求道編 もう一人の神
部屋に入った瞬間の怒りにソルトはひるむ。が、黙っているわけにもいかずに問う。
「あなたが……もう一人の神ですね」
ソルトの目の前にいるのは見る限り成人した女性。だが中味は人ではなく、間違いなく神だ。
「私の質問に答えなさい。そうすれば命までは取らないわ」
だがソルトの質問に女性は答えない。むしろソルトが相手の質問を無視したことに対して女性はさらに不機嫌を露わにする。しかし、「どういうつもり?」と聞かれても先ほどの神が返事したように何のことかわからない。
「どういうつもり……とはどのことでしょうか」
言いながらさっきの神様には同じことを聞いたな、と反省するソルト。それはそれ、これはこれと割り切って神との話し合いに臨む。
「使徒のこともそう! 魔族と人との戦争もそう。どうしてあなたはこの世界に生を受けながらこの世界のものでない命の見方をするのですか!」
「この世界のものでない……?」
思わず聞き返すソルトだったがすぐに合点がいく。
「あなたは……そうか、そういうことか。認めてないんですね……魔族の人や……転生者の人を」
「当り前でしょう!! 私の世界だったのに……私のかわいい子たちだったのに……」
突然怒鳴ったかと思えばグズグズと泣き出す女性。だが、それで胡麻化されるソルトではない。
「使徒はともかく、そう考えてるってことは異世界勇者は捨て駒ですか。彼らもこの世界で生まれた命ではない筈です」
「……ええ、そうよ! 異世界のごみを始末するなら……我が子たちを戦わせる必要なんてないですもの!」
「神ってまともなやつがいねえ……」
悪びれる様子もなく女性はわめく。流石にソルトも呆れる。
さっきの神は好き勝手に動いた結果、この神は異世界から呼ばれたものを軽視した結果。互いが互いの陣営を刺激しあい、戦いは激化していった。
「うるさいわね! あなたとだって会話するのも嫌なのよ! 神の規約さえなければ今すぐにでも消してやるわ!!」
憎悪をまき散らしながらソルトに当たり散らす神。だが怒っているのは神だけではない。
「お前こそ……お前が、お前ら神がそんなだから使徒の人たちや魔族の人たち、異世界勇者たちも含めて迷惑被ったんだろう。さっき会った神がまともに見えるくらいだぞ」
さっきの神も遊び心で面倒な事態を量産していたがソルトにとっては力を与えてくれたという恩もありそこまで怒りは感じていなかった。悪魔喰いも地球で無念のうちに死んだ命の救済とも考えられ、彼らが与えられた能力を加味すれば信用もできる。
けれどこの神に関してはソルトは怒りしかない。
「ラディンさんは……普通の子だったでしょう……。なんであなた達の喧嘩に巻き込んだんですか」
「そんなの簡単。あなたとかかわったから。使えると思ったんだけどね」
「彼女は……この世界の住人だったでしょう」
「ええ。だからあなたから守るため使徒にしたのよ」
「俺から……?」
少し予想外の解答に戸惑うソルト。だが、すぐに理解する。
「俺のせいだっていうつもりか?」
「ええもちろん、あなたは存在すら知らないかもしれませんが堅固の使徒だってあなたや異世界人とかかわったことが原因です」
「なんだって……」
「意趣返し、というのでしたっけ? 精々、私が神でなくなった後も気に病めばいいのです。あなたのせいで引き起こされた戦いも多くあったことを覚えておきなさい」
部屋の明滅が始まる。時間なのだろう。
「私も時間ですね。呼び出されているのでこれにて失礼」
「俺は……」
神に最後の言葉と自覚しながらソルトは……
「俺は改めて思う。お前たち神はいらない。俺たちは自分の足で歩いていく」
ソルトのその言葉を聞いた神。その最後の表情は笑顔であった。




