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道に咲く華  作者: おの はるか
私は博愛の道に夢を見る
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学園騒乱編 姉の失踪

 三年前 三人

 二年前 四人

 一年前 二十六名

 今年  七名


 クルルシアが調べた【勇者殺し】の被害者数である。

 現在、夜の十二時、あれから自室に戻ったソルトとシャルは先ほどから、ソルトの姉プレアについて話し合っていたのであった。

 

「うーん、こうしてみると、明らかに去年からおかしいな」


「でもあんまり手掛かりにはならないわね」


 シャルが諦めたように呟くが、ソルトはあまり気にしていないようだった


「うーん、まあいいさ。これに姉ちゃんが関わってる保証もないし、会えるっていうことはわかったんだから」


 姉に関する話を打ち切るソルト。推測で話すことにあまり意義が感じられなかったためだ。


「まあ、あんたがそれでいいならいいけれど……あんまり気を張りすぎないでね」


「ああ、そうだな、ありが」




『ソルト……私の心配は……いいから……気を付けて……』


 ソルトが発言している最中、頭にクルルシアの【伝達】魔法が響く。


「ん? クル姉?」


 返事をしてみるが、いつもならすぐに来る返事が来ない。


「どうしたのよ」


 突然クルルシアの名前を呼んだソルトに怪訝な顔をするシャル。


 だが、ソルトは返事がないことに不安が募るのであった。


「一体どうしたんだ……?」


〇〇〇


 その数分前のこと、


『うん、分かった。やっぱり感知できなかったのは私に対する対策があったんだね。いやいや、それだけの情報でも感謝だよ。ありがとうね。カイト君、勇君』


『いえ、これぐらいしか役に立てなくてすみません』


 深夜、クルルシアはカイトと伝達魔法を通じて話し合う。今、クルルシアが聞いたのはカイトと勇が『勇者殺し』についての犯人捜しをやめるよう警告を受けた、というものだ。


 詳細を聞き終え、クルルシアは自分のベッドから起き上がる。


『それにしても二丁の銃、か。そんなのあの子しかいないじゃないか』


 少しの間、逡巡するクルルシア。だが、気持ちが固まったのかベッドから出て、着替えを始める。


 そしてクルルシアは真夜中、【勇者殺し】の犯人達を王宮に伝えるべく扉に手を伸ばす。


 いや、正確には伸ばそうとした。


 ドスッと彼女の体の内側から鈍い音が響く。クルルシアの視界に自分の胸から生える手が映る。


『えっ……?』

「全く、セーラには困ったものですよ。自分の情報に繋がる武器は隠せとあれほど言ったのに」


『君……は……そうか、壁の土……』


「すみませんね。私は、私達は、止まるわけにも止められるわけにもいかないのです」


 そう言って手を引き抜く相手。それによってできる穴からクルルシアの血が抜けていく。


 手で貫かれたのは心臓の部位。その血は決して止まることなくクルルシアが気を失うまで流れ続けたのであった。


『ソルト……私の心配は……いいから……気を付けて……』


〇〇〇


 翌日、ソルトは目を覚ます。だが、その隣に信じられない光景が広がっていた。


「シャル……お前、一人で起きれたのか……」


 隣で起き上がるルームメイトを目にしてソルトは驚きを口にするが、


「血の……匂いが……する……」


 寝ぼけならの言葉だがその言葉にソルトは嫌な予感がする。そして思い出すのは昨日のクルルシアの伝達魔法。


「いやな予感がするぞ……」


 急いで身支度を整えるとクルルシアの部屋に向かうのであった。


〇〇〇


 クルルシアの部屋の前についたソルトとシャル。だが、そこに先客がいた。


「ソフィアさん?」

「ソルト君ですか?! 突然ですみませんが今クルルシアと伝達魔法は通じますか?」


 そう言われて試すソルト。だが、いくら呼びかけてもクルルシアからの返事はない。


「いえ、通じませんね」

「ねえ、ソルト、この部屋から血の匂いがするわよ」


 そういってシャルが指さすのはクルルシアの部屋。

 急いで駆け寄りソルトは扉をたたく。


「クル姉! いるなら返事しろ!」

「クルルシアの鍵は……これ!」


 懐から取り出した鍵束の中からソフィアは一本の鍵を取りだし、クルルシアの部屋の錠穴に差し込んで扉を開ける。


「な!?」

「ひっ!」


 踏み込んだ二人の視界に飛び込んできたのはこれでもかという量の血だまりであった。

 扉の前で二人とも固まってしまい、動くことが出来ない。

 辛うじてソフィアが疑問を口にする。


「どういうこと? なにがあったの?」

「この血は……クル姉の血か?」

「これが? この量は明らかに致死量よ。それに、部屋の中でこんな怪我をクルルシアがするはずないわ。彼女、普通の剣では傷すら付かなかったはずよ。それにクルルシアの体はどこに行ったのよ」


