


 軽々しく言ってのける少女に男は戦慄する。だが、その驚きも一瞬。少女の視線が騎士に向かうと感情は恐怖に支配される。


「お、おまえ……神に会ったのでは無いのか! 何故我らの使命に協力しない!」


 怠惰の使徒が地面に倒れ伏してもなお、少女に尋ねる。


「すいませんね。わたし、もとの世界に戻りたいのでこっちの神がどうなろうと関係ありません」


 そのまま今度は騎士の方を振り返りその体を両断する。折れているとは言ってもその刃渡りは男を両断するのに充分であった。


「さて、もとの世界に戻りたければ闘いを終わらせろと言われたけれど……とりあえず神届物(ギフト)持ちを殺し尽くせば良いのだっけ?」


 物語は加速する。この少女の存在をもって。

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