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道に咲く華  作者: おの はるか
私たちは希望の道を諦めない
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探求編 神

「これで伝えなくてはいけないものは全てですね」

「ラディンさん、ありがとう」


 すべての説明を終え、ラディンは満足げに笑う。そして唐突に土の魔法で剣を作り出す。


「あの……ラディンさん?」

「これで私の仕事はすべて終わりです。これにてお暇をもらわせていただきますね」


 そして誰かが止める間もなく作り出した剣を自分に突き刺した。


「ちょっと!? 何やってるのよ!」


 チェリシュがとっさに駆け寄るが遅かった。ラディンは剣を突き刺した瞬間それを変形し、剣を起点にいくつもの棘が飛び出しラディンの体を針山にする。


 間違いなく自殺だった。


「ラディンさん! なんで!?」

「いえ……私はもう邪魔なので……これでも私は知恵の使徒です……私がいる限り」

「喋らないで! 今急いで処置を」


 動揺するソルトたちだがそれらすべてにラディンが制止を呼び掛ける。


「使徒の力は……死ぬことでしか解放されません。私はもうその決意は固めました」

「だからって……いきなりこんな……」


 吐血しながら言葉を紡いでいくラディン。状況はソルトがついていく前に悪化していく。


「わたしはこれで……さよならです。ではみなさん……ご武運を……」


〇〇〇


 ラディンに処置をほどこしていたチェリシュがその手を止め、ソルトのところにやってきた。


「ごめんなさい……無理だったわ……。体の外に出てる棘以外にも彼女の体はめちゃくちゃになってて」

「チェリシュさんが謝ることじゃありません……。彼女のことまで気にかけていなかった俺のせいです……」


 事の次第を伝え、チェリシュはうなだれるソルトの隣に腰を下ろす。


「ソルト君、あなたが病む必要はないわ。遅かれ早かれ彼女は自死を選んでいたわ」

「そんなこと言っても……」


 やはり納得のいかないソルト。


「ソルト君、今の気持ちは全部、これから会う神様にでも全部ぶつけなさい。そのために神様に会うんじゃないの?」


 そして指さすのは先ほどまで戦場だった駐屯地。その中心。そこにあるのは……


「空へのびる……階段……」

「神様のところに通じてるのかしらね……」


 大きな魔方陣が描かれており、その中央から空へ延びるのは螺旋階段。


「あれが出てきたってことは」

「私たち悪魔喰いの神届物のすべてが消去されたのでしょう。異世界勇者の方々の神届物はシャルさんに向かってもらっているしね」


 現在、生き残っている異世界勇者は残り四人。いずれも魔王軍の地下牢に捕らえられているため場所の把握は容易だ。そのため機動性に富むシャルが向かったのだ。


 また、他の悪魔喰いも面々もアクアの神届物を解除するべく彼女を探しに行ったため残っているのは疲労で動けないチェリシュだけ。よってこの場で見送るのもチェリシュだけ。


「そうですか……」


 ソルトが腰を上げる。向かうは当然螺旋階段。


「気を付けてね。相手は神よ」

「分かってますよ……嫌なくらいにね……」


 そして少年は階段を上り始めた。


〇〇〇



 上る。昇る。登る。


 螺旋の階段をソルトは少しずつ登っていく。


 すでに地上は見えない。会談に足をかけた瞬間に外は見えなくなったためだ。


 故に、ソルトは今自分がどのくらいの高度にいるのか、そしてそもそも、現実世界にいるのかどうかすらわからない。


 気温の低下も感じず、呼吸の苦しさも感じない。そんな中、ソルトはひたすらに上り続けた。


 そして、唐突に変化は訪れる。


「なんだ……?」


 唐突に、階段が途切れた。そして代わりに、目の前には一本の道が伸び、しばらく進んだところで左右に分かれている。

 他には特に外見的な特徴は見当たらない。上下左右見渡す限り階段と同じ色で光っている。そして目の前の道も。


 どちらに向かうか一瞬迷ったソルトだがまずは右に向かうことにしたソルト。特に理由はない。