 混乱しているせいかまくしたてるように話すソフィア。


「でも、現にこうして……」


 そこに三人が騒いでいるのを聞きつけた隣の部屋の少女が顔を出す。


「あの、どうしたんですか? まだ朝早いので静かにして貰えると」

「来ちゃダメだ! ソフィアさん。レイ先生に連絡は取れますか?」

「任せてちょうだい。シャルちゃんはそっちの女の子は任せたわよ」


〇〇〇


「レイ学長、クル姉は見つかりましたか?」

「まだだ。現在憲兵が走り回って捜索しているが痕跡すら見つかっていない。窓から出ていったのは分かっているんだが……」


 場所を移して学長室。あの後、駆けつけた何人かの先生に事情を説明したあと深く関係するソルトたちが呼ばれたのだった。現在この部屋にいるのは四人、学園長であるレイ、ソルト、そしてシャルとソフィアであった。


「学長、それは自分の意思だったかわかりますか?」


 聞いたのはソフィア。


「恐らく自分の意思だろうという結論が今憲兵の中で採用されているようだ。クルルシア嬢は女性とはいえ小柄ではない。それが引きずられた後もなければ窓に擦った後もない。そうなれば当然の結論といえるだろう。だがやはり疑問は残る……」

「疑問?」

「ああ、一つ目になぜ隠れるのか」

「それは重傷を負っているから、でいいのでは? あの出血はクルルシアさんのものなのでしょう? それならどこかで療養してから帰ってくるかも」


「そうだな。では二つ目、こちらのほうが問題だが誰がクルルシアに不意打ちを与えることができるのか」

「というと?」

「みんなも知っている通り、彼女は【伝達】魔法の使い手だ。その能力は常に周囲の感情を読み取る。言ってしまえばソルト君が持っている【悪意感知】の上位互換だね」

「それで? そうだとすると何が……あ」

「そう。ソルト君が今気づいたとおりだ。部屋が散らかっていないことを考えるとクルルシアは不意打ちでやられた可能性が高い。だが不意打ちならば必ずそこに悪意が絡む。その悪意が当事者のクルルシアはもちろん、隣の建物にいたソルトの【悪意感知】に引っかからないというのはかなり気になる」


 その言葉に考え始める四人。クルルシアが生きている可能性が出てきたため、ソルトも余裕が出てきたのかその問題について考えることができた。


 そして数分後、


「あ……」

「どうしたの? ソルト君?」

「ソフィアさん。結界の魔法得意でしたよね? 防音の結界とかお願いできますか?」

「え、ええ。どうしたの?」


 戸惑いながらも防音の結界を張ってくれるソフィア。ソルトは張り終わったことを確認すると口を開く。


「犯人が分かりました。学園内にいる【勇者殺し】の実行犯が」


〇〇〇


「なんですって? クルルシアの死体が消えた? そんな馬鹿な。たしかに私は彼女の心臓を」

「なら、彼女がそれを無効とする魔法、あるいはからくりを持っていたのでしょう。そして同時に、これは私たちに対する挑戦よ。もう私たちの行動は、特にマドル。あなたの行動は確実にばれた。その中で向こうは勝負を仕掛けてきているのよ。まだ言わないでやるから正正堂堂と来いってね」

「なるほど……彼女らしいといえば彼女らしいですが……」

「どちらにせよ、私たちは乗るしかないわ。魔王の腕が保管されている学園の地下迷宮に私たちは行かねばならない。というか行かなければ遺跡ごと消されるわ」

「魔王の復活を目論むなら受けてみろ、ということですか」

「そういうことね。全く、ソーちゃんも厄介なお姉ちゃんができたのね」

「ソルト君のお姉さんに関する運は同情を禁じえませんね……あなたも含め」


〇〇〇


『ねえ、ジャヌ、胸がとっても痛いんだけど』

「クルルシアよ。とりあえず()は何故おぬしが遺体ではなく痛いで済んでいるかの説明を行いたいんじゃが、だめじゃろか?」


 場所は学園の地下、職員のなかでも限られた人しか知らない場所にクルルシアはいた。


 そしてクルルシアの傍らにいるのは姿かたちが全くクルルシアと同一の少女、少々髪がクルルシアに比べて、バチバチと静電気を帯び、黄色いスカーフもしていないがそのほかに違いはない。


『あれでしょ? ええと【七色命樹】だっけ?』

「違うわ! 【七命樹】じゃ! 七色はおぬしのクランの名前じゃろうに」

『あははは、そうだったね』


 それからまたしばらく笑い続けるクルルシア。ようやく笑いが収まったころにジャヌと呼ばれた少女が聞く。


「ところで、あやつらは本当に来るのか?」

『来るよ。絶対に来る。なんといっても、こっちは向こうの情報をすでに握ったんだからね。口封じのためにもやってくるし、そうじゃないとしてもこの場所が私に占拠されてるとなったら魔王復活の邪魔になるしね』

「勝てるのか? というかとっとと王宮に行けばよかったものを」

『一対一ならいけると思うよ。二対一になったらさすがにジャヌにも出てきてもらうからね。それと、王宮? 思ったんだけどそんなところに行っても彼ら、彼女らとは戦えないよ。それに一回でいいから彼女と戦ってみたかった』

「……承知した。全く、今度は好戦的になりおって……」


 そう言ってクルルシアの影に沈み込む少女。


『冗談だよ。私はそんなに戦闘狂じゃないよ』



『すべてはソルトのために』



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