魔王の腕争奪編 左腕の守護者 前
「シャル、まだ終わらないか?」
「もうちょっとよ。じっとしてなさい」
プレアが封印の施されていた扉に向かってから数分、シャルは体が動くようになるとソフィアとソルトの治療を施す。
「ソフィアさんは?」
「大丈夫よ。彼女は眠らされているだけ、もうじき起きるわ……よし! 【解除】!」
シャルの手が淡く光ると、ようやくソルトの体が動くようになる。
それと同じタイミングで横に寝かされていたソフィアも目を覚ます。
「んん……一体何が……」
「目が覚めましたか!」
シャルがソフィアのもとに駆け寄り、立ち上がるのを助ける。
「ありがとうございます。で、今の状況は?」
起きたばかりでありながらも、状況の説明を求めるソフィア。シャルが説明する。
「封印が破られました。現在、ソルトのお姉さんが侵入しています。私はソルトの解呪をしていて動けませんでした」
事態の深刻さを悟り、申し訳なさそうにするソフィア。
「そうですか……私も迷惑をかけましたね」
「いえ、ソフィアさんのせいじゃありません。それに私だけでは彼女に勝てそうにないので……。とりあえず彼女を追いかけましょう」
それに従ってソルト達は封印の施されていた扉を向かい、現れた階段を駆け降りていく。
その道中、ソフィアはプレアについて尋ねる。
「ソルト君の姉さんは転生者でしたっけ? ということは神届物は持っていますよね」
「はい。さっきも使っていましたが【要求】という魔法です。推測ですが自分の要求を相手に吞ませる、という内容だと思います」
「それはまた……随分と……」
その情報に困った顔をするソフィア。それが本当なら大抵の敵は一瞬で終わる。「死ね」と命令すればいいだけだ。シャルが追い打ちをかける。
「それに私の見立てですが、最初に使ったとき、彼女は【対象、世界】と言っていました。恐らく人間だけでなくあらゆる事象に干渉出来るかと。勿論限界はあるでしょうが……」
「そんなの……一体どうすれば……」
ソルトが案を出す。
「今のところ対策は一つです。幼少期の時も先程の戦闘の時も、おね……姉がその魔法を唱えるときは必ず対象と命令内容を言っています。それを邪魔することです」
「もっとも私ですら近接戦闘で押されたんですけどね」
シャルが自嘲気味に言い放つ。彼女が魔法だけでなく近接戦闘も強いことは生徒会長のソフィアはよく知っていた。
「シャルさんが押されますか……っ! 止まって下さい!」
突然のソフィアの停止を呼びかける声。まだ階段の途中だ。ソルトが尋ねる。
「何かありましたか?」
「はい、右前方五メートル、空間に歪みです。恐らく捕縛用の空中魔法陣に隠蔽がかけられています」
「分かりました」
ソフィアの話を聞いた瞬間に、ソルトは刀を魔力で覆い、
「【骨断】」
刀を振り下ろす。
その瞬間、ソフィアが指摘した場所の四方から銀の鎖が伸び、なにもない空間に絡みつく。
ソルト達のうち誰かが通っていたら、確実に捕獲されていただろう。
「便利ですね、【王者の庭】」
「その分、ずっと魔力を放出しているので消費がとんでもないですけどね」
通路を再び走り出す三人。だが、シャルは疑問を浮かべる。
「それにしてもあの魔法に込められた魔力……ソルトの姉ではありませんね」
「あら、違ったのですか?」
ソフィアが不思議そうに返す。ソルトもシャルに同意する。
「それは俺も思いました。あれは姉の魔法ではありません」
「では一体誰が……」
走りながらも考え始めるソフィア。シャルが答えに辿り着く。
「ソフィアさん、ここって魔王の腕が封印されているはずですよね」
「そのはずですね……」
「それなら封印はされているとしても、中に罠が仕掛けられているとしてもおかしくはないですよね」
「なるほど、それならさっきの罠も納得ですね」
ソフィアも納得した表情を見せる。
「でも、侵入者対策ならもっと数があってもいいような……?」
疑問を持つソルトだったがその疑問は二人には聞こえなかった。
〇〇〇
「はあっ! はあっ! これは予想外……っね!」
足に刺さった棘を引き抜き、治癒魔法をかける。
「いたたたた、チェリシュちゃんから止められてはいるけれど……仕方ないよね」
