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道に咲く華  作者: おの はるか
私たちは希望の道を諦めない
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探道編 やるべきこと

「な、なにを言って……」

「チェリシュさん、人を殺して辛いですか?」


 その再びの問いかけにチェリシュは黙り込む。


「俺が知ってる限りあなたが人を殺したのはこれが初めてじゃないんですか」

「それが今何の関係があ」

「良いから答えてください」


 今この瞬間に、チェリシュが反撃することもできたはず、とソルトは考えていた。しかし実際には口をつぐんだだけで特に反撃らしいことは行わなかった。


 ゆえに結論を下す。彼女は操られているわけではない。ただ、死にたかったのだと。そして殺してくれる妥当な相手としてソルトを選んだだけである、と。


「嫌に……辛いに決まってるでしょう……」


 そして問い詰められ、少女は涙を流す。同時に発するのは怒気。


「誰が好き好んで人を殺すもんか! 私は……私は救わないといけない側なのに!」


 また新たに神届物を発動し機関銃を召喚。ソルトへ照準を定める。マドルガータがソルトを助けようとするが彼は手で制止の合図を送り一人でチェリシュのもとへと向かう。


 半島英の弾丸は当たらない。


「だから死にたいんですか?」

「そうよ。分かってるならはやく殺して……」


 泣きながら半透明の機関銃を振り回し、連射を続けるチェリシュ。しかしやはり弾丸は当たらない。無意識なのか、それともわざと外しているのア、ソルトには判別がつかない。だが、彼女に戦闘を継続する力が残っていないことは明らかだった。


「このっ」

「もうやめましょう」


 ソルトはため息をつきながら余裕の動きでチェリシュに近づいていく。銃が効かないと判断し、半透明の槍に持ち変えたチェリシュだがたちまち拘束されてしまう。

 だが、ソルトが攻撃することはない。拘束しただけだ。


「どういうつもり……?!」

「落ち着きましたか?」


 チェリシュの頭に手で触れ優しくなでる。


「お、落ち着けるわけ……」

「俺は人の価値観はあんまりわかりません。人を殺したのだって小さい時でしたからそれが俺にとっての当り前になりました」


 ソルトの言葉に、思わずチェリシュは黙る。以前、プレアからも聞いたことがあるソルトたち姉弟の話。


「プレアから……聞いたわ……家が襲われたのよね」


 ソルトの幼少期、プレアとともに住んでいたところ家が襲撃された話だ。そのときにソルトは三人の騎士を姉と協力して殺した。

 故にソルトの心に殺人に対する抵抗は一切ない。孤児院に引き取られたために人と接する機会がなかっただけでもし幼いころから冒険者のような仕事をしていれば間違いなく殺人を犯していたであろう。


「はい。ですのでチェリシュさんがどんな倫理を持ってて、殺人に対してどんなつらい思いをしているのかもわかりません。正直さっき正義の使徒と戦っているときもなんで殺人が悪なのかよくわかってません。きちんと理由があればいいじゃないですか」

「あ、あなたねぇ……」


 落ち着いてきたのか、今度は呆れたような声を出すチェリシュ。ソルトは続ける。


「し、仕方ないじゃないですか。それが普通だったんですよ」


 周りと価値観が違うことを気にしたのか、ソルトは気まずそうにする。


「それでですね。思ったんですよ。チェリシュさん、悩みすぎです。前世で大人だったのかもしれませんが今はまだ俺より年下なんですよ。そりゃ俺だって無暗な殺傷はダメだと思ってます。お姉ちゃんたちがこうやって戦争引き起こしたのも少し納得はしてません。もっといい方法があったんじゃないかって今でも思ってます」


「な、なかなかはっきり言うわね……」


「当り前です。散々俺は止めました。でもあなた達は実行した。俺にはわからない事情や知らない事情も考えてのことだったと思います。その過程でたくさんの人を苦しめたり助けたりしながらあなた達は頑張ってきたんだと思います。でも……チェリシュさん。あなたはもう休んだ方がいい。あなたは頑張りすぎです。前世は前世、今は今です。俺の弟妹なんてチェリシュさんと同じくらいですけど人間として強い子はいませんよ。みんなふらふらしてます」


 ゆっくり、のんびりと聞かせていくソルト。チェリシュはもう何も言わずに聞いている。ソルトは考えていた。なぜ他の悪魔喰いの団員はみな、自分では言わずにわざわざソルトに頼んできたのか。

 別にソルトは人の心に詳しいわけではない。むしろ疎い。助けを求める声と、悪意だけは感知できるがそれ以外はむしろわからない。

 だがそれでも、悪魔喰いはソルトに頼んできた。クルルシアでもなく、ソルトに。


 その理由は頼まれた当初は彼にもわからなかった。しかし、今目の前の少女を見れば簡単なことだった。


 彼女はまだ子供だった。ソルトよりもずっと。


 しかし転生者である。記憶などの認識がどうなっているか、ソルトにはわからない。が、他の悪魔喰いが何も言えなかったのは前世の年代などを気にしてしまうがゆえに言い出せないのではないかと彼は考えた。


 故に、彼が言うべきことは一つ。


「悪いことしたら反省したらいいんです。そして反省したら自分にできることをやるだけです。俺も子供です。けどあなたもまだ子供なんです。前世の記憶もあるかもしれませんがそれはあなたであってチェリシュさんじゃない」

「でも……そんなこと言ってられない……。ヴァンやミネルヴァ、それにサクラスも死んじゃった。私が助けなきゃいけなかったのに」

「でもそれはあなたが死にたい理由であって、死ななきゃいけない理由でも死ぬべき理由でもありません」

「……」


 言ってからソルトは攻撃の意思がないことを確認し言葉をつづる。。


「チェリシュさん、あなたにシャルを診てもらいたい。そのために来ました」

「でも……それでも私は……戻るなんて……」


 震える手を見つめながらチェリシュは動こうとしない。しかしソルトの役割は終わりだ。


「いい加減にしてください」


 声をかけてきたのはマドルガータ。そして彼女の横には人形たちに抱えられたチェリシュ。


「マドル……」

「ナイルがなぜあなたの武器の改変を望んだのかはわかりません。今となっては貴方の怒りを鎮めるためだったのだと思ってはいます。けれど実際あなたの神届物ならば以前のものでもこの場所を殺さずに無力化できたでしょう?」

「そう……ね。でもあのときは殺したくて殺したくてたまらなかった」

「気持ちはわかります。でもやっぱりあなたの本領はそこじゃない」


 気を失っているシャルが人形によってチェリシュの前に運ばれる。


「……」

「あなたができることをやってあげて。この子は貴方じゃないと治せない」


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