魔王の腕争奪編 王宮上空戦
王宮上空、現状冒険者【七色の旗印】が劣勢であった。ミネルヴァという小柄な少女一人に押されているのだ。
そして最初上空にいた六頭のうち、ついには四頭目の竜も墜落していく。
「ああああああ~~、落ちるっす~~」
「ダリル!!」
高速で展開されていく結界の前になすすべなく翼を切られ墜落していく竜たち。その状況にクランマスターのリップトンは焦りを隠せない。
「くっ、このままでは……。ん? あれは」
その時リップトンの視界の隅、地上から黄色い何かが高速で近づいてくる。
だが、結界使いの少女ミネルヴァも気づいたのか、黄色い飛物体に向けて神届物を放つ。
「神届物【希望は世界の果てに】」
飛行物体の正面に幾重もの結界が展開される。直進で近づいてくるそれはミネルヴァからだと距離感がわからないため進路をふさぐように展開したのだ。そして結界に当たり速度を落としたところを、ミネルヴァは神届物で狙う。
「我々も忘れてもっらては困るぞ!」
下の飛行物体に気を取られたミネルヴァに向かって二頭の竜がブレスを吐く。だが、それはミネルヴァを囲うように張られている結界にあっさりと阻まれる。
「その程度……効かない……。 !!??」
だが、突如ミネルヴァが驚きに顔をゆがめる。それもそのはず、黄色い飛行物体に対して張られた結界が端から破られているのだ。
「神届物【希望は世界の果てに・二重膜】」
結界の割られた位置から飛行物体の位置を特定し、より強力な結界で捕獲しようと試みるミネルヴァ。
しかしそれも成功せず、その物体はいくら捉えようが、そのすべての結界を突き破り、ついにはミネルヴァを竜のブレスから守った結界に激突する。
「きゃあ!!」
その存在は結界ごと上空に叩き上げるとそのことを気にも留めずにリップトンの横に滞空する。
『マスター! 到着しました! サブマスター、クルルシア・パレード・ファミーユ、参戦します。それにしても彼等、全員が私の伝達魔法の対策をしていますね。あの腕輪かな?』
「クルルシア! ようやく来たか!」
近くに来たためリップトンのほうは伝達魔法を解除する。
到着したのは雷の龍ジャヌに乗ったクルルシア。龍であるジャヌはほかのメンバーの竜とは一線を画する魔物だ。その登場にリップトンは余裕を取り戻し、ほかに残っているクランメンバーに声をかける。
『よし! マーヤ、俺たちでクルルシアを援護す……』
「許さない……神届物【希望は星の果てに】!!」
悲鳴にも似た絶叫とともに、上空から結界が降り注ぐ。その形はいずれも槍のようにとがり、明らかに捕まえるという用途の結界ではなかった。そしてそれらが三人に降り注ぐ。
『雷龍魔法【雲雷豪雨】』
シャルがバチバチと音を立てる光球を準備し、雷を雨あられと上空に打ち出す。それによって近くにいたリップトンは難を逃れたが、もう一組の冒険者と竜はそうではなかった。
マーヤと呼ばれた冒険者の赤い竜が全身を結界の槍に貫かれながら墜落していく。
「マーヤ!?」
『リップトンさんは下がって! マーヤさんを助けてから、地上に落ちたみんなで町の皆を守ってください! 突撃は私がします! ジャヌ、行くよ!』
「わ、わかった!」
『了解した』
下に落ちたクランメンバ―と合流するべく急ぐリップトン。降ってくる結界の数が膨大なだけに、他の無事なメンバー全員でブレスを使わなければ対応できないと考えてだ。
クルルシアとジャヌの方も標的であると思われる自分たちが町に近づいては危険と考え、より上空に移動する。
「逃がさ……ない!!」
