異世界勇者編 王国の信頼
「国王様! 緊急の報せです」
「来たか……」
シャルトラッハ王国王宮にて、国王の部屋に一人の騎士が飛び込んでくる。手には紙束を持ち、その顔は青い。良い報せでないのは明らかだった。
王の前に立ち、息を整えると一息に紙に書かれた内容を告げる。
「王国連から言い渡された条項は次の四つ。一つ、わが国は異世界勇者召喚の方法を他国にも公開すること。二つ、現在召喚している異世界勇者は他の王国連の国に分散して預け、より高度な戦闘力とすること、三つ、それに伴い魔王に関する情報を公開すること。四つ、前三つの条項に関する返答を一週間以内に伝令の者に伝えること……。以上であります」
「ふむ……それだけで済まされたか……」
それを聞いた国王の顔も決して明るくはない。当然だ。その条文の内容はまとめると異世界勇者を他国に譲り渡せ、という内容である。
「はい。恐らくですがあまり無理な条件を出しても我々が勇者を手放さないと踏んだのでしょう。それにしてもこれは痛手ですが」
「そうだな……。で、もし一週間以内に返事をしない、あるいは拒否の意を伝えた場合はなんと?」
一応の確認を試みる国王。騎士の返答はあっさりとしたものだった。
「他の王国連所属の七ヶ国から宣戦布告がなされます」
「兵力は失っていないとは言え異世界勇者は半数が戦闘不能、参戦してくれる主要な冒険者も半数が戦闘不能。我が国が応じなければ力づくでも奪い取れると踏んだか……」
その場にいる二人の顔が沈んでいく。
「全く……一体どこから間違えたのか……」
〇〇〇
「ダイ! リュウヤ! カイト! 次はどこに行く?」
「ユウか。そうだな……地下遺跡はこの前言ったからな。海底遺跡とかどうだ?」
学園のあるクラス。異世界勇者が半分を占めるクラスだ。ソルトやシャルとともに迷宮に潜った【剣聖】リュウヤと【重盾戦士】ダイ、そしてソルトたちが言葉を交わした数少ない異世界人【名探偵】カイトと【探究者】ユウが四人で集まり、今日はどこの迷宮に向かうかを話し合っていた。
「それにしてもソルトもシャルもほんとにどこ行ったんだろうな」
もともとソルト、シャルとともにチームを組んでいたリュウヤはボソッと呟く。
一方でカイトもぼやく。
「それを言うならこっちのカレイさんやリョウだってなんで休んでるんだよ」
「二人は確か休学届を出してるんじゃなかったっけ?」
カイトの疑問にユウは答える。【悪魔喰い】の王都襲撃があってから二人のチームメイト、カレイ・ドーラとリョウ・ハハキギは学校を休学していたのであった。
「まったく、なんでこんな時期に」
ダイもぼやこうとした時だった。彼らの担任シューク・ドルストンが入ってくる。
「皆、席に着け」
その声に応じて教室にいた生徒たちは続々と席に着く。そして何人かの生徒が机の中から教科書を取り出そうとするとシュークが手で制止する。
「今日の授業は全て中止だ。学校長から伝えなければならないことがある。異世界転移者に該当する生徒は速やかに講堂に集合するように」
「どうしたんですか?」
疑問に思った生徒が質問し、それに対しシュークはゆっくりと答える。
「詳しいことは聞けてないが……。恐らくろくでもない内容だ」
〇〇〇
「急な呼び出しで申し訳ない。私と同じ異世界勇者の諸君」
「レイ先生、これは一体どういう集まりですか?」
行動に集まったのは学校長であり、異世界人でもあるレイ・アマミヤ。席についているのは異世界から呼ばれた子供たち四十人。
事情も分からず呼ばれた生徒たちは口々にささやきあったり、先生に質問を投げかけたりする。
「昨日の夜王宮から連絡が届いた。内容は許可をいただいたから伝えさせてもらうが先日のある冒険者クランによる王都の襲撃のこと、中でも魔王の両腕、および聖剣を奪われたことに対する責任問題に関するものだ」
