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道に咲く華  作者: おの はるか
私は博愛の道に夢を見る
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魔王の腕争奪編 左腕の守護者 後

 大剣がソルトに向かって振り下ろされる。


「させない! 【神縛呪鎖】!」


 シャルの腕から黄金の鎖が伸る。それらは、ソルトに向かって振り下ろされた大剣に絡みつき、動きを止める。


「ありがとう!」


 鎖の束縛によって出来たその隙に、ソルトは男から距離を取る。


「ふん、鬱陶しい」


 だが、次の瞬間には鎖は引きちぎられ、大剣は勢いよく地面に叩き付けられる。


「シャル! お姉ちゃんを連れて逃げろ!」


 相手が強いと判断してソルトはシャルに指示を出す。だが、彼女は応じない。


「ソルト一人じゃ厳しいでしょう! 私も残るわよ」

「ちょっと! 二人とも逃げて! アイツらの狙いは、あうっ、は、離しなさい! 」

「だって離したら私たちに神届物(ギフト)使って逃がそうとするでしょう。ここは一緒に乗り越えますよ」


 シャルが抵抗するプレアの体を持ち上げ、肩に担ぐ。


「ふん、人と魔族が共闘でもするつもりか? 片腹痛い」

「あら、私が魔族って分かったの?」


 シャルが少しだけ驚いたように聞く。だが、男の返答はおかしな物だった。


「何を巫山戯たことを。たかが吸血鬼如きに興味はない」

「た、たかがって何よ!」


 シャルが怒りをあらわにするが、男はそれを無視して深く地面を踏み込み、ソルト目掛けて突撃し、名乗りを上げる。


「我の名は【ガタバナートス十四柱】が一人、正義の使徒、アッセル・ディールトボルト。魔の者たちよ! 我が正義の前に滅びるが良い!!」


「だから! なんで俺のところに来るんだよ!!」


 執拗にソルトを狙う男。さすがにシャルも疑問を覚える。


「プレアさん、何か知っていますか」


 魔法を準備しながらも、肩に背負ったプレアに尋ねるシャル。だが、プレアは口をつぐむばかりで答えようとしない。


「プレアさん。思い当たる節があるんですね」


 更に詰め寄るシャル。プレアは観念したように、口を開く。


「……分かった。後で話す。だけど今はあいつから逃げることを優先するよ。耳を貸して」


〇〇〇


「くっ! この!」


 男の大剣に対して必死で対抗するソルト。だが、重く速い男の斬擊に少しずつ押されていく。


「ソルト! しゃがんで!」


 後方からシャルの声がする。相手の剣を弾いた後、とっさにしゃがむソルト。その一瞬後にはソルトの頭上を灼熱の炎の槍が飛んでいく。


 だが、いつもであれば強力な魔法も男が剣をふるっただけで霧散する。


「我が【正義】の前にすべての魔法は我が力となるだけ。いくら撃とうが無駄だ」


 その言葉通り炎が男の体に吸い込まれていく。ソフィアの【王者の庭】の魔力もこうして吸われていたのだろう。


「知らないわよ!」


 魔法が吸われた様子を見ても果敢に炎の槍を放ち続けるシャル。剣をふるうだけで霧散させているが、さすがに鬱陶しくなったのか男は標的をソルトからシャルに変える。


「ほう、先に死にたいようだな」

「シャル! よせ!!」


 ソルトは注意するが、その時シャルがプレアを抱えていないことに気づく。


 もとよりこの部屋に遮蔽物はない。円形の部屋の中央に魔王の腕の台座があるだけだ。見失う、なんてことは本来あり得ない。


 だが、不思議に思うのも束の間、男がシャルに向かってかけていくのを認めると、それを止めるべく行動する。


「待ちやがれ!」


 ソルトが背中から切りかかるが、男は少し身をよじるだけで躱す。そして、カウンターといわんばかりに切り返してくる。


「魔族は本当に鬱陶しいな。やはり貴様らは滅びるべき存在だ」


 そう言うや、自身の魔力を刃にまとわせ詠唱を始める男。先ほどとは別次元のあふれんばかりの魔力が巻き起こる。


神届物(ギフト)【我、正義を……】」


「生贄は我が左腕、対象、アッセル・ディールトボルト、命令【動くな!】」


「なに!?」


 男が声のした方を振り向くと、そこには切られたであろう自身の左腕をもったプレアがいた。何をしようとしているのかを悟り、男がプレアの方向に走りだす。だが、プレアの持っている左腕が消滅するほうが速く、完全に消えた瞬間にプレアの神届物(ギフト)が発動する。


「ぐっ!!」


 完全に動きが止まる男。そしてそれに目もくれずにプレアは【魔王の左腕】を台座の上から回収すると、驚くソルトに声をかける。


「全員、撤退!!」

「お、おい?!」

「ソルト! いいから行くよ」


 シャルに手を引かれ、一緒に走り出さざるを得なくなるソルト。扉に向かって三人は一斉に走り出す。

 そして、扉をくぐり、外に出ると外で待っていたソフィアが驚いたように聞いてくる。


「一体何があったのですか……って、ソルト君のお姉さん!? というか左腕は?!」


 プレアがソルトたちと一緒に行動していたことに驚いたのだろうが、それには構わずプレアは振り返り、魔法を唱える。


「呪いの業火、滅亡の嵐、弾め、轟け、その一撃をもって殲滅せよ【灼爆豪風】」


 詠唱が終わる。その瞬間、部屋の中で爆発が起こる。その威力は部屋の外にいたプレア以外の三人を転倒させるほどのものだった。部屋が天井から崩れ、土ぼこりが扉からこぼれてくる。


