魔王の腕争奪編 王宮の戦い
一人の少女が王宮の廊下を鼻歌を歌いながら、軽やかに進んでいく。
「止まれ! 貴様が侵入者だな。私は十人兵士長、ダルリア・マック……」
「対象、目の前の兵士、命令、【跪け】」
時折見張りに見付かるが、少女が言葉を発しただけで相手は動けなくなる。
「止まれ! 貴様が侵入者だな。私は千人兵士長、バッキリア・サエルート! 大人しく捕ま……」
「対象、目の前の男、命令、【跪け】」
少女の声が響くが相手の男に命令に従う様子はない。
「ふん! 残念だったな! 貴様の話は聞いているぞ! 言霊遣い、いや、呪詛遣いらしいな。だが、貴様の呪いもこの魔法道具【逃呪の原石】がある限り、己に届くことはあぐ!?」
男の喉にナイフが突き刺さる。それは少女の手の内から放たれたものだった。
【要求】の魔法が通じる相手はそのまま、通じない相手はナイフの投擲で一撃で仕留める。それが少女プレアの王宮での戦い方であった。
そして少女は順調に【魔王の左腕】が封印されている地下へと進んでいく。
〇〇〇
「突然シャル嬢がいなくなったときは驚いたぞ」
「すみません。先生とソフィアさんに伝える暇はなかったので……」
「いやいや、あの二人は捕縛したのだろう? 敵を生け捕りにするとは中々の大手柄だ」
「そうですよ。お二人から聞いた限りですが中々の共闘ではないですか」
ソフィアがシャルとソルトの戦いを褒める。
王宮に張られた結界に干渉しながらソルトが先程の戦闘の詳細を伝え終える。レイとソフィアはシャルが突然消えて驚いていたのであった。
「シャル、後どれくらいかかりそうなんだ?」
ソルトが結界を解析するシャルに尋ねる。
「もうそろそろいけるわ。でも結界が解けるのは一瞬よ。強力過ぎて長時間は無理」
「相変わらず早いな……」
レイが感想を口にする。
「さっきの少女の方が私の十倍以上の量の魔力を持っていたので、それを奪って使っているんです」
「ほほう。魔力量がシャル嬢の十倍以上か……。まるで悪魔のような魔力量だな」
レイは呆れたような声を出す。その直後シャルが叫ぶ。
「解析終わりました。三秒後、開きます」
その声に慌てて三人が装備を整える。そして、王宮の結界が一瞬消え、再び張り直されるのであった。
〇〇〇
「結界が一瞬消えた……。予定通りに進んでいるのかな?」
場所は王宮の地下最下層。魔王の左腕が封印されている部屋の前で四人の男女がプレアの行く手を阻んでいた。
「ふん、よそ見をするとは余裕ではないか」
声とともに大柄な男が持っている大剣を振り下ろす。プレアは左に半歩ずれるだけでそれをかわすと男の心臓を右手のナイフで狙う。
「直次! 今よ!」
「分かった」
刹那、放たれるのは無詠唱の雷上級魔法。瞬間的に迫ってくる雷を前に、プレアは男の心臓を潰すことは諦め、ナイフを投擲しながら、数歩下がり、素早く詠唱する。
「雷よ、わが意に従え、汝の命を我が手に【吸雷】」
ナイフを大剣ではじかれたことを確認しながら、迫りくる雷を左手のナイフで受け止め、吸収する。それを見た男が呻く。
「ちっ、魔法使いの中には自身の得意な系統の魔法であれば吸収できると聞くが、まさか上級魔法まで吸収できるとは」
「なら、今度は私が闇魔法の超級を準備するわ! 時間稼ぎは頼んだわよ!」
「分かった。俺に任せておけ!」
雷が収まった直後、プレアに向かって双剣を携えた男が突撃する。二本の剣は炎を纏い、プレアに襲い掛かる。
しかしどこから切りかかってもプレアは左のナイフ一本で捌き切る。双剣使いの男が「未来視でも持っているのか」と疑うくらいの技量だった。そしてそんな攻防の中双剣使いの男はプレアの右手がおかしな動きをしたことに違和感を覚える。
「屈め!」
ナイフを大剣ではじくことに成功した男が危険を知らせる。その声を聞いた途端に双剣使いは身を屈め、その頭上を何かが通過する。
飛んできたのは先ほどプレアが大剣使いに向けて投擲したナイフだ。よく見るとプレアの右腕からは細い糸がナイフまで伸びており、それを引き寄せ、回収したのだった。雷の魔法でナイフの向きを変え、あわよくば双剣使いの命を奪うことを狙いながら。
