幕間 四
「国王様! 門番から連絡が途絶えました! 占い通り、奴らが攻めてきたものと思われます」
「そうか、報告ご苦労。予定通り君達は自分の持ち場に就きたまえ」
「はっ!」
国王が連絡役の兵士から連絡を受ける。それを受けてそばにいた騎士に連絡を任す。
「ロルフ、SS級冒険者を呼べるだけ呼べ。相手は異世界勇者をたやすく葬ることができる相手だ。戦力は多ければ多いほうが良い。そしてそれが終われば学校のほうを見てきてくれ。王宮の【魔王の左手】が狙われている今、学校に封印された【魔王の右腕】が同時に狙われている可能性が高い」
「ハッ。御意に」
返事をしてから、王の横に控える男は部屋から出ていく。
「ショウゾウ! ショウゾウはいるか!」
「ここに」
現れたのは忍装束に身を包んだ男。音もなく王の前に膝をつく。
「一人目の敵は正門から堂々と入ってきていると聞く。そうなると陽動の可能性が否定できん。そこでお主にしてもらいたいのは裏道などから来る敵の対処だ。それに加えてほかの異世界勇者をあつめてほしい。二十年前の彼等だ。頼めるか?」
「はい、承りました」
そう言うと再び音もなく姿を消した男。しかし王はそれでも終わらずに、まだまだ他の兵たちに連絡を取り続けるのであった。
〇〇〇
「なあなあ、ナターシャ姉ちゃんよ~。なんかビッグな依頼はないのかい?」
「そう言われましても……」
ギルドにて柄の悪そうな男たちが受付嬢ナターシャに絡んでいた。しかし実際は、彼らは柄が悪いだけでその実力は確かなものであり、受付嬢からも信頼はある。この絡みも本気で受付嬢が嫌がっていればすぐにやめてくれる。
「そうはいってもよ。俺たちSSSクラン【バトルビースト】が暇なんだぜ? なにかあるんだろ。冒険者が戦闘に必要なことが」
その言葉を聞いた受付嬢は笑顔こそ崩さないが内心では(なんでわかるのよ!)と盛大に突っ込んでいた。
現在、王宮では【魔王が近々復活する】という予知が見えてからというもの、それに対処する冒険者を確保するべく高難度の魔物討伐や素材採取の仕事は必要最低限にとどめられている。結果として思惑通りに熟練の冒険者がギルドの酒場でたむろしているのであった。
そこに急に転送魔法陣から、王宮の伝令の兵士があらわれ、書類をもって宣言する。
「報告します! 現在、正体不明の賊に王宮が襲われております! 犯人は恐らく【勇者殺し】の一人! S級以上の冒険者は強制的に参加していただきます。依頼のレートはSSS!」
「【勇者殺し】だと! まじかよ! これは楽しめそうじゃねえか」
「【バトルビースト】は先に向かわせてもらうぜ」
「同じくSSSクラン【七色の旗印】も向かわせていただこう」
「同じくSSSクラン【蒼海の乙女】も向かわせていただくわ」
なんの迷いもなく王宮の使者に応じるクラン。これらはもともと、何かあると思って準備をしていたクランだ。
それに続いて何人もの冒険者が手を挙げる。
「俺も行くぜ!」「私も行くわ! A級だからと言って馬鹿にしないでよね」
「なんだって! SSSクランが三つも準備してたのかよ! おいCランク以下の冒険者! 俺たちはあの人たちの戦闘を見に行くぞ! そんで余裕があったら大金星でも挙げちまえ!」
「おおおおおおおおおおおお!!」
ギルドは熱気に包まれる。その瞬間だった。
「【幽霊武器・不殺の機関銃】」
「?! 全員伏せろ!!!」
その声に反応できたものは何人いたのか。壁を破壊するわけでもなく、すり抜けてきた弾丸の雨霰。無音で襲い来るそれらに対し、先ほど声を上げた五十人近くの冒険者のうち十人が意識不明となった。だが名乗りを上げた三つのクランはいまだに全員が無傷であり、その貫録を見せつける。
「ふむ……。どうやら敵さんはもう隠れることをやめたようだね」
「はっはっは! まさか同じSSSクランが相手だとはな。リップトンよ。どうする!」
「チェリシュ嬢が相手なら、ここの相手は【蒼海の乙女】が適任だろう。彼女の相手は回避に特化していなければならん。私のクランもそっちのクランも受けて倒すのが型の冒険者が多い。というわけで頼めるかね?」
「ええ、任されるわ。彼女がこの建物に入ってきたらその瞬間に飛んでいきなさい。目眩ましくらいできるわ」
「分かった。ハルセンもそれでいいかね?」
「はっはっは。了解だ。俺たちの脚力なめるなよ!」
「あ、あの。俺たちは何をすれば」
先ほどの攻撃をかわし切ったSSSクラン以外の冒険者である。【七色の旗印】のマスターが答える。
「君たちには避難を誘導していただきたい。王宮の騒ぎが陽動の可能性もある。だから、もし何かに気づけばすぐに私たちに連絡をしてほしい。ここからの脱出は私たちも手伝おう」
「わ、わかりました」
その時入り口を見張っていた冒険者が声を上げる。
「皆! 入ってくるわよ!」
ギィと音を立てて、冒険者ギルドの入り口が開き。
「皆様お久しぶりです。SSSクラン【悪魔喰い(デーモンイーター)】団員ナンバー四、チェリシュ・ディベルテンテ。参ります!!!【幽霊武器・不殺の槌】」
「【湿雨霧風】!」
巨大で実体を伴わない槌を装備し、突撃してくるチェリシュだったが、女性冒険者が放った魔法によりギルド内が霧に包まれる。全員の視界が覆われるがその中で【バトルビースト】と【七色の旗印】のクランメンバーは各々、ギルドの天井を突き破って脱出する。あるものは飛んで、あるものは跳んで、あるものは魔物を呼び出して。
そして、彼らは魔王の腕を守るために王宮へと向かうのであった。
〇〇〇
学校
「レイ! レイ学長はいるか!」
「あなたは誰ですか?」
学校の入り口近くでたむろしていた学生たちが突然現れた男に驚きながらも質問する。
「私は王宮の者だ。至急レイ学長と連絡を取りたいのだが」
「それが……俺たちも連絡がつかないんです。講義の時間になっても現れないし……」
「何?」
その言葉に驚くロルフ。ほかの二十年前の異世界勇者とは連絡がついたのだがレイだけ未だに連絡が取れないのであった。
「王宮のほうで何かあったんですか? 異世界勇者の私たちなら何か手伝えるかもしれませんよ!」
声を上げたのは勇だ。ジョブである【探究者】としての好奇心が騒ぎ始める。それにつられて異世界勇者の少年たちが次々とロルフを取り囲む。
「こ、こら! やめなさい!」
「教えてくれるまで逃がしませんよ!」
そう言われてロルフは少し考える。実際に彼らが実力をつけてきているのも、転移の際に絶大な力を受け取っていることも知っている。それが四十人ともなればかなりの戦力だろう。
それに今、王宮側は戦力が圧倒的に足りていない。冒険者はともかく白の兵士では時間稼ぎが精々だ。よって学園に封印されている【魔王の右腕】を守る存在がほしいのも事実。
それでも子供を巻き込んでもいいのかという思いがロルフの返答を遅らせる。
だが、子供たちの真剣な目を見てロルフは決断するのであった。
「君たち、お願いがある」




