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道に咲く華  作者: おの はるか
私は博愛の道に夢を見る
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狂龍顕現編 終幕

「魔王の……息子?」


 恐る恐る確認したのはシャルだ。マドルの人形による、唐突な発言に動揺を隠せない。


「はい、プレアが記憶固定で覚えていたので間違いはありません。彼は間違いなく魔王と勇者の子供です」

「ちょっと待って下さい、何故今このタイミングで」


 ソフィアも流石に動揺しているのか、人形に掴みかかる。

 しかし、人形の反応はどこ吹く風だ。


「【ガタバナートスの十四柱】、彼らに見付かるまでは私達も彼に手を出すつもりはありませんでした。しかし、迷宮で一人、今回の騒動で二人に彼は見られました。こうならないようにミネルヴァには彼らを結界に閉じ込めて貰っていたのですが……」


「私が結界を解いてしまったと……」


 シャルが申し訳なさそうにする。


「はい、そうです」

「では、この事態は不味いのでは?! もし仮にこの魔力が感知されると高ランクの冒険者であれば」

「そうだな、魔王の血縁者とバレるだろう」


「誰!?」


 ソフィアが唐突に話に入ってきた越えに警戒する。

振り返ると大きな和傘をさして、黒の着物を着た一人の男がゆったりと近づいてくる。恐らく三十代ほどだろう。ゆったりとした所作で近づいてくる。


「SSSクラン【一なる無限】クランマスターギルガ。二つ名は【(はじまり)剣】」

「そ、そんな人達が何のようですか」


 強者の気迫をと感じ取りつつも、それに負けじと虚勢を張るソフィア。

 だが、質問に答えたのは彼ではなかった。聞こえてくるのは女性、それもどこか妖艶さを伴う声。


「安心せい。わっちらはソフィア嬢、及びクルルシア嬢は敵として認めおらん。クルルシア嬢には後でたんまりと事情を話して貰うことになるが……」


 一人の女性が、これまた、和傘をさし、赤の着物を着て、男の後から現れる。


「あなたは……」

「ありゃ、知らなんだか。【一なる無限】サブマスターエル。二つ名は【無限剣】」


 そう言うと彼女は傘の手元を引き抜く。仕込み傘となっていたのか、現れたのは刀。


「わっちらの捕縛対象は【悪魔喰い(デーモンイーター)】全員とそこの死にかけの爺、それと魔族である吸血鬼少女に……」


言いながら視点をソルト達の方に向け、


「あの少年じゃ。勿論、抵抗するようなら全員押さえるが」


〇〇〇


「では、ソフィア、シャル、私は失礼しマス」


 複数の人形が足下に現れた魔法陣に消えていく。


「む、空間転移か」


 男が驚いたように呟く。


「シャルちゃん、逃げれますか? クルルシアは私が見ます」


 男が呟くと同時にソフィアは小声でシャルに問いかける。


「え? そんなことしたらソフィアさんが……」

「私はこれでも大貴族アモラトス家の長女です。私に手を出すようなことはしないでしょう。あとこれも持っておいてください。恐らく国宝級の剣です。逃げるときに丸腰ではつらいでしょう」


 そう言ってソフィアは倒れたチェリシュもどき(今は老人の姿に戻っている)が持っていた剣を手渡す。


「おい、何をやっておる」

「ありがとうございます。ではクルルシアさんはよろしくお願いします。【物質変化(メタモルフォーゼ)】」


 それを最後にシャルの身体は細かく分裂、一つ一つを蝙蝠(こうもり)として空に逃げる。ソフィアから受け取った剣も蝙蝠となっている。


「ふん、その程度で逃げれると思わないことじゃ! 【無限刀】!」


 エルと名乗った少女がソフィア達に向けていた刀を1匹の蝙蝠に投擲する。しかし、それは蝙蝠に当たるまでに分裂。一本の刀が二本になり、二本の刀が四本となり、蝙蝠に辿り着くときには数え切れないほどに分裂していく。


