表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
道に咲く華  作者: おの はるか
私たちは希望の道を諦めない
163/174

使徒終結編 真の狂獣

「がっぁあああああああああああああああ」

「く……見えない!」


 猫又として持つ二本の尾。そのそれぞれに剣を携え四刀をもって、正義の使徒に切りかかる。


 尾を使っての攻撃は多岐にわたり、頭上から切りかかるのはもちろん、地面の下をくぐらせて下から刺突で襲いかかることすらアクアには可能だ。


 それだけでも厄介なのに、今の彼女は狂獣化によってそのすべての速度が上増しされている。それゆえに、剣劇の一つ一つが銀奈に手傷を負わせていく。


「し、かし! その強化は私と違い一時的なもの! ここさえしのぎ切れば」

『そんなことさせるわけないよね』


 当然、クルルシアも黙って見ているはずがない。アクアに気を取られていた銀奈の背後から接近戦を仕掛ける。


「とった」


 アクアの短い一言。同時にほとばしる血飛沫。


「く……貴様ら! 許さない! 許されないものと知れ!」


 切られたのは銀奈の左腕。流石に表面を治せばよかった火傷やつなぎ合わせたら大丈夫であった切り傷とは違い部位欠損は使徒であっても治癒に時間がかかる。


『敵なんだから許すも何もないよ。私はあなた達を許さないからこれでお互い様だしね』


 そしてその隙にクルルシアも致命傷を与えるべく動くがこれは躱され、腹部に浅い傷を負わせるのみとなる。


「ぐぅう……悪は……なんでお前ら悪は……いつもいつもいつも! 私の前に立っているんだ!」

「悪なぞ自分が勝手に言っているだけだろうに」

『そうそう、私たちからしたらあなたこそ悪なんだから』


 そう言いつつも攻撃の手は休めない。アクアの狂獣化が切れればあとは必然的にクルルシアのみ。銀奈の時間稼ぎに付き合うつもりは二人にはない。


「神届物! 【我! 正義の道を執行す!】」

「神届技【疾風怒濤(シュトルム・ウント・ドラング)】!」


 強化には強化で対抗していくアクア。クルルシアは辛うじて二人の心を読み続け、ついていく。


 ぶち、ぶち、とアクアの体から嫌な音が聞こえるも痛みで止まるようなことはない。しかし確実に制限時間が迫っていることは確かだ。


 もう一本、四肢のうちどれかをとっておきたいアクア。逆に銀奈は残りの四肢だけでも残しておかないと残るクルルシアとの戦いが厳しいものとなる。


 今の段階でクルルシアを倒したくもあるが、それはアクアが許さない。銀奈の攻撃目標が防御からクルルシアに向いた瞬間、アクアは四肢どころか命を一瞬でとってしまうだろう。


 ガキン、と剣どうしがぶつかり強制的に銀奈とアクアの距離が開く。すでに銀奈も、アクアもともにズタボロである。


「遠山流秘で」

『させるかぁ!』


 使徒の力を持って、あの埒外な技の数々を披露されれば確実にアクアの時間を浪費してしまう。それを考えクルルシアは無理やりにその体もって銀奈の技を止める。すなわち殺されに行く。


「ちっ! ですがいいでしょう! お望みならば殺します。殺し続けます!」


 アクアが離れた今を好機と判断し、単独で突っ込んできたクルルシアの絶命を優先するアクア。反射的に手刀を振り下ろしクルルシアの体を肩から腹部にかけて切断する。今の銀奈にはこれほどの力があるのだ。




 そして、そのクルルシアの体を貫通して、刀が二本投擲された。




 一本はクルルシアを丸ごと貫通し、銀奈の腕を。二本目はクルルシアの切断された傷の隙間から通って銀奈の腹部をそれぞれ貫通する。腕は当然もげ、腹部もクルルシアにやられたときと同じように穴が開く。


 クルルシアから聞いた蘇生回数を知っていたとしてもここまで冷酷に判断できるのは、そして実行できるのは悪魔喰いの中でもアクアだけだろう。


「があ……ああぁああああ」


 しかし、腹部の穴は瞬時に回復が始まる。もげた腕も止血は一瞬で終了し、残った足で銀奈はクルルシアを蹴とばして視界を取り戻す。

 彼女が見たのは両手に持っていた剣を投擲し、そして力尽きたように倒れていく満足げなアクアの姿だった。


「悪ばあああああゆるざでない!」


 呂律すらもう怪しくなっていてはいるが、それでも正義の使徒としての意地なのか。最後とも思える雄たけびを上げるとアクアに対してではなく、先ほど視界を確保するために蹴とばしたクルルシアに止めを刺そうとする銀奈。


 自分の体を剣が貫通しても冷静にクルルシアの治癒を観察していた彼女はその速度をもって復活できるのはあと一回と判断しほっといても倒れるアクアを放置してクルルシアを今度こそ本当に絶命させるべく動いたのだ。


 アクアの攻撃を警戒しなくてもよくなった銀奈は治癒を始めたばかりのクルルシアの掌打を打ち込み、体を爆散させんとする。


 だが、クルルシアには現在意識はない。緊急時なので普段よりは治癒速度が速くはあるがそれでもここまで強化された正義の使徒の一撃を食らえば、修復しきっていない体では本当の意味での絶命にいたるだろう。


「とおやまりゅううう!ひ、でん! ごの型【仙掌】!!」


 しかし、他の助っ人はいない。いたとしても今の銀奈を止めるほどの実力を持つ者はこの世界にはいない。たとえ過去の魔王たちであっても瞬殺されてしまうのがおちだ。


 かくして、その攻撃は。倒れたクルルシアに届き、その体を一片も残さずに破壊する。


「?!」


 血が足りなくなり、しこうがおぼつかなくなってきている銀奈だが、何か違和感を覚える。


 そう、感触がないのだ。ソルトが正面から受けきったときとはまた違う。本当に、今、クルルシアに触れた感触がなかったのだ。まるで宙にういていた水を叩いたかのような、そんな感触。


 しかし、確かにクルルシアの体は消え去り……


「奥の手は……隠しておくものよ」


 倒れていたアクアからぼそりと聞こえてきた言葉。その言葉に銀奈がはっとする間もなく、


『雷竜魔法【黒雷掌】!!!!』


 先ほどまで何もなかったはずの空間に霧が晴れるような揺らぎが起こると突然クルルシアが現れ、治癒しきっていない体にも関わらず銀奈に一撃を叩き込む。


「があ……はっ……ああ……」


 胸部を中の臓器ごと丸ごと消滅させられた銀奈。呼吸系も血液を送り出す循環系も消し飛ばされ、後ろに倒れる銀奈。


「あなたの水魔法は……知ってた……?」


 シャルの血液を集めたように、アクアがやったのは空気中の水蒸気を集め、凝集し、偽物のクルルシアを作り出すこと。そして同時に本物を霧のベールで隠すこと

 倒れていく銀奈に語っているのか、アクアがぼそぼそと呟いていく。が次第に彼女の瞳も閉じていく。


『アクアさん!』


 急いでクルルシアが駆け寄るもアクアのカラダはすでに限界を迎えており、人としての生命機構のほとんどが停止していた。


「私を看取るのがお前とは思わなかったが……ありがとう……」

『まだだよ! 諦めたらだめだよ!』


 懸命に呼びかけるがアクアの意識は深く、沈んでいった。



 正義の使徒。【討伐】

 これにて、使徒はあと一人、知恵の使徒のみ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