求道編 封印
「こ、これは……なんで……聖剣が二つも……」
胸から生えた聖剣に練っていた魔法の調整も忘れる悪魔。いや、それどころか体中からどんどん魔力が抜け落ちていく。
宙に浮く能力も消え、じわじわと高度を落とす悪魔。刺された部位を中心に悪魔に置き換わっていたナイルの体が元に戻っていく。
「私の神届物の再現対象は見たことのある武器よ。聖剣は今まで何度か見たわ。十分私の能力の使用範囲内ね」
「なんだ……と……」
理解できない、という風な悪魔。だが、はっとした顔になり信じられないといった顔をする。
「まさか、散々ナイルの野郎が聖剣を手元に置きたがってた理由は」
「私が聖剣を作れるようにするためじゃないかしら?」
容赦なく半透明の聖剣を引き抜きながらチェリシュは答えた。同時に知恵の使徒ラディンも近づいてくる。
「では分離封印を開始します。もう神届物は必要ありません」
ラディンが魔法陣を展開する。悪魔を囲むように展開されるその数は六つ。
チェリシュが神届物を消すと同時に魔法陣は動き出す。
「くそが! 俺様をまた封印するつもりなのか! やめろ! やめろおおお」
悪魔が抵抗するが、その動きはソルトや他の悪魔喰いが封じる。悪魔に何かをやらせる隙は与えない。
そしてその間にも知恵の使徒の魔法が、否、神届物は完成する。
「神届物【我、知恵の道を暴きださん】。耐神封印術式・魂離別葬」
魔法陣はその数を増し、それぞれが光りだす。ただでさえチェリシュの神届物で消滅し始めていた悪魔の部位が急速に消えていく。
「俺様が! この……俺様がこんな策で……」
こうして、神に作られた神を殺す悪魔は封印されたのであった。
〇〇〇
「こんどこそ……全部終わりか」
ソルトが呟く。彼らの前には気を失い倒れているナイルの姿があった。すでに悪魔の気配はない。
「はい、転生者に力を貸していた神は神届物の付与、そして悪魔の能力付与によって。人側の神は使徒を介して力を与えていました。三つの要素のうち、今この世界に影響を及ぼしているのは転生者の方々の神届物と最後の使徒であるこの私です。悪魔の力は徐々に薄れていくことでしょう。よってソルトさんの目的、神の除去を行うのでしたらそれらすべてをなくせば可能です」
「それじゃあ、チェリシュさん側の神の力を削ぐには……」
「神届物の消去を行えば」
「勝手に話を進めないでくれると助かるのだけれど」
ソルトとラディンが話しているとマドルガータが割り込む。
「マドルガータさん、俺は神はいらないと思ってます。だからこの世界から神を……」
「別に否定はしていません。私たちにも神にはさんざん迷惑をかけられました。しかし、私たちの神届物を消去するなら私たちと話してくれないかしら」
「……そうですね。では改めて。悪魔喰いの皆さん、この世界から神を消すために、協力してください」
ソルトのお願いに悪魔喰いたちはうなずくのであった。
「それでは神届物の解除方法を皆さんにお伝えします」
「頼むわ」
「はい、といってもすぐに終わりますが」
言いながらさらさらと地面に魔方陣を描いていくラディン。説明も交えながら簡潔に自身の知る情報を伝えていく。
その様子をソルトは横で見ながら自身の【勇者】の能力について考えていた。記憶が定かではないが本能的にあれは神から授かったものだと考えている。
「ソーちゃん、どうしたの?」
「お姉ちゃん……。神届物の処理は終わったのか?」
「ええ。説明は聴き終えたわ。あとは魔法陣の効果が表れるのを待つだけね」
言いながら前進のあちらこちらに浮かぶ魔法陣をソルトに見せるプレア。そして話を戻す。
「それでソーちゃん。何を考えていたの?」
「俺の【勇者】の力についてね……。あれも多分……」
「そうだね。神様がくれたんだろうね」
ソルトの懸念にプレアは同意する。
「ああいうジョブって神様が私たちにくれるもんだからね。って言ってもさっき知恵の使徒の……ラディンちゃんだっけ。彼女の口から神の要素として出てこなかったってことはほとんど影響がないんだと思うよ」
「そうか……そうだよな……」
「それがどうかしたの?」
「それをどうにかして利用したら神様に会えるかなって」
「可能です」
ラディンが他の悪魔喰いへの説明を終え、ソルトたちのもとへやってくる。
「ラディンさん……」
「それをお望みですか? それならば今のうちにその方法を教えておきたいのですが」
「はい。知りたいです」
「先ほどの悪魔がすでに神と対峙する仕組みを作動させています。この場で死んだ霊魂を贄にする方法です。それとソルトさんの持つ力を合わせれば神に会うことはできます」
そしてソルトが神に出会うための詳しい説明が始まるのであった。




