学園騒乱編 緊急集会
ソルト達のクラスが講堂に着くと既に半分以上のクラスが講堂に集まっていた。生徒の顔は楽観的なものだが、先生達の顔色は悪い。この集会のタイミングから嫌な物を感じているのだろう。
ソルト達のクラスも空いている椅子に座っていく。
そして数分後、全てのクラスが席に着いたことを確認すると学校長であるレイ・アマミヤが壇上に立って話し始める。
「皆、突然このように呼び出して申し訳ない。ただ今王宮の方から二つ連絡が入った。【勇者殺し】に関して、皆に伝えなければならないことがある」
【勇者殺し】、その単語が出ただけで生徒の表情も硬くなる。勇者といえば魔王に対する最大の切り札。人族の希望そのものである。それが殺され続ける事件など本来あってはならないのだ。ソルトが周りを見渡すと誰もが沈鬱な表情を浮かべている。特に異世界勇者の生徒たちは初耳なのか目を丸くしている。
レイの言葉は続く。
「諸君も知っているだろう【勇者殺し】、知っているだけではなく中には捜査に協力している生徒がいるかもしれない。異世界勇者が殺され続ける、そんな凄惨な事件だ。そして先日、40年前の異世界勇者、その最後の一人、エイスケ氏が亡くなった。これが一つ目の報せだ」
その言葉にソルトは衝撃を受ける。数日前に出会った老人は間違いなく強かった、とソルトは断言できる。その彼を葬ることが出来る相手がいることに戦慄を覚える。
だが、戦慄するのはソルト達だけでなく生徒達や先生達も同様だ。勇者が殺された、ということはつまり、国の軍の最高戦力が失われたに等しい。勿論異世界勇者を越える冒険者は少なからずいる。だがその数が圧倒的に少ないし、王国の命令を聞くとは限らないような面子がほとんどだ。
「そして、二つ目。二十年前の転移者の中で、私同様占い系の能力に特化している者がいるのだが、一つの確定した情報を提供してくれた。それはこの学園の中に少なくとも一人は、その【勇者殺し】の犯人がいるということだ」
「ちょ、ちょっとお待ち下さい! それはどういうことですか! この誉れ高き学園にそのような不届き者がいると?!」
壇上に向かって一人の男性教員が叫ぶ。レイは静かに対応する。
「そうだ。だが誰かまでは分からなかった。殺人事件の犯人を占うなんてことは専門外だったらしくてね。しかし、間違いない情報とみて良い」
「そ、そんな」
「勿論、生徒でも先生方でもない可能性はある。本来この場所は四十年前の異世界勇者の一人が、学校設立時に悪しき者から生徒を守る結界を張っていたはずだ。だが、その女性がいない今、その魔法は解け、外部の人間が潜んでいることも否定できない。だから今日、注意を促すためにこうして集まって貰ったわけだ。くれぐれも一人で行動しないよう頼む。また、当分の間は放課後の活動は訓練場のみに限る。他の場所で活動しないように」
〇〇〇
教室に戻ったソルトと同じクラスの生徒達は大騒ぎだった。主に騒いでいるのは、異世界勇者として選ばれた少年少女達。彼らは【勇者殺し】の事件を聞いていなかったのだ。
「おい! 【勇者殺し】って何なんだよ!」
「私達異世界勇者って強いんじゃなかったの?!」
過去に呼ばれた人たちが全員死んだ世代があるなどと聞かされて、混乱する異世界勇者達。今までは遊び感覚で訓練していた彼らが、突然自分たちの世界が危険であることを突き付けられたのだ。
「やっと遊びじゃないって自覚してくれたのね」
シャルが呆れ気味に呟く。
「だって! 俺達はそんなこと聞いてない! それに俺達は選ばれたんだ! 自分の意思で来たわけじゃない!」
言い返してくる一人の少年。だが、
「落ち着きなさい!」
担任であるシュークが叫ぶ。その声に一瞬静かになる教室。その隙を見逃さずに彼は続ける。
「いいか、君たちが来たのはゲームの世界ではない。死ねばそれで終わり、そこにリセットも再スタートもない。それがこの世界だ。俺だってこんな危険な世界、目的がなければ絶対に行こうとは思わない」
