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道に咲く華  作者: おの はるか
私は博愛の道に夢を見る
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狂龍顕現編 新手


『痛ソ痛ル痛いトの痛い痛い敵い痛い痛い私が痛い痛い痛た痛い痛お痛い痛い痛い痛す痛い』


 進行方向に現れた三人を見つけたのか、龍は両腕を振り下す。巨躯から放たれる一撃はそれだけで破壊をもたらす。


 当たればだが。


「当たるかよ!」

「余裕!」


 当然だがその腕には威力こそあれ、人型のクルルシアほどの素早さはない。ソルトもシャルも逆にその腕を伝い、龍の体に上っていく。二人が走り抜けた部分から雷がほとばしり、二人を追尾する。


「二人とも! 雷来るよ!」


 後衛に控えたプレアが警告する。


「分かってるって! 風魔法【風誘】」

「大丈夫です! 【偽装】解除」


 ソルトは風で雷を誤誘導。シャルは体の制限を取り払い吸血鬼化、人間離れした身体能力で雷から逃げきる。白い肌となり明らかに人でないことが分かるが、結界で外から見えにくくなっていることをいいことに、好き勝手やるらしい。


 だが(クルルシア)の攻撃はそこで終わらず、ソルトのほうを龍の尾が、シャルのほうを翼が襲う。

 すかさずプレアが対応する。


「全く、二人とも周りを見なさい! 土魔法【土鎖氾乱】」


 地面から無数の土の鎖が伸び、尾や翼を拘束していく。一方で顔の近くまで登り切ったソルトは視界を封じるべく、龍の目に手を向け魔法を使う。


「雷魔法【閃光花】!」


 雷による閃光が龍目を焼く。痛みこそ無いが間違いなく視界は潰れているだろう。すぐに回復するだろうが……。


「目だけじゃダメでしょう! クルルシアさんは!」

 

 ほぼ同時に頭まで辿り着いたシャルが魔法陣を組み上げる。


「闇よ縛れ、光を縛れ、身体を縛れ、心を縛れ、闇魔法【絶魔封獣】」


 魔法陣から出てくるのは黒いもや。それが龍の首を中心に絡みつき、地面に絡め取る。


だが次の瞬間、龍の全身が眩く光り、雷が駆け巡る。


「まじか……」

「まあ、そのくらいクルルシアさんならできると思ったけど……」

「結界が壊れなかっただけましでしょう」


 光が止んだ後、先ほどまでクルルシアを拘束していた鎖も靄も掻き消え、その双眸そうぼうははっきりとソルトたちを見据える。


『痛い痛い何で痛い痛い邪魔痛い痛い痛す痛い痛い痛い痛る痛い痛い痛い痛い痛の痛い痛い痛い痛い』

 

 ただの足止め。しかし、決して一筋縄で達成できるようなものではなさそうだった。


〇〇〇


「第三陣、構成終了。第四陣構成開始シマス」

「一体いくつクルルシアに魔法をかけるつもりですか」


 真っ赤な人形にソフィアが問い詰める。だが、マドルの人形を通して行われる返答はそっけない。


「いくつ……と言われましてモ。クルルシアに有効な精神干渉魔法、それもトラウマを引っ張り出すのではナク、鎮めるとなるとかなりの手間がかかるのは当然デス」

「誰よ、こんな魔法を使ったのは!」

「私は知りませんでしたとだけ言っておきキマス。第四陣構成終了、第五陣構成開始デス」


 そう言っている間にも魔法陣構築のため、人形たちは忙しく飛び回る。見る見るうちに出来上がっていく。


「第五陣完成、起動しマス」


 結界を丸ごと覆うような大きさの五重魔法陣が淡く光る。それと同時に白く光る粒子が結界をすり抜けクルルシアに向かっていく。


「癒やセ、癒やセ、汝の心我が守ろウ。汝の過去は我が守ロウ。誰しも過去があリ、とがめる者は我が誅ス。休メ、安ラゲ、汝の心に平穏あレ。光魔法【天癒鎮魂】」


 眩い光が結界の向こうに消えていく。


〇〇〇


「来たか?!」


 ソルトは外で魔法が起動する気配を感知し、結界を調節する。魔法の影響をクルルシアに与えるためだ。襲い来る雷を風魔法で覆った剣で弾きながらソルトは笑みを浮かべる。


「ふう、これで何とかなるかしら」


 ソルトの横に蝙蝠(こうもり)が集まり人の形を形成していく。龍の雷から逃れるべく身体をばらけさせていたのだ。

 上級超級の魔法を使いすぎて疲労が溜まっているが戦いが終わると知って安堵の表情を浮かべる。


 龍から『痛い』という叫びが聞こえなくなり、竜の体も眩く輝いた後、光の粒子となって消えていく。


 残ったのはクルルシアの身体のみだ。


「クル姉!」


 クルルシアの姿を見つけ、ソルトはすぐに駆け寄ろうとする。だが、プレアがそれを制す。


「まって! 何か変!」


 その声を聞き、ソルトは慌てて踏みとどまる。


「お姉ちゃん? 何かあった……って、何だあれ」


 倒れていた少女、クルルシアが立ち上がる。龍の姿はすでにどこにもない。


 だが、その背からは一対の神々しい骨の羽が生えはじめ、それぞれの羽に三個ずつ、合わせて六個の宝石が輝く。否、実際に輝いているのは四個だけだ。二つはひびが入っており、輝いてはいない。


