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道に咲く華  作者: おの はるか
私たちは希望の道を諦めない
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探求編 集合

「知恵の使徒ラディン。ただいま参りました」


 名乗りを上げたのはソルトの味方をしていた唯一の使徒、ラディン。ソルトは現在妹たちとともに彼女もまた戦場を離れているものと考えていたがそうではなかったらしい。


「ど、どうやって……」

「ソルト君の結界でしたら少々いじらせてもらいました。知恵の使徒の力を使えば大抵の結界は破れるんです。それに今回は一人じゃないですし」


 ソルトの疑問に答えようとするラディンだったが悪魔はそれを待ったりしない。


「のこのこ現れるなんていい度胸だぜ。ぎゃっはっはっはっはっは! お前も俺に狙われてるってこと忘れてねえかなぁ! 使徒様よぁ!」

「っ! ラディンさん! 危ない!」


 悪魔の狙いは自分の能力を取り戻すこと。そして残りの使徒すなわち知恵の使徒ラディンを殺害すること。故にこの場に彼女が来たことはソルトにとって好ましくない。


 悪魔がテイルの足の能力に匹敵する速度で知恵の使徒に近づいていく。ソルトの知る限り、ラディンは戦闘系の能力はもっていない。通常の状態のナイルと戦った時も彼女に負けたと聞いている。


 にもかかわらず、悪魔の攻撃が少女に届くことはなかった。ソルトよりも先に彼女を守る者がいたからだ。


「神届物【皆殺の断頭台】」

「闇魔法・黒繭」


 悪魔の前方に科\半透明なギロチンの刃が降り注ぐ。悪魔がやむなく回避するために速度を落とすと今度はそこを狙って黒い靄に包まれる。


「こ、これは……」


 その神届物を、その魔法を、ソルトはもちろん知っている。


「ラディンさん、いきなり前に出ないでくれるかしら……」

「シャルちゃん、大丈夫よ、貴方の防御魔法があれば死にはしないわ。私もいるしね」


 この場所から撤退したはずのシャルとチェリシュであった。


「シャル……お前もう動いていいのか」

「大丈夫よ。安心して頂戴」


 明らかに無理をしている声音。流石についさっきまで危篤であった彼女がここに戻ってくるとは思っておらずソルトは思わず聞いてしまう。ちなみに今悪魔はチェリシュの神届物に追い回されている。

 そしてシャルが返事をしたのだが横にいたチェリシュに横やりを入れられる。


「そんなわけないでしょう。吸血鬼だってことを考えても無茶しすぎよ」

「それならどうしてここに……」

「私がお二人を必要と判断したからです」


 毅然と、知恵の使徒ラディンが答える。そしてそれを合図にシャルは空間魔法で収納していたあるものを取り出す。


「これは……」

「はい、勇者たちの力を集めて作り上げられた聖剣です。悪魔はこれで倒せます」


〇〇〇


(へっ、わざわざ作戦会議を聞かせてくれるとは良いやつだな。ぎゃははははは)


 上空でチェリシュの神届物や人形の追撃、さらには言霊を回避しながら悪魔は冷静に考えていた。


 正直に言って、セーラによる魔力の飽和攻撃以外で悪魔が危険を感じる魔法や神届物は存在しなかった。今逃げているのだって傷の治癒に努めるためという理由こそあれど、避けている攻撃を食らっても別に大したダメージにはならないとすら思っている。

 さらに、ソルトたちに敵意を覚えたのは本当にあの一瞬だけだった。時が流れ、悪魔が優位になればなるほど彼は余裕を取り戻し、今は最初と同じく、路傍の石を眺めているような状態になっている。


(だが……確かに魔王を完全に封印してしまうような武器なら俺様も封印されかねない。それは認めてやろう)


 ぎゃははは、と笑いながら空中で方向転換。ただ相手の攻撃を避けただけではない。その行先は聖剣を持つシャルだ。


「【腕】解放。つぶれて死んどけえええええ」


 繰り出される双打。両腕から引き起こされた二つの衝撃がシャルたちに襲い掛かる。


「風魔法【霧斬り】!」

「神届物・皆殺の弓」


 しかし、その衝撃はソルトが剣で相殺し、一方でチェリシュはカウンターとばかりに攻撃を叩き込む。


「シャルさん! よろしくお願いします!」

「わかってる!」


 ラディンの合図とともに、シャルは蝙蝠の羽を広げて飛び立つ。手に持つ聖剣で悪魔を倒すために。


「ふん! その程度の速さで俺についてこれるわけ……!?」


 当然悪魔も羽を広げて逃げようとする。が、その時になって彼はようやく気付いた。


「右の羽貰いました」

「左は僕がもらったよ」


 聖剣に対して攻撃の意識を割いたその一瞬を突いて、マドルガータの操る人形たちが右羽を、テイルの持つ槍が左羽をそれぞれ使用不可能な状態に陥れていた。


「く、くっそおおおおお、というとでも思ったか!! 魔力だけでも吸血鬼程度の飛行速度に負けるはずが」

「分かってる。だから投げる」


 魔力を使って浮遊を試み始めた悪魔。だがその視界に移るのは自分よりも遅い飛行をするシャルではなく、シャルの、その人外な力で放たれた聖剣の投擲だ。


 それはまっすぐ狙い通りに、悪魔の体を



「そんなものあたりませ~ん! 【口】解放!」


 貫かなかった。剣と体が接触する寸前で、悪魔の能力は発動された。空間そのものを削り取る【悪魔の口】。


 当然聖剣周囲の空間はごっそりと削られる。当然聖剣も。


 異世界勇者の力を吸収したと言っているので丈夫であるのだろう。本来ならば存在そのものが消去され、すべてを無に帰す【悪魔の口】。だが、聖剣に込められたのは神届物。悪魔であろうとそうやすやすとは壊せない代物だ。

 結果、投擲の運動エネルギーのみが消去された。


 地面に落下していく聖剣。悪魔はあれを奪い、破壊さえしてしまえば勝てると考えているので当然追いかけに行く。


「もう流石に手はねえよなああ!」

「対象悪魔! 命令!」

「く……間に合わないか!?」


 マドルガータもテイルも悪魔の羽。プレアの詠唱も間に合いそうにない。よって聖剣破壊へと動く悪魔を止めるには人が足りない。ソルトやシャルも行こうとしたが悪魔の方が断然早い。


「ぎゃははははっはははは! せっかくの聖剣も無駄に終わっちまったな! これで俺様の勝ちだぁ!」


 聖剣を破壊する大魔術を空中に展開。五属性すべてを持ち出し、全力で行動する。なにせ、これさえ壊せればあとは自分の手で行える虐殺が待っている。


「神罰五大魔法ーー」


「神届物皆殺武器・聖剣」


 だが、悪魔の魔法が完成するその刹那、半透明の聖剣が悪魔の体を貫いた。

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