「おいおい……やりすぎだろう……」


 その威力にソルトは思わず突っ込む。シャルもあきれ顔だ。しかしプレアは気にした様子はない。


「皆! 急ぐよ! あいつらはあの程度じゃ死んでくれない!」


 だが、四人が階段を上り始めると、先ほどの魔法の影響か、パラパラと天井から欠片がこぼれ、壁にはいくつもの亀裂が入り、揺れすら起こる。


「はあ、はあ、仕方ない! 対象、遺跡、命令、【崩れるな】」


 腕が斬られたときの出血の影響か息が上がっているプレアだが、それでも詠唱する。神届物(ギフト)が発動すると亀裂も止まり、遺跡の揺れも収まる。それと同時にまた一房、髪が白くなる。


「プレアさん、腕の出血は大丈夫なのですか?」


 ソフィアが尋ねる。


「大丈夫……です……。一応神届物(ギフト)で止血しています……はあ、はあ」


 しかしそれでも苦しいのか、体力が尽きたように階段に右手をつき、荒い呼吸を整えようとするプレア。


「お姉ちゃん、捕まって!」

「えっ? きゃっ! ソーちゃん?!」


 ソルトがプレアを引っ張り上げて背負いこむ。そのまま四人は地上を目指す。


〇〇〇


 暗い通路をプレア以外の三人は身体強化をかけ高速で進んでいく。そして、階段を昇れば出口、となったときにソフィアが待ったをかける。


「もうそろそろ城内に戻れます……止まってください!」

「ソフィアさん? どうしたんですか?」


 洞窟の揺れは収まっているとはいえ、プレアの神届物(ギフト)が解ければすぐに崩れるのは明白だった。


「少し気になることが……この階段を上った先の出口に人がいるのですが、背格好からしてレイ先生ではありません。恐らく老人……」

「老人は【悪魔喰い(デーモンイーター)】にはいないよ。その人は敵だと思ったほうがいい」

「そうですが……ここから出口までは一本道、交戦は避けられそうには……」

「俺がやります。地上までは垂直でどれくらいですか?」


「え? お、恐らく五十メートルほどだとは思いますが……」

「いけます。土よ、我が意に従い、道を創れ【土階段】」


 ソルトの魔法が発動すると階段の通路の壁が変形し、整形されていく。出来上がったのは地上まで続く階段だった


「これはまた、ずいぶんと大規模な魔法を使いましたね」

「洞窟が崩れない今しか使えませんけどね」


 普通の洞窟でこんな魔法を使ったら最悪生き埋めである。その点だけは知らせて、ソルトは階段を上り始める。


「そういや、レイ先生大丈夫かな……?」


 一人、シャルは疑問に思い、体の一部を蝙蝠に分化し、本来行くはずだった通路にこっそりと放つ。


 その時だった。





『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』


 耳を覆いたくなるような絶叫が響き渡る。


「な、なんですか!? これは……まさか!?」


「クル姉の伝達魔法か?!!」


「いや、でも! なんでクルルシアさんがこんな絶叫を」


「これは……まさかチェリシュ?!」


 四者四様の反応、だが、ソルトは背中に背負ったプレアの反応をみて違和感を覚える。


「お姉ちゃん? なにか知っているのか?」

「多分……これは急いだほうがよさそう。ソーちゃん、急いで!」


〇〇〇


「ふむ、【正義】からの連絡が途絶えたから来てみたものの……これは一杯食わされたかのう。まあいい。聖剣は回収できた。あやつらよりも先に回収できたのは僥倖だのう」


 出口にいたのは外見は「レイ」そのもの。だが、しばらく経って誰も上がってこないとわかると男はその偽装を解く。すると先ほどまでの「レイ」の姿は消え失せ腰の曲がった老人の姿になる。


「せっかく命からがら逃げ延びたところを先生と合流する、という話を考えておったのに……つまらん。レイとやらもすぐに逃げてしもうたし王にはまだまだ頑張ってもらわねばならんから手を出すわけにもいかんし……ああ! つまらん」


 その時、ソルトたちも聞いた絶叫を老人も聞く。


『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』


「お? 面白そうなことが……いや、これは関わらない方がいいのう……わしも命は惜しい」


 そして老人は城から姿を消した。腰には黄金に輝く聖剣を携えて。


〇〇〇


「はあ、はあ、やっといなくなったか。あの爺め。なんだ、女性であれば化けれるって!」


 老人がいなくなってしばらく経ってから城のある一室からレイが出てくる。


「化けた女性にやられたってことなら裏門であいつらが負けたことも納得できるけども……」


 裏門で倒されていた友人の異世界勇者達のことを考えるレイ。


「しかしなんであいつらは聖剣を持って行った? 魔王を復活させるためならその場で壊せばいいはず。王様に何も被害がなかったのはいいことだが……。いや、それよりも今はクルルシア嬢か。一体何が起こった? さっきの絶叫はなんだ?」


 ぶつぶつとつぶやきながらレイは城の外に急ぐのであった。

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