「【王者の庭】!」


 蝙蝠状態のシャルに刀が届く寸前、ギリギリのタイミングで空気を固め、その凶刃がシャルが化けた蝙蝠(こうもり)に刺さることを防ぐ。


「ほほう、ソフィア嬢よ、どういう了見なのじゃ?」

「すいません、魔法の誤作動です。本当は蝙蝠を捕まえようとしたのですがね」


「ちっ! 上手い言い訳なのじゃ。ギルガ! あの少年の捕縛は任せるぞ! わっちは蝙蝠を追う!」

「分かった」


 その後、女性はソフィアの【王者の庭】を警戒したのか、一瞬で姿を消し、男の方も倒れていた色欲の使徒を抱えると消え去った。


「シャルちゃん、ソルト君、どうかご無事で」


〇〇〇


「お、おのれ、おのれ! 私の【執行者】をよくも!」

「ん? 剣のことか? すげえな……一応腹を掻っ捌いたはずなんだが……よっと」


 腹部からだらだらと血を流しながら正義の使徒はソルトをにらみつける。その首をソルトは一片の容赦もなく()ねる。

 流石に力尽きたのか、膝から崩れ落ちる正義の使徒。その倒れた様子を見届けてからソルトは座り込んだプレアに向き直る。


「で、お姉ちゃんは大丈夫か?」


「う、うん、それよりソーちゃん、その力は……」

「俺もよく分からねえ、でも声が聞こえたんだ。俺を無視しないでくれって言う声が」

「声?」

「なあ、お姉ちゃん、聞かせてくれ、俺の父様と母様は誰だ?」

「それは……」

「やっぱりジャン父様とセナ母様ではないんだな」

「ソ、ソーちゃ」

「いいんだよ。俺にとってお姉ちゃんはお姉ちゃんだし、父様は父様、母様は母様だ。それが変わることはないよ。だけど今回の、お姉ちゃんの行動を見ると俺の親は……魔王とか?」

「?! どうして……」

「ごめん、姉ちゃん、鎌かけた」

「……」

「しかし、なんでクル姉は俺に思考誘導を……。ああ、知らない方が幸せとでも思ったのか」


 一人で納得するソルト。

 プレアが恐る恐るといった感じで提案する。


「ソーちゃん、提案なんだけど私達と一緒に来ない? 私はソーチャンのためにも魔王様には復活して欲しい。ソーチャンのお母様なんだよ」


 上目づかいにソルトを見上げるプレア。だが、ソルトが首を縦に振ることはなかった。


「悪いけどそれはないよ」

「な、なんで!」


「お姉ちゃん、会えて嬉しかった。生きててくれて嬉しかったし、俺のことをずっと気にかけてくれてたのも知ってる。けど……」


「けど……?」


「俺には、お姉ちゃんが正しいとは思えない。お姉ちゃんは今回、どれだけの人を傷つけた?」

「…………」

「俺のためっていうのは分かってる。でも、俺はこの、今回のお姉ちゃん達の行動に納得が」

「【一の剣】」


 ソルトの声が遮られる。一つの剣が、その太刀筋が、空を断ち、大地を割り、ソルトに襲いかかる。


「きゃっ!」

「うわっ!」

「ふむ、これを避けるか。油断できぬな」

「お姉ちゃん! 無事か!」

「大丈夫! ソルトは?!」

「大丈夫だ!」


 互いに安否を確認しながら現れた男から距離を取る。


 ソルトが襲撃者のほうを見るとそこには、和傘を左手に、剣を右手に持った男が立っていた。


「誰だお前は……」


 警戒心を高めながらソルトは襲い掛かってきた男に尋ねる。



「SSSクラン【一なる無限】クランマスターギルガ。Dランク冒険者ソルト・ファミーユ。SS級冒険者アンデルセン・アールツハイト、いや、話を聞くに本名ではないな。兎に角、両名、魔族に協力した罪で捕」

「奥義【骨断】」


 相手の言葉を最後まで聞かずにソルトは剣技を放つ。地面(・・)に向かって。


 砕かれた大地の破片が男を襲う。


「なに!?」


 男は突然のソルトの行動に対応が遅れる。だが、歴戦のSS級冒険者、直ぐに体を引くと戦闘態勢を整える。


 だが、その時にはプレアが神届物(ギフト)を発動させる。


「対象、ギルガ、命令【這いつくばれ】」


 言い切った瞬間、プレアの残りの黒髪が全て白に変わる。そして、それを代償に神届物(ギフト)が発動する。


「ぐっ!?」

「ソーちゃん! 待って!」


 ソルトが猛然と男から逃げる。プレアもそれを追いかけようとするが、


「プレア! 私たちも逃げるよ!」

「え? アクア? なんでここに!?」


 現れたのはチェリシュから聖剣を奪うように言われ王城内に侵入した猫の獣人アクア。


「撤退よ。これ以上はこの国の軍隊が間に合ってしまう。チェリシュがいない中で大軍を相手にする余力は今の私たちにはないわ」


 プレアの腰に腕を回し、プレアを抱える。


「でも、でも! ソーちゃんが!」

「静かに、舌を噛むわよ。神届物(ギフト)(シュトゥルム)(ウント)衝動(ドラング)】」

「あうっ!?」

「ま、待て!」


 アクアの神届物(ギフト)が発動した瞬間、アクアとプレアの姿が掻き消える。地面に這いつくばっている男ギルガが制止の声を出すが無視だ。



 これで、王都で起こった全ての戦いが終結したのだった。


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