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道に咲く華  作者: おの はるか
私は博愛の道に夢を見る
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狂龍顕現編 アイデンティティー

あけましておめでとうございます

今年もよろしくお願いします

「シャルちゃん! クルルシアを連れて動けますか!」

「は、はい、大丈夫です」

「ならそのまま連れていって下さい。ここは私が対処します」


 その声と共に先程まで魔法陣を描いていた人形も空から降ってくる。チェリシュに化けた男ととソフィア達の間に立ちはだかり、牽制する。


「ふぉっふぉっ。お主、そやつが吸血鬼と知ってその態度なのかの? 一般人の貴様らは知らんだろうがミルノバッハというそやつの家名は魔王の腹心のものだぞ」

「吸血鬼? 魔王の腹心?」


 そう言われて改めてソフィアはシャルを見る。白い肌、赤い瞳、鋭利な八重歯。どこからどう見ても吸血鬼である。


「こ、これは……」


 決まり悪そうに目を逸らすシャル。


 魔族は常に人族の敵として語られる。それが人族の居住地、それも王都内で正体がバレるなど本来あってはならない。


 しかもばらされたのはそれだけではない。魔王の腹心というところまでチェリシュもどき、色欲の使徒はソフィアに言った。


 そして、その隙を狙うようにチェリシュもどき、色欲の使徒は詠唱し、右手を前に構える。


神届物(ギフト)幽霊武器(ファントムウェポン)不殺(ころさず)の銃】」

「!? ソフィア! シャル!」


 チェリシュもどきが、チェリシュの使っていた神届物を使っことにマドルの人形が警告を飛ばす。

 擬似的ダメージを与えるのみの【幽霊武器】はマドルの人形にこそ効かないが、シャルやソフィアは一撃で行動不能に陥れることが出来る。


 しかもチェリシュの神届物はマドルの人形では、後ろにいるソフィア達を守ることは出来ない。全てすり抜けるためだ。


 さらに悪ことに、チェリシュもどきが召喚したのは銃。発射されれば吸血鬼であるシャルはともかく普通の人間であるソフィアに躱すことなど不可能だろう。


 発射されれば。


「う、うおおおお!!?」


 突然上がる叫び声はチェリシュもどき、色欲の使徒のもの。


 マドルが不思議に思って見ると銃を構えていた右腕が潰されている。


「吸血鬼? 魔王の腹心? それが何です?」


 呟くのはソフィア。先程までシャルを見つめていたその瞳は、真っ直ぐに色欲の使徒に向けられる。


「彼女は私達の学校に入学してくれた大事な生徒です。それ以上でもそれ以下でもありません。どんな種族、性別、生まれ、経歴であろうと、学校の生徒であるなら生徒会長の私が守りましょう」