「やっぱり一対多はナイルのほうが向いてるのに……」
攻撃が上手く決まらないことをぼやきながら、プレアは両手に持ったナイフで双剣使いに襲いかかる。双剣使いが大柄なこともあり、肉迫さえしてしまえばあとはプレアの一方的な攻撃だった。近すぎる距離での戦闘のため先ほど魔法を使った男も手が出せない。
辛うじて致命傷だけは防ぐ双剣使いだったが、徐々に傷が増えていく。そんなとき、新たな人物が参戦する。
「【飛翔閃】!」
階段を駆け降りてきた男はプレアに双剣使いが押されていることを見た瞬間、緊急事態と判断し自身のジョブ【剣聖】のスキルでプレアの後ろから切りかかる。
しかし、プレアは後ろを振り向かずに、左手のナイフで後ろからの一撃を下に弾く。双剣使いに対峙したままだ。
「なんだと!?」
双剣使いも後ろから襲い掛かってきた男も目を丸くする。
プレアはその隙を見逃さず喉元を狙ってナイフを投擲。双剣使いは防ぐ一方、【剣聖】のほうは剣を下に弾かれたため、それによる防御が間に合わず、仕方なしに左手でナイフを受ける。
「ぐうっ!」
ナイフの痛みに呻くがプレアはそれを気にせず、左手からナイフにつながっている細い紐に電流を流して剣聖の男にダメ―ジを与えてからナイフを引き抜く。
そしてそのまま手元には戻さず、鎖鎌のように振り回し、双剣使いの後ろから突撃してきた大剣使いの男の頭を狙う。
双剣使いの影からプレアを襲おうとした大剣使いの男は、大きく弧を描いて襲いかかってきたナイフに気づかない。後ろで待機していた男がぎりぎりのところで気づき慌てて雷の魔法でナイフの軌道をずらそうとしたが、少し軌道をずらすだけに留まり、ナイフは肩を貫く。
「いてぇ!」
「こいつ! どこに目がついてやがるんだ!」
後ろからの攻撃を見ずに防いだり、死角から近づいてきた大剣使いの男をナイフで狙ったりするプレアにたまらず双剣使いが愚痴を吐く。
だが、そんな言葉に応じずプレアが魔法を放つ。
「雷よ、わが意に従い、敵を打ち滅ぼせ【神雷槍】」
雷で構成された槍がプレアの頭上に浮かぶ。その長さは二メートル以上、プレアはバチバチと音を立てるそれを右手で掴み双剣使いに投擲する。
結果、その雷の槍は双剣使いと大剣使いを諸共壁まで吹き飛ばす。
「闇魔法【万理滅絶】」
ようやく闇魔法の準備を終えた女性。プレアの周りにドロドロとした液体が出現する。
「ふふふ、これなら吸収なんてできないでしょう!」
「これは触っちゃいけなさそうね……対象、この部屋、命令、【魔法の滅却】」
たったそれだけで、女性の最大の闇魔法が消えうせ、彼女と隣にいた男の首にナイフが吸い込まれるように投擲された。
〇〇〇
「貴様! ぜぇ、一体何者だ! なぜこんなことをする!」
地下深く、【剣聖】の男が封印の結界が張られた扉の前で、少女プレアに尋ねる。
すでに仲間のうち魔法職であった二人は首をナイフで刺され死亡、大剣使いと双剣使いの仲間も【神雷槍】を食らってから痙攣が止まっておらず、生きているかも定かではない。
五人は異世界転移者であり、同時に魔王討伐のパーティーに参加した猛者達だった。普段から王宮の守護を任されている面子でもある。
だが、それだけの実力者であるはずの四人がたった一人の少女を相手に、地を這っているのであった。
「質問が多いですよ。まあ、二つくらいならいっか」
そういいながら、プレアは封印の結界に近づく。
「一つ目、私の名前はプレア・ダンス。この名前に聞き覚えは?」
「知らん……待て、ダンスだと?! まさか、あの裏切り者どもの!」
「うん、覚えてたみたいだね。じゃあ次。なんでこんなことをするかだっけ? そっちはもっと簡単。私の弟のためだよ」
「どういう意味だ!」
しかし封印の前にたどり着いたプレアはその質問には答えず、扉の周りを調べ始める。
「うーん、これは時間かかりそうだな……」
「待て! 待つんだ! 本当に魔王を復活させる気なのか!」
「ええ、そうですよ。対象、目の前の封印、命令……」
「お姉ちゃん?」
「え?!」
突如お姉ちゃんと呼ばれ、驚いたプレアが振り返る。
そこではソルトが呆然とした表情で立っていた。