 一本道を進むと今度は扉が現れる。今度は迷うことなくその扉を開く。


「やあやあ。久しぶりだね。覚えているかな?」


 中にいたのはソルトに勇者の力を授けた神であった。すなわち魔族たちの神。


〇〇〇


「今はっきりと思い出しました。俺に【勇者】を与えた神ですね」

「その通りだよ。どうだい? 使い心地は」


 外見は完全に幼女。しかし、その正体は十人もの人間を地球から転生させ自らの駒とした神である。ソルトは警戒を高める。


「ええ。この力のせいで困ったこともありましたが、助かったことたくさんありました。ありがとうございます」

「うんうん、お礼を聞けるのは良いねぇ。で、その力をたどってここまで来たみたいだけれど、何が目的なのかな? 私、これでも少々怒ってるんだよ。私の駒を全部消してくれちゃってさ」


 幼女が怒気を発すると同時にソルトの入ってきた扉が閉まる。だが慌てることなくソルトは神に近づいていく。


「話があったのできました」

「話……ね。言ってみていいよ?」

「あなたの……目的は何だったんですか」


 そしてソルトは一番聞きたかった話を切り出した。


「目的? なんのこと?」

「異世界から人を転生させたり、魔族を作って人を脅かしたり……。なんでそんなことをしたのか聞かせてください」

「ふーん……それね」


 そして考えるようなしぐさをしながら神は空中にぷかぷか浮かぶ。


「そうだねぇ。やっぱりこの世界がつまらないからかな。そこにスパイスを加えるために僕は動いたんだ」

「つまらない?」

「ああそうさ。つまらない。もう君は知ってるだろうけれどこの世界には私と、もう一人神様がいてね。私が後から生まれた神なんだ。それでね、生まれた瞬間に絶望したよ。ああ、ここはなんてつまらない世界なんだろうかってね。やってることは兄の世界の模倣だった。そこから独自に発展するならよかったんだけどね。そんなことはなかった。だから私が崩したのさ」

「そうですか……」


 理解できるような、理解できないような、そんな神の言葉。


「聞きたいことは終わり? 私は君たちのせいで審判に行かなきゃいけないんだけど。神様首になっちゃったんだけど」

「あ、聞きたいことはこれだけですけど。言いたいことが一つ」

「なにかな」

「俺になんでこの力をくれたのか今でもあんまりわかってませんけど……それでもこの【勇者】の力でたくさんの人を助けれたと思います」

「うん、それは良かった。私がこの世界から消えても存分に使ってね」


 だが、その言葉にソルトは「はい」と返さない。


「いえ、この力は返します。俺は確かに……みんなを守れる英雄や勇者になりたかった。けどこんな称号が欲しいわけじゃないんです。この力をもらったままだと……本当の英雄とかにはなれない気がして……」


 少し言葉に迷いながらソルトは神に自分の考えを述べる。すなわち、自分の【勇者】の力を捨てると。


「いいの? もう君が神に会える保証はないよ?」

「それでもです。誰かの力で英雄になりたいわけじゃありません。というかそもそも俺は英雄じゃなくてもいいんです。周りの皆を守れればよかった」


 ソルトははっきりと伝える。その主張は曲がることはなさそうだと判断した神。


「わかった。返してもらうよ」


 その言葉と同時に、ソルトに、中から何かが抜け落ちる感触が襲う。それが勇者としての力だと理解するのに時間はかからなかった。


「それじゃあ、お達者で。いい人生を」


 神がそれだけ言うと空間は闇に染まった。



〇〇〇


 覚えていた扉の位置からソルトは再び光の廊下へと戻る。そして今度向かうは反対側。ソルトはまだあったことがない神だ。


 緊張を覚えながらソルトは歩いていく。


 特に代わり映えしない周りの光景を見に収めながら歩くとすぐに目的の位置までたどり着く。


 先ほどと同じような扉が目の前に存在していた。迷うことなくそれを開く。


「あなたがソルト……。一体どういうつもりなの?」


 部屋に入った瞬間にソルトに跳んできたのは不機嫌な女性の声だった。

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