 毅然とした表情で語るソフィア。開いた右手を前に出す。


「生徒会長ソフィア・アモラトス。生徒を脅かす者に鉄槌を。【王者の庭】!」


 開いていた右手を閉じる。空気が固まり、凝縮し、男を圧殺するべく、襲いかかる。


〇〇〇


「クルルシアさん!?」


 場所はソルトが結界を張っていた場所、吹き飛ばされたクルルシアを見てプレアが声をあげる。


「やはり貴様もいたか。先程は左腕だけで済ませてやったが私の【正義】、二度も見逃すほど甘くはないぞ」


 男がプレアを視界に捕らえると、大剣を振りかぶり、プレアに振り下ろす。


「くっ!」


 ナイフで応じるプレアだが、いかんせん、大剣とナイフではその質量に差がありすぎる。


 普通の人間が相手であれば、身体強化の魔法を使いナイフでも応戦できる。だが、相手が同じだけの身体強化の使い手であれば、後は武器の重さがものを言う。


 一撃食らうごとに弾かれていくナイフ。服の内側にいくつも忍ばせているプレアだがこのままではじり貧だった。


〇〇〇


 ソルトは目を覚ます。気を失っていたと言っても一瞬のことだ。


 目を開けた彼の目に入ってきたのは姉、プレアが大剣を使う男に押される場面。


「行かないと!」


 だが、体は地面に縫い付けられているかのように動かない。


「なんで……だよ!」


 不思議と動かない体。その間にもプレアは押され続ける。


『自分の体が動かないのか?』


 ソルトの耳に声が聞こえる。


「誰だ?」


 見回しても周りには誰もいない。いや、眼前にぼんやりと影が見え始める。


『俺は俺だ。そしてお前だ』


「俺?」


 頭に直接響く声。それがソルトに語り掛ける。


『ああ、お前だ。勇者とかいう力をもらっても、それを昇華させることもできない。いつもかばわれてばかりのお前だ』


「うるさい!」


 図星を指され怒鳴るソルト。影は続ける。


『なら、あいつぐらい倒してみろよ。地下ではいいようにやられてたがな』


 そう言って影は大剣使いを指し示す。


「どうやったらいい?」

『あ?』

「どうやったらあいつを倒せるんだ?」


 ソルトの問いかけに影の口が止まったが、それも一瞬。次の瞬間には大きく高笑いをし、ソルトを馬鹿にする。


『ハハハハハ。あほじゃねえか? 自分で考えろよ。まあ、ヒントをやろう。お前が【勇者】として勝てねえのは思想でも実力でもなんでもねえ、もっと根本的なもんだ』

「根本的なもの?」

『自分が何者か分かってないようなやつに【勇者】や【英雄】が務まるかよ』

「自分が……何者か?」

『そうだよ、お前だって気づいてるんだろ。いい加減認めろよ。まあ、クル姉に思考誘導も受けてたみたいだから仕方ない気がするけどな。クル姉が気を失ってる今だから俺が出てきたともいえる訳だし』

「思考誘導?」


 身に覚えがないだけにソルトは首をかしげる。影は続ける。


『不思議に思ってはいただろ。いつしかそういうものだって考え始めてたみたいだが。どうして髪の色がお姉ちゃんともお父様ともお母様とも違う?』

「何を」


『魔王が討伐されて十六年、俺が生まれて十六年。偶然か? お母様は妊娠したまま魔王と戦っていたのか?』

「……」


『あいつが言ってた【魔の者】って何だ』

「……」


 影の問いかけにソルトの口は止まる。


『頼むよ。俺を否定しないでくれよ』

「……」


『俺だってお前の一部なんだよ』

「……」


『俺だってお姉ちゃんのために戦いたいんだよ』


「俺は……俺は【勇者】だ」


『知ってるよ』

「悪を倒して、家族や大切な人を守りたい」


『知ってるよ』

「力を貸せ」


『知ってたよ』


 影は満足げに笑顔を浮かべた。


〇〇〇


「くっ!」


 十本目のナイフも弾かれ、プレアは苦悶の声を上げる。壊されたわけではないので回収は可能だ。


 しかし、目の前の大剣使いの男がそれを許さない。体に仕込んでいるナイフが尽きたとき、プレアの抵抗手段はなくなる。


 神届物(ギフト)も使うわけにはいかない。どんな代償が必要かわからないためだ。王宮の地下では左腕を犠牲にした。右腕を犠牲にして倒せる保証があるのならプレアもためらわないが、その確証はない。


「ふん! 疾くとくたばれ! 【我、正義を……なに?!」


 男が神届物(ギフト)の詠唱を開始するが、直ぐに止め、後ろを振り返る。遅れてプレアも気づく。


「この魔力は……? まさかソーちゃん?」


 感じるのは埒外(らちがい)に感じるほどの濃密な魔力。それもプレアが数多く潜り抜けてきた死線の中でもほとんど感じたことがないレベルの物だ。


「あいつを先に殺すべきだったか。自覚が芽生える前に殺しておきたかったが」


 男が後悔を口にする。


「なんで、このタイミングで……しまった、クルルシアさんか!」


 ソルトの異変の理由に感づくプレア。

 だが、プレアが驚くのも束の間、大剣使いが斬りかかってくる。


「お前だけでも殺しておこう」


 プレアが気が付いた時には、既に大剣は目前、ナイフで防ぐには無理がある距離。


「させるか!」


 突如横から飛んできた影が大剣に激突する。猛然と駆けてきたソルトが刀で大剣を受けとめたのだ。


「くっ! 此奴!」


 ソルトの行動は終わらない。そのまま刀を振り上げて大剣を切断してしまう。


「な、私の【執行者】が?!」

「これ以上、俺の家族に手を出すな」


 そして、一刀のもとに、ソルトは男の身体を一文字に斬った。


〇〇〇


「なんですか! この魔力は!」

「何故このタイミングデ……なるホド、クルルシアの意識がないからでスカ。道理で人形モ……」


 チェリシュもどき、色欲の使徒の全身の骨を砕いた後、痙攣する彼を放置して、クルルシアの傷が塞がっていくのを見守っているときだった。

 ソフィアもマドルの人形も驚きを口にする。


 急激に膨れ上がる魔力をその場にいた全員が感じ取ったのだ。


「この魔力は一体……」

「シャル、貴方、魔王様に会ったコトハ?」

「あ、ありませんけど……何故突然そんなことを……?」


 戸惑いながらもシャルはマドルの人形に言葉を返す。


「ならこの魔力を覚えておきなサイ。ソルト・ファミーユ。彼は勇者パーティーの戦士と魔法使いの息子ではありまセン」


 そこで言葉を切るマドル。そして一息に言う。


「彼は魔王様と勇者の子供デス」

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