治癒魔法で治る傷を眺めながら自嘲気味に呟く。
封印の扉を潜ってから数分、プレアは襲い来る魔法罠の対処に追われていた。隠蔽を見破る術を持たないプレアは襲いかかってくる魔法一つ一つに対処するしかない。
治療が終わり、再び歩き出す。
(しかし、これは不味いな……早くしないとソーちゃん達に追いつかれちゃう……)
既に重傷を七箇所、軽傷はもはや数え切れないほどだ。それだけの傷をプレアは既に負い、そのたびに治癒魔法をかけ続けた。少し進むだけで雨霰のように魔法に襲われるのだ。怪我の数としては少ないくらいかもしれない。
そんな危険な道程を経て、最奥と思われる扉がようやく見える。
「はあ、やっと辿り着い、きゃっ!?」
だが扉に近づいた瞬間、扉に電撃が走る。それはプレアの体に襲いかかるだけでなく、天井にまで伸び、更にそこに設置されていた魔法陣を起動、天井が爆破し大小の破片がプレアに襲いかかる。
破片一つ一つが爆破魔法を纏った爆弾となって。
「このっ! 【サンダーシャワー】!」
降りかかる瓦礫に爆破魔法がかかっていることを見て取ると、それらが近づく前に魔法で迎撃し、空中で爆破させる。
「ふう、もうないよね……」
恐る恐る扉に近づき、魔力が感じられないことを確認して扉を開ける。
「あった、魔王様の左腕!」
部屋の真ん中の台座に鎮座する腕を見て、駆け寄るプレア。
「これでやっと……」
「そこまでだ」
「え?!」
〇〇〇
「左前方!!」
「破邪の炎を我が手に! 魔滅の業火となって敵を滅ぼせ! 【灼熱炎】!」
灼熱の槍がシャルの手から複数放たれ、不可視だった魔法陣にそのいくつかが直撃する。
「よし、大丈夫です! 破壊されたことを確認しました!」
そしてまた通路を進み、階下に向かう三人。
封印の扉をくぐって数分、順調に下りていく三人は、ついにプレアが通った扉までたどり着く。
「やはり、最後の扉も破られていましたか」
半開きになった扉を見て、三人は非常事態を悟る。
「ソフィアさん! 中の状況は?!」
「分かりません、【王者の庭】を使っても探知する前に私の魔力が吸われてしまいます」
「そうですか……。わかりました。ソフィアさんはそこにいてください。部屋の中にはシャルと俺だけで入ります!」
目に見えないソフィアを慮り、提案するソルト。二人で扉をくぐる。
だが、
「ソルト! 来ちゃダメ!」
部屋に足を踏み入れた瞬間、聞こえてきたのはプレアの叫び声。
そして、
「汝、魔に与する者か」
視界に入ったのは大柄な巨躯の男が振り下ろす大剣だった。
〇〇〇
「あぶねえ!」
間一髪でソルトは右に、シャルは左に回避する。男の追撃はソルトのほうに向かう。二撃、三撃と繰り出される大剣を地面を転がりながら回避するソルト。
一方、追撃がこなかったシャルは魔法による拘束を試みる。
「神の鎖よ、荒ぶるもの、嘆くもの、その全てを捕らえよ【神縛呪鎖】!」
大柄な男に四方から黄金の鎖が襲い掛かる。しかし、男は大剣振り回し、縛ってくる鎖を無理やり引きちぎる。
「な?! 引きちぎった!?」
男が横目でソルトに攻撃を加えながらも、言葉を発する。
「ふん、小娘、貴様も魔の者か。この小僧諸共屠ってやろう」
その時、再びプレアの声も聞こえる。
「シャルちゃんも逃げて!」
声のする方をシャルが確認すると左腕を肩から先を失っているプレアが力なさげに壁にもたれていた。出血はすでに止まっているが、かなりの出血だったらしく、顔色も悪い。
「大丈夫ですか!? 治癒魔法を……」
シャルはその怪我を確認するや、急いでプレアのもとに駆け寄り、治癒魔法を展開する。たが、返ってきたのは、
「私はいいから! ソーちゃんをあいつから引き離して!」
プレアの悲痛そうな声だった。
〇〇〇
「魔を受け継ぎし者よ。ここに朽ち果てろ!」
「だから! なんのことだよ!」
必死に襲い来る大剣をそらしながら、ソルトは聞き返す。それに反応したのか男の動きも止まる。
「ん? 知らぬのか?」
「あ、ああ。魔の者って何のことだ」
対話ができると判断し、質問を重ねるソルト。だが、その一瞬、気を緩めてしまう。
「知らぬなら、そのまま死ね」
ソルトが気づいた時には再度大剣が振り下ろされていた…………




