魔王の腕争奪編 VSマドルガータ
「はっ、かはっ」
「ふん、人が吾に勝とうなどおこがましい。死して詫びよ」
そしてジャヌは勢いよく腕を引き抜くと、中の臓物がまき散らかされる。それと同時にマドルは力尽きたように倒れ込む。
「さて、クルルシアよ。これで終わりかの?」
『そうだね。帰ろっか。もうちょっとアルちゃんと遊びたかったけど』
「ふん、そんなことを言っているから、このように面倒な場所まで来なければならなかっ」
「神届物【死ぬより怖いことが存在する】」
『え?!』
「なんじゃと?」
戦勝ムードで帰ろうとしていた二人の足が止まる。それもそのはず。腹をくりぬかれたマドルが何かを呟きながら立ち上がったのだ。それも、くりぬかれたはずの腹の傷が塞がった状態で。
「不死身はあなただけの専売特許ではありませんよ」
そう言いながら八つの魔法陣を起動し始める。クルルシアとジャヌが妨害しようとしたがアルヴァとプルトーネの二機に邪魔される。
そしてその八つ全てから一つ一つがアルヴァと同レベルと思われる個体が出てくる。
「さあ、人形劇の開演です」
〇〇〇
「くっ! 何じゃあいつは! どれも手動で動かすとか正気か?!」
『わ~、アルちゃんが一杯だね~!」
現在、クルルシア達は狭い一本道を十体の人形に追いかけられていた。この十体の人形、驚いたことに一体一体がアルヴァに迫る戦闘能力を有している。そして、さらに驚きなのは、それがすべて自立思考しているのではなく、マドル自身が動かしていることだった。
「クルルシア!」
『分かってる! 次の角を左に曲がったときにだね』
具体的には何も話していないが通じている二人。これが【心通者】の人と魔物である。
そしてその角を曲がったところでクルルシアとジャヌは同時にふり返る。
「雷龍魔法【極雷砲哮】」
『雷龍魔法【極雷砲哮】』
二人がそろって放つのは雷の束を一直線にぶっ飛ばす魔法だ。よほどうまく防御しない限りどんな防御も熱で溶かされるか、感電するかの末路を辿る。
よほどうまく対処すれば別だが。
「メルクリオ、【土龍角】」
一体の人形がマドルの指示に従い前に出る。そして通路の壁に手を付けると、通路の上下左右から土で作られた竜が【極雷哮砲】によって作られた雷に向かって激突しに行く。
術の威力が違うこともあり土の竜は一瞬で消し飛ぶが、電撃は全て、避雷針として作られた土の竜に流れて行ってしまう。直線上にいた人形たちは一つも傷を負っていない。
だが、その隙に再びクルルシアとジャヌは奥へと逃げるのであった。
『ジャヌ! なにか打つ手は……』
「クルルシアよ、自分で答えの分かっている質問をするのは愚問というぞ」
『だよね~』
地下通路を逃げ回りながら二人(一人と一匹)は必至で、十体からの波状攻撃を受け流しつつ彼らの足止めをする。
『いや~、さすがに十体もアルちゃん級を操れるとは思わなかったよ』
「全く、誰かもう一人くらいには情報を渡しておけばよいものを」
『だってそんなことしたら横槍が入っちゃうでしょ! 私はアルちゃんの本体と一対一で戦いたかったの! 魔王の腕なんてどうでもいい!』
「その結果が今であろうが! おまけに地下遺跡などという我らに不利な状況を作りよって!」
そう、この地下の遺跡は二人にとって不利なのであった。大規模な魔法を使うと崩れる恐れがあるためだ。そのため一点集中型の魔法か肉弾戦しか手がないのである。
『ま、まあ、ソルトとか何人か助けに来てくれるとは思うし……。え? なんで?』
突然足を止めるクルルシア。ジャヌは不思議に思って聞く。
「どうした?」
『なんで異世界勇者がここにきてるの!? あんな弱い助っ人いらないよ!』
「ふむ……どうする?」
『も~、仕方ない! ここは人命優先でいこう。とりあえず異世界勇者達を逃がすことだね。弟の友達を死なせる気はないよ』
〇〇〇
「な、なんだこれ~~~」
「うわっ、気持ち悪」
異世界勇者の生徒たちが、騎士ロルフに率いられてやってきた地下で見たものは夥しい数の人形の残骸だった。
「おいおい、これいくつあるんだよ」
「まるでここで人形たちが戦争でもしてたみたいだな」
お気楽な感想を述べる生徒たち。だがロルフはそれを戒める。
「君たち、SS級の冒険者についてどれくらい知っている?」
「え……? どうしてここでその話が?」
「ここの惨状は恐らくたった二人によって引き起こされたものだ。【神業師】マドルガータと【雷姫】クルルシアによるものだろう」
「え?! だ、だってここにある人形は軽く見ても一千体は超えてますよ! 作るにしても壊すにしても二人じゃないでしょう! 異世界勇者でもこんなこと……」
「それができるのがSS級冒険者なのだ。自分たちを基準にするのはやめろ……。それにしても、この通路の破壊跡を見るにここで戦っていた者は二人とも奥へと向かっていったようだ。もう一度聞くぞ、諸君。本当についてくるのか? 今ならまだ引き返せるが」
試すような口ぶりになっているがその目は真剣に生徒たちのことを心配している。それを察したのか生徒たちのやる気は逆に上がっていく。
「いや! ついていきます! 魔王の復活は僕たちが何とかしてみせます!」