幸いにも幾千の結界の槍は地上へは向かわず上空に移動したクルルシアとジャヌを追うように飛んでいく。そしてそれだけではなくクルルシア達の前方にも槍が展開される。
『クルルシア!』
『うん! 後方は任せて!』
一匹と一人が魔力を充填し、魔法を放つ。
『雷龍魔法【爆雷紫環】』
『雷龍魔法【爆雷紫環】』
クルルシアとジャヌの口から放射状に放出されるのは紫の色を伴う雷であった。近づいてくる結界の槍をことごとく薙ぎ払う。
「逃げる……な!!」
上空から聞こえてくるのはミネルヴァの怒声。それとともに結界が再構築される。
しかしクルルシア達は止まらない。
本来神届物は普通の生物であれば太刀打ちできるものではない。しかしこのコンビはクルルシアのもつ【魔獣調教師】の上位互換【心通者】の才能とジャヌの龍としてのポテンシャルでその差を覆していた。
前者は契約する魔物のポテンシャルを十二分に引き出すものだ。実はまだ子どもの龍であるジャヌだが、それにより成体の竜を軽く凌駕する能力を発揮している。
一方後者、龍についてだが、これは竜の上位種だ。レイがほかの【七色の旗印】の竜をSS級の危険な生物と評したが、龍が成体となるとSSS吸の危険な生物として認定される。それが暴れた際の危険度は複数の国が協力して討伐しなければならないほどだ。
そしてついに、この亜音速で飛ぶコンビはミネルヴァに接近する。
『ジャヌ! このまま突っ込んで! 援護する!』
『了解した!』
『雷龍魔法【纏雷法衣】』
クルルシアが魔法を唱え、ジャヌの体を強力な雷が纏う。そしてさらに移動速度を増すジャヌ。
「くっ!」
苦し紛れにジャヌ達の前に結界を展開するミネルヴァ。だが、その全てをジャヌは破壊する。そしてついに残り数枚となったときにミネルヴァが低い声で呟いた。
「【悪魔の口】、発動」
その声を聞いたクルルシアは危険を本能で感じ取る。そしてそれはジャヌも同じだった。
『ジャヌ!!』
『わかっておる!!』
とっさに方向転換するべくクルルシアは持っている怪力を用い、ジャヌを踏み台にして上空に跳躍。ジャヌもその反動を利用して下方に急いだ。
そして、次の瞬間、クルルシア達がいた場所を何かが食べたかのように空間が根こそぎ削りとられた。
〇〇〇
「あらま……ミネルヴァったら悪魔の口も使いだしたのね……それだけ劣勢ってことか……」
場所は地上、王宮を囲う結界の前でギルドから駆け付けたチェリシュは上空を見ながらこれからどうするかを考える。積み上げたドラゴンの上で。
「ば、ばかな……仮にも竜だぞ……何故こんなにも容易く……」
積み上げられた山の中から辛うじて意識のあったリップトンがうめき声とも文句ともとれるつぶやきをする。
現在、地上に降りた【七色の旗印】はリップトンを除く全員が意識不明に陥っていた。
「あら、まだ意識があったの? 疑似ダメージとはいってもそれなりにダメージは与えたはずなのだけれど……。じゃあ、特別に教えてあげるわ。私の神届物は実体がないの。だからどんな鎧を着こもうと、どんな固い鱗でおおわれていようと、その精神に直接ダメージを与えるのが私の神からもらった力。要するに相性が悪かったのよ」
「か、神だと……!?」
「はい、ここまで。神届物【亡霊武器・不殺の銃】」
その一瞬後、リップトンの眉間を実体の伴わない弾丸が直撃、通過する。その一撃でリップトンの意識は途絶えた。
「さて、私も加勢するとしますか。神届物【亡霊武器・不殺の槍】」
そして、チェリシュは手に三メートルを超える大槍を持って、上空のクルルシア達を見据える。
「まずはクルルシアちゃんからかな。せいやっ!」
音速を超える【不殺の槍】がクルルシアに向けて投擲された。