語られる大人たちの事情。だが、子供達はその背景がわからないため疑問を浮かべることしかできない。
「先生……それでなぜ僕らが……?」
「うむ、そうだな。ではまずこの大陸の情勢を伝えておこう。大陸に広がる人間の王国はこのシャルトラッハ王国を含め八つ。そしてこの国以外は王国連という連合を組んでいる」
「なぜこの国だけ入っていないんですか」
「私達異世界転移勇者のせいだ。私達さえいなければ王国連も作られることはなかっただろう。大昔八つの国の力は拮抗し、共存していた。だが、四十年前に異世界勇者たちが召喚されてからその情勢は一気に変わった」
レイによって淡々と語られる歴史。子供たちは黙って聞く。
「それはそうだろう。私たちは転移した時点で莫大な魔力に強力なジョブ、人によっては【神届物】を受け取ることもある。結果この国以外は勢力を拮抗させるために組まざるを得なかったわけだ。仲もあまりいいとは言えない」
語られる内容にだんだんと険悪になっていき、子供たちに動揺が広がっていく。
「もっとも戦争らしい戦争は起きてこなかったがね。魔王や魔族との戦いもあり、皆それどころではなかった。そして、魔王との戦いが終わった後もこのシャルトラッハ王国が魔族との戦いを引き継いだ。ここまでは順調だった」
そこでいったん言葉を切るレイ。そして続ける。
「だが、今回魔王の両腕が奪われ、聖剣も奪われた。この責任問題を利用して王国連は異世界勇者を召喚する方法と現在の異世界勇者の戦力を要求したわけだ」
そこまで言って子供たちも自分たちが呼ばれた理由に思い当たる。
「そう、君たちにはこの学校に通い続けることはできなくなったということだ。君たちには一か国に四人ずつ、計二十八人に他国に行ってもらうことになる。悪いとは思っている。しかし、これに従わなくては人間同士で争いがおこる。どうにか我慢してほしい」
〇〇〇
自分の荷物を一つにまとめ、待ち合わせの場所に向かうユウ。
「まじか……ほんとに出ていかなきゃいけないのかよ……」
ようやくこの世界の生活にも慣れ始め、楽しくなってきた、という時期に移動しろと言われ文句が出てくるのだ。
横を歩くカイトがそれをいさめる。
「まあ、いいんじゃないかな。この国だけにいたら価値観も偏ってしまうと思うし」
「しかしそうは言ってもよ、俺たちはここにきてまだ半年もたってないんだぜ。さすがに心細いっていうか」
そんな会話をしながら自分たちを他国まで運んでくれる冒険者との待ち合わせ場所、その広場の噴水に到着する。
この場所はソルト達と迷宮に行く際にも使った場所だ。この王都で最も大きいスペースがある。だが、その場所に相手の姿はなかった。その場にいたのはダイとリュウヤのみだ。
リュウヤはカイトとユウを視界に収めると発言する。
「よし、そろそろ待ち合わせの時間だとは思うんだけど……どこだろうか」
周りを見渡しても通行人こそいるがこちらに向かってくる冒険者の姿もない。
「うーん……【気配探知】を使っても近くに反応は……ん?」
ユウが【気配探知】を使ったと同時にあたりが暗くなる。いや、あたり、ではなく四人の場所に影が落ちる。
何事かと思い、四人が顔を上げると、
「りゅ、龍?!」
空から飛んできたのは黄色の龍。黄金の雷を身にまといながら四人の横に着地する。
『やあやあ異世界からやってきた勇者たち! 一、二、三、四、よし全員いるね! 目的地は聞いているかな? え、知らない? ではここで伝えよう。場所はギルマット王国、この国から徒歩で三か月ほどの場所だ』
「あ、あなたは確か……」
カイト達四人が見覚えがありまくるその人物に対して口を開く。
『おっと、そうだった。名乗りを忘れていたよ。SS級冒険者【雷姫】クルルシア・パレード・ファミーユ。今回の君たちの護衛だよ』