「うむ、よかろう。では私が先頭を走る。一本道であるから迷うことはないだろう。自分のペースで、最善の自分を常に保っておくのだ」
「はい!!!!」
〇〇〇
「なんだこれ?」
「この魔力残滓は……クルルシアさんにアルヴァさんね。どうやらアルヴァさんが犯人というのは間違ってはなさそう」
「そうだな。もう間違いない」
生徒たちがその場を去ってから十分後、ソルトたちはクルルシアとマドルの最初の戦闘地点にたどり着く。
「やはりかなり激しい戦いになっているみたいですね」
夥しい数の人形の残骸を眺めながらソフィアはつぶやく。
「急いだほうがよさそうだな」
ソルトが進言する。
そして四人は奥の通路に向かうのであった。
〇〇〇
「追いかけっこはおしまいですか」
先ほどまでひたすら階段を下りていたクルルシアが上がってくることを探知用の人形で知るマドル。指から伸びる魔力でできた糸を確認しながら作戦を考える。
だが、その時、後ろ、すなわち地上へと通じる階段のほうからがやがやと何十人もの生徒が下りてくる。
「あ! いたぞ! クルルシアさんじゃない! ってことはマドルガータだ!」
「よく見えたな。その調子だ! そして皆! 相手はSS級冒険者だ! 絶対に気を抜くなよ。いくぞ! うおおおおお!!」
ロルフが吠え、生徒達が追随する。
「おおおおおおおお!!!」
戦闘職についていると思われる生徒たちがマドルに突撃を開始した。
「阿呆らしい……。彼等には私の傑作を使いたくもありませんね……」
マドルはそう言い、足元に数十の魔法陣を起動させる。いずれもアルヴァなど、クルルシアを追いつめつつあった個体には到底及ばない性能ではあるが、数はその何倍もある。一つの魔法陣から十体二十体の人形が錬成されるのだ。
「うわああああ!」
「なんだこいつら! まるで生きてるみてえな動きしやがるぞ!」
一瞬のうちに前線に出た生徒たちが押され始める。自身の数倍の量の敵と戦うのことには慣れていない様子。しかも一体一体が、アルヴァほどではないとしてもかなり強い。
悪条件の中で必死に抵抗してくるがマドルはその全てを軽く流し、下りの階段を見据える。人形はどれもマドルが手動動かしているのだが、今はもはや適当にに操っているだけだ。しかしそれでも異世界勇者たちは苦戦している。
「全員、退け! 退くのだ」
ロルフは生徒達の劣勢を即座に感じとり、撤退を指示する。だが、その彼も複数体の人形に囲まれてろくに身動きが取れていない。
だが、その時だった。ついにクルルシアがその場にたどり着き、異世界勇者たちに【伝達】魔法を行う。
『君たち! 即刻この場から離れなさい! あとは私に任せてもらって構わないから!』
「で、でも! そしたら魔王の腕が!」
『そんなのいいから! 早く逃げて! ジャヌ、頼んだよ!』
「分かっておる!」
返事をした直後、ジャヌが、雷をまとったブレスを人形の兵団に浴びせる。異世界勇者と交戦している人形は無理だったが、ほとんどの人形はそれで動かなくなった。
「ど、ドラゴンブレス!? は、はい! わかりました」
分析の魔法でも持っていたのか、一部の生徒はブレスの内容を知る。そして、生徒達が逃げ帰り始めるたことを確認して。
『ジャヌ! やるよ!』
「狭いところでの戦いは得意ではないんじゃがな」
マドルの十体の人形の前にクルルシアとジャヌが歩み出る。
「では、改めて名乗りましょう。【悪魔喰い】団員ナンバー九、【神業師】マドルガータ・ジオイアと申します」
『【七色の旗印】、サブマスター【雷姫】クルルシア・パレード・ファミーユ』
「その友、ジャヌ・パレード」
名乗りが終わった瞬間にマドルの人形が一斉に襲いかかる。
そして、クルルシアとマドルの第二試合が始まった。
〇〇〇
「な、なんだ?」
地下を進むソルト達。その彼らの目の前に何十人もの生徒と一人の騎士とすれ違う。
「まさか、生徒達も来ていたのか?!」
レイが驚きというよりも怒りを交えた声をあげ、騎士を捕まえると締め上げる。
「おい、どういうことだ! 何故まだ未熟な彼らを連れてきた!」
それに対して騎士ロルフも言い返す。
「仕方ないだろう! こちらも人手が足りんのだ!」
レイの腕を振り払うと地上へと戻っていく。その様子に諦めたような顔をするレイ。
「無事に帰ってきてくれただけでもいいとしよう」
その時、【探知】魔法を使っていたソフィアが結果を報告する。
「レイ学長! 補足が終わりました。恐らく一分もすればクルルシアと合流するかと」
「わかった。よし、全員! クルルシアの援護に向かうぞ!」
そして四人は急いで階段を降りる。階段の終わりが近づくにつれて戦闘の音が聞こえはじめる。
その音は激しく、時には轟音も聞こえてくる。
だが、階段を降りきった時に、ソルトが見たのは戦闘の場面ではなかった。
クルルシアが人形に首をはねられた瞬間だった。
「クル姉えええええええええ!!!」
ソルトの頭は真っ白になり、そして……。
発音間違ってたら教えてください(~。~;)
C'è qualcosa di più spaventoso di morte




