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道に咲く華  作者: おの はるか
私は約束の道を果たし往く
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脱出編 出会い

 真っ白で荘厳な部屋の中でプレアは目を覚ます。だが、人の世の者とは思えない美しさを目にしても彼女は驚く様子ではない。それどころか「ああ、ここか」とつぶやく始末であった。


「その様子だと、ここがどこか分かっているようだね」


 そこにプレアのものではない声が部屋に響く。反射的に振り向くとプレアと同じくらいの年齢の少女が、部屋の隅に置いてあった椅子の上にちょこんと座っていた。


「か、神様……お久しぶりです……」


 伏し目がちに返事をするプレア。それに対し少女のほうは明るく対応する。


「うん。久しぶりだね。七年ぶりだ。ところで私が言いたいことはわかるかな?」

「か、神様の神託を、無視したこと……ですか?」


 恐る恐る、といった感じでプレアは尋ねる。


「うん、正解だよ」

「ひっ」


 プレアの返答に満面の笑みを浮かべる少女。だが、そこから彼女が読み取れる感情は怒りだ。


「全く君という奴は。私からお願いしたとはいえ、異世界転生というのは簡単なことじゃないんだ。死なれては困るよ。それに君、前にも(・・・)こんなことしただろう。記憶固定までつけてあるんだ。何のために転生させたのか忘れたのかい?」

「…………」


 プレアはうつむき、何も答えない。しかしその様子を見て少女は話を続ける。


「覚えているようでなによりだ。まあ、そっちのほうはおいおいやってくれたらいい。だけどね君の安否が一瞬わからなったから保険をかけさせてもらったよ」

「保険?」


 さっきまで黙っていたプレアは怪訝そうに首をかしげる。


「ソルト君のことだ。彼の出自はすでに知っているだろう?」


 プレアがこくりとうなずく。


「はい。知っていますが……ま、まさか!?」

「ああ、そうだ。彼には【勇者】のジョブを与えた」

「なんで巻き込むんですか! そのジョブは、そのジョブだけは与えてはいけないでしょう! ただでさえあのことがばれたら異世界勇者に狙われるのですよ!」


 必死に食い下がるプレア。しかし少女は冷たくあしらうのみであった。


「だからだよ。彼には力をもっとつけてもらわねばならなかった。君だって今回の事件、薄々気づいているだろう?」


 その言葉に彼女はハッとする。


「では、今回の事件は……」

「ああ、またやつが動いたんだ。もっともまだ動いているのはその手足だがね。どうしてもこちらの戦力を補充しておきたかった」

「……わかりました」


 プレアはすごすごと引き下がる。少女が続ける。


「ごめんね。勝手なことをしてしまって。でも私も守らなければいけないものがあるんだ。君だってそれは同じだろう?」

「……はい」

「ではこれからも引き続き頼むね」


 そしてプレアの視界は白に染まった。


〇〇〇


「……っかり、しっかりしなさい!」


 肩を揺らされ、プレアは目を覚ます。体を起こすと知らない少女が目に涙を浮かべながらプレアを抱きかかえていた。


 年齢はプレアよりも年下だろう。恐らく四歳程度。しかしそれにも関わらず彼女ははっきりとしゃべっていた。


「気が付いた! ねえ! 私の言葉がわかる?」

「え、ええ」


 戸惑いながらもプレアは周りを確認する。首だけ回して確認するとその場所は見たこともない部屋であった。取り囲む四面のうち三面は土でできており、残るもう一面は鉄格子でできていた。


「ここは……っ痛」

「ちょっと、まだ動いちゃだめよ。まだ傷がふさがってないんだから」

「傷?……っえ?!」


 プレアが自分の体を見てみる。するとそこには無数に皮膚が裂けて出血した跡があった。よく見ると縫合の跡がちらほら見える。

 またそれだけでなく無数の針がプレアの体に刺されていた。しかし驚きはしたもののそこに痛みはない。


「針の傷はまた治してあげるから許して。あと今それを抜くとショック死するからね」

「もしかして……針治療?」

「あら、針治療を知っているの? まあ、かなり改良してあるけれど似たようなものね。麻酔の代わりよ。それより私はあなたに興味が沸いたわ」


 もともと近い場所にあった顔をさらに近づけてその少女は言うのであった。


「私はチェリシュ。日本人の異世界人。あなたはどこから来た異世界人かしら?」


〇〇〇

 

「は~~」

「どうかなさいましたか? 怠惰の使徒様」


 部屋にいるのは男が二人。一人は神父の服に身を包み、もう一人は騎士の鎧に身を包む。


「どうしたもこうしたもないね~。まさか私がついた時点で強欲が死んでいるとは思わなかった」

「確かに……自分の死でさえ無効とする魔法に弱点があったとは」

「いや。それはちょっと違うね~」


 しかし騎士の言葉を神父風の男が否定する。


「そ、それはどういうことでしょうか」

「な~に、君は間違ったことは言っていない。でもね~、弱点というよりは相性だね~。強欲の魔法はあの子の持っていた固有魔法と圧倒的に相性が悪かったね~」

「相性ですか」

「は~。なんでこんな、型に当てはめたようにはまるのかね~」

「し、しかし。他の使徒様は順調に行けたことですし」

「だがね~、これからの計画は強欲がいてほしかったんだよね~。でないと……」

「で、でないと?」

「私が働かなくてはならないだろう」

「は、はい!」


 一瞬騎士は男が見せた顔に恐怖する。

 だがそれも一瞬のことで男はすぐにいつもの調子に戻る。


「私は~、面倒なことは~、嫌いなんだよね~」

「わ、私は精一杯働かせていただきます!」


 騎士の男は内心おびえながらもこのように答えるのが精いっぱいだった。



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