 そしてその双眸ははっきりとソルト達の方を向いていた。骨格の羽をひらひらと動かしながらぼんやりとしている風に見える。


「クル姉?」


 恐る恐るソルトはクルルシアに尋ねる。


『ソル……ト……?』


 寝ぼけ(まなこ)でソルトの名前を呼ぶ。だが次の瞬間、目を見開いたかと思うとソルトたちに高速で接近、シャルが魔法を準備するより、プレアが神届物(ギフト)を準備するよりも早く、三人に接近し、ソルトを突き飛ばす。


「な?!」


 その膂力(りょりょく)は龍に迫る。不意を突かれて突き飛ばされたソルトは、それに耐えられず数十メートルの距離を吹き飛ばされる。辛うじて吸血鬼であるシャルがクルルシアの骨格の羽の輝きを追えた程だ。


 ソルトが一瞬気を失ったのか、彼が張った結界【勇魔大封】も消え去る。


「ソーちゃん?!」

「ソルト?!」


 シャルとプレアが遅れながらも反応を示すが、ここでさらなる驚きが二人を襲う。


神届物(ギフト)【我、正義の道を執行す】」


 突如地面から伸びた大剣がクルルシアを突き刺した。


 地面を割って這い出てくるのは王宮で【魔王の左腕】を守っていた男だ。クルルシアを串刺しにした剣を大きく振るい、彼女を吹き飛ばす。


「クルルシアさん!」


 シャルが吹き飛ばされたクルルシアを受け止めるが、勢いは止まることなくソフィア達が構えているところまで吹っ飛んでいく。しかもクルルシアの負った傷は明らかに致命傷であり、治療の余地すらない。


 クルルシアの背から生えている羽、そこに埋め込まれた宝石がまた一つ輝きを失い、輝く宝石は残り三つとなった。


〇〇〇


「いたたたた、はっ!? クルルシアさん?! 大丈夫ですか!?」


 吹き飛ばされたシャルがクルルシアの容態を心配する。


「クルルシアさん?! シャルちゃんもその肌はどうしたの?!」

「どうやら不測の事態が起こっているようデスネ」


 吹き飛ばされた場所はソフィアとマドルの人形がいる場所だった。

 飛んできた二人やクルルシアの負っている刺し傷、シャルの白い肌などをみて、ソフィアは混乱する。一方マドルの人形は次の非常事態に備え警戒を怠らない。

 そこに、ソフィアと人形の後ろから声がかかる。


「ちょっと良いかしら?」


 後ろから声がかかる。二人が振り返るとそこに立っていたのはチェリシュだった。


「あら、チェリシュ、無事で何よりデス」


 マドルの人形が返答する。ソフィアは新たに【悪魔喰い(デーモンイーター)】が現れたことに警戒すると共に、現れた人物に驚く。


「ちぇ、チェリシュさんも【悪魔喰い】だったんで……【王者の庭】!」


 驚いたのも一瞬、ソフィアは迷わず【王者の庭】を発動させる。


 空気を固め、相手の行動を止めてしまう魔法。今回の対象は現れたチェリシュ、彼女に対して発動し、動きを止める。


「くっ! マドル! 助けて!」


 チェリシュがマドルの操る人形に助けを求める。しかし、人形の反応は淡泊なものだった。


「なるホド、そういうことでスカ」

「ま、マドル?」


 チェリシュが助けてくれる様子のないマドルの人形を見て困惑する。


「無駄ですヨ。私は人形を操る際糸を使いまスガ、それは探知にも使えマス。幻覚でずっと誤魔化されるなんてことはありまセンヨ」


 人形がマドルの言葉を伝える。その瞬間チェリシュの表情が醜く歪み、声もしわがれたものとなる。


「おやおや、こちらも優秀だとは。からかいがいがありませんな」


 フォッフォッと笑うチェリシュ。外見が十四歳の少女であるだけに、その気持ち悪さはかなりのものだ。二人の警戒心も高まるばかり。


「では、名乗るとしよう。【ガタバナートス十四柱】色欲の使徒アル―ロ・ニーヤ。神に背きし者どもよ。覚悟せよ」



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