探道編 神届物
「というわけでマドルガータさん」
「その可能性……確かに十分あり得ますね。それとソルト君、そろそろ来ますよ」
「わかってます」
ソルトとマドルガータがチェリシュがいたはずの場所へ向かう。その最中マドルガータは警戒を呼び掛ける。
その刹那、ソルトの勘が危険を告げる。
「マドルガータさん!!」
「?!」
とっさに隣を走っていたマドルガータを突き飛ばす。同時に彼は半透明の何かが横切るのが見えた。
「あなた達から来てくれたのね」
その何かが飛んできた方向から聞こえてくるのは二人が探していた少女チェリシュのもの。手には何も持っていない。
「チェリシュ……」
「チェリシュさん、頼みを……」
言いかけたソルトの口が止まる。その目はチェリシュの表情にじっと縫い留められる。
ソルトにとってあまり見たことがない表情であった。
「なに? ソルト君。私の顔に何かついてるかしら?」
チェリシュが面白がるように語り掛けてくるがその表情は全く笑っていない。
不気味なものを感じるソルトたち。マドルガータは新たに人形を召喚し事態に備える。ソルトもまた剣を構えてチェリシュに対峙する。
「いやね、私は今丸腰よ? そんな相手に剣を向けるなんていいのかしら?」
「ならはやく神届物を発動すればいい。あなたならすぐに作れるはずだ」
たった数秒の詠唱。ソルトが距離を詰める前には終えることができるだろう。
「そうなんだけどねぇ。もう召喚してるから」
瞬間、ソルトは首筋に悪意を感じる。とっさにしゃがむと上空を半透明のなにかが通過する。
「なんだあれ……」
見たこともない武器がチェリシュの手に戻っていく。
「ブーメランですね」
「そうよ。皆殺のね」
そしてそれはチェリシュはもちろんマドルガータも知っているものであった。への字の形をした空飛ぶ投擲武器。
「殺傷用のだったらほんとは返ってこないらしいんだけどね。今回は返ってきた方が面白そうだったから」
ふふふ、と妖艶に、年不相応に笑うチェリシュ。それに不気味なものを感じながら剣を構え直し警戒する。
「でもだめね。この程度じゃソルト君は躱せるのね」
残念そうなチェリシュ。そこにマドルガータの操る人形が躍りかかる。
「あなたの人形も苦手ね。私の神届物が効かないじゃない」
「だからこそですよ」
四方から四体の人形が襲い掛かる。が、チェリシュは苦も無くその包囲を抜けてしまう。
「逃がしません!」
ソルトでは目で追い切れぬ速度で指を動かし人形による追尾、および魔法攻撃を開始する。
土魔法に風魔法。炎に水。そして雷がチェリシュに向かって降り注ぐ。
しかしそれがチェリシュに当たることはない。いずれも余裕をもって避けられる。
「マドル、あなたの攻撃を一番見ていたのは私よ? あなたの人形の動きはすべてお見通し」
そう言って魔法の数々を躱しながらチェリシュは構えた。
「神届物【幽霊武器・皆殺の弓】」
その狙いは寸分たがわずマドルガータを狙っており、
「させない!!」
ソルトが切りかかることで阻止されなければマドルガータの頭を撃ち抜いていただろう。
ソルトの切りかかりに気付いたチェリシュは狙いをソルトへと変える。そして発射。矢はまっすぐにソルトに向かって飛んでいく。当たれば受け止めることはできずにすべてを貫通する矢。躱すしかない。
風魔法で自身の位置をずらして一射目を躱すソルト。しかし続けざまに二射。三射と打ち込まれる。
「チェリシュさん! まだ話し合うつもりはありませんか!」
「ないわね。とっとと殺しあいましょう?」
チェリシュが武器を機関銃に持ち変える。悪意を感知することでなんとかその狙いを把握し、ソルトはひたすら回避に専念する。
「チェリシュさん!」
「うるさいわね。いい加減しつこいわよ」
銃を両手に構え、さらに半透明の弾丸の密度は増していく。マドルガータも人形で攻撃を仕掛けるがすべて読まれているのかなかなかチェリシュの行動の邪魔をすることができない。
しかしマドルガータとソルトの中に倒せないことに対する焦りはなくむしろあることをどんどん確信していく。
「チェリシュさん。あなたは」
「……黙りなさい!」
「俺たちに……ただ殺して欲しいだけですよね?」




