探求編 悪魔喰い集結
「いくぜ~? お二人さん。楽しませてくれよ~。ぎゃははははは【羽】」
悪魔がソルトと、そしてマドルガータの視界から一歩で消える。
空間移動、とソルトが判断するときにはもう上空から影が落ちてくる。とっさにシャルを抱えて飛びのくソルト。見るとさっきまでナイルの背中になかった羽が生えている。蝙蝠のような、一対の羽が。
「ひゅ~! いい判断だぜ! なら次はこれだぁ! 【腕】」
地面に着地した悪魔は両腕をそれぞれソルトとマドルガータの方へと向ける。するとナイルの細い腕に魔力がまとわりついていき、それがやがて巨大な腕の形をなって表れる。
「なんだよ! それ」
シャルを肩に担いだままソルトはいったん距離をとる。さっきまで感じていた悪意は今はわからない。ゆえに相手の出方もわからない。それにソルトは悪魔の能力をすべて知っているわけでもない。
「ソルト君! 腕の延長にいてはいけません!」
悪魔が攻撃に移る一瞬前に、マドルガータからの助言が入る。返事をする余裕もなくそれに従うソルトだったが、動いた直後悪魔が太くなった腕で構え、
「こうするんだよ! ぎゃははは」
一気に縮めていた腕を伸ばし魔力を爆散させる。一回空気を殴るごとにそれが砲弾となってソルトたちを襲っていく。
「く……近づけない……」
「だからと言って隠れても意味はありません! やつの【耳】は心臓の音すら聞き分けます!」
「ぎゃははっはは! その通り! 逃げても無駄だぜ! さあさあ!! たち向かってこい!」
雄たけびのように叫び、自分の位置を知らせ続ける悪魔。だが、ソルトが近づこうにも常に攻撃が飛んできてなかなか厳しい。
「なら行くぜ」
「ぎゃははは……ん? んん?!」
ソルトでもマドルガータでもない声が響く。
ソルトが見たのは一つの光の軌跡だった。いや、それしか見えなかったというべきか。
「【悪魔喰い】テイル・ゲスト。参戦するぜ」
【悪魔喰い】の一人。悪魔の脚をもつ少年が槍を手に突撃する。
もちろん、悪魔の【耳】があれば不意打ちをすることは通常困難。だが、音よりも早く動けたのならそれも可能だ。そしてその動きを可能にする【足】を彼は悪魔から得ている。
「お前は……!! ぎゃはははは。いいぜ。まとめて相手して」
「テイルだけじゃないわよ!」
直後、視界に雨のごとく降り注ぐのは数多の光弾。
「ぐがっ! これは……俺様の魔力じゃねえぁか!」
「セーラ・ウミルタちゃん! ここにけんざ~ん!」
視界全てを覆うほどの光弾。それは【悪魔喰い】の一人、セーラ・ウミルタのもの。魔力を塊としてただひたすら打ち込む。
「ふん! 狙撃なんて高速で動く俺様に聞く筈がねえだろうが!」
「神届物【君は私から逃げられないだろう】」
出し惜しみはしない。悪魔が空間を転移した瞬間セーラは【神届物】を発動する。能力は【絶対追尾】。似たような神届物を異世界勇者の一人が使っていたのをソルトは思い出したが規模が違った。
「だああああ! めんどくせえからやらなかったがやってやろうじゃねえか! 魔力よ! わが手にもどれぇ!!」
着弾した魔力の光弾が形を保たずに悪魔の、ナイルの体内に吸収されていく。
「はっはぁ! 馬鹿め。お前魔力はもともと俺の【魔力】! 体内の魔力には干渉できずとも! お前の手から離れた魔力は回収できるんだよ!」
だが、その間。悪魔の動きは阻害されている。
「奥義【骨断】」
「んな、俺の【羽】を!?」
上空から降り注ぐ魔力に対応する悪魔。その隙をソルトは容赦なく突く。
ナイルの体は傷つけないように、背中に生える羽だけを切断する。ぐらつく悪魔に悪魔喰いたちの追撃が続く。
「ぐおおおおお、だが、羽が無くても俺は飛べる! あんまり舐めるんじゃ」
「対象【悪魔】命令【落ちろ】」
また別の少女の声が響く。とたんに悪魔は高度が保てなくなり地面に墜落する。
「待たせたね。ソーちゃん」
「お、お姉ちゃん……」
地面に着地したソルトは声が聞こえたほうを振り返る。そこにいたのは姉、プレア・ダンスであった。
「やっぱりというか、なんというか。ナイルちゃんが悪魔に乗っ取られてるらしいね。というわけで悪魔喰い最終作戦【悪魔討伐】開始! ソーちゃんも頼んだよ!」
「きゅ、急だな!!」