しんと静まる教室。シュークの声だけが響く。
「それに、君達は自分で選んだのではないのか? 王に生活を保障して貰う手もあったのだろう。だが、君達は立ち上がった。魔族に苦しめられるこの世界を、人々を救おうと思ったのだろう? その気持ちはどこにいった? 自分の命が危険にさらされると分かれば、しっぽを巻いて逃げるのか?」
その言葉に俯く異世界勇者達。シュークの言葉はまだ続く。
「ずるい言い方であることは重々承知だ。だが、君達が入学するときに言った『魔族と戦う』というのはそういうことだ。彼らは強い。魔王なんてもっと強い。今の君達では瞬殺だろう。だから、私は言いたい。ここで強くなれ! そのための準備も場所もこちらで準備する」
「そうよ、そうよね……私達がやらないと……」
「そうだよ。俺達は他の人に比べれば強いんだ。俺達が守ってやらないと!」
段々と明るい空気を醸し出してくる教室。異世界勇者でない生徒も「俺達も頑張るから!」と檄を飛ばしている。
ソルトはシャルに尋ねる。
「なあ、先生、何か魔法を使ったか? 俺何も見えなかったんだけど」
「私も見えなかったわ……。何あの人。魔法も使わずにあんな誘導ができるの……?」
二人が恐れを抱きながら担任のシュークを見る。だが彼の顔は満足したものではなく辛そうなものであった。
その表情に疑問を持つ二人だったが、その表情に目を奪われて気付かなかった事がある。
異世界勇者の中に二人、ずっと落ち着いている者がいた。
「なあ、勇。きな臭いと思わないか?」
「思うね。ラノベによくある事件の匂いだ」
近藤勇、ジョブ【探求者】
天道海人 ジョブ【名探偵】
〇〇〇
『報告です』
「クルルシアか。結果を聞こう」
『講堂内にいた人達の中に【勇者殺し】の関係者はいなかったと思われます』
「そうか……いなかったか」
レイ・アマミヤの部屋、クルルシアがレイに告げる。
レイがクルルシアに頼んでいたのは【勇者殺し】の関係者がいないかを調べるというものだ。レイが【勇者殺し】の話を出し、その時の心理状態をクルルシアに把握して貰うというものであった。
『はい。動揺などは感じられましたがいずれも恐怖や驚きでした。犯人の心理とは違います』
「そうか、ご苦労。数百人の観察は疲れただろう。ゆっくり休むといい」
『はい。失礼します』
そう言って扉から出ていくクルルシア。レイは一人、部屋で呟く。
「生徒の中にいることは間違いないのだが……感知できなかったか」
生徒には【外部の人間かもしれない】と伝えたレイ。だが、実際は生徒の中にいる、と占った本人に言われていた。
「どうしたものか……」
その呟きを聞く者は誰もいない。
聞く者は……いない。
聞く者は。
『ふうん。そういうことね』
扉の向こうでクルルシアは一人頷いた。
〇〇〇
「王よ、どういうことか説明して頂きたい」
「説明? 何の話だね?」
「しらばっくれるな! 何故【勇者殺し】のことを彼らに黙っていた!」
「口を慎め! この方は王であるぞ」
王城の一室。王の部屋で国王とソルト達の担任教師シュークが話をしていた。
王の横に構える騎士が剣に手をかける。
「くっ、ですがなぜ! 彼らに説明をしなかったのですか!」
「そんなこと決まっておろう。話せば協力してくれないかもしれぬ。それに、今回のように彼らが動揺してもお主が調整してくれるのだろう?」
「言わせておけば……」
「口に気を付けろ!」
「まあよい。ロルフ。下がっておれ。シュークよ。では何だ? お主の弟子が見付からなくても良いのか?」
王の言葉に歯ぎしりをしながらも頭を垂れるシューク。
「わ、分かりました」
すごすごと引き下がる青年。彼が出て行った後、王と騎士は悲しげに呟くのであった。
「すまぬな。余は国王なのだ。国を守ることを第一に考えねばならぬ」
「国王様……」




