表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
道に咲く華  作者: おの はるか
私たちは希望の道を諦めない
162/174

使徒終結編 クルルシアたちの能力

 ある名家に少女が生まれた。


 父は厳しい人であった。悪を決して許さなかった。


 先祖代々の武術を少女は父の背中を見るだけで吸収していく。周囲が期待する【悪を倒す存在】となるために。





「本当に……悪い奴らのくせにてこずらせてくれますね……」


 止血もほどほどに銀奈が立ち上がる。クルルシアと違い傷が癒えているわけでもないのにその動作にはためらいがない。


『本当によく動けるね……。ソルトでもその傷だと動けなくなると思うんだけど』

「というか普通に死ぬはず……」

「この程度で倒れていては我が家の名折れです」


 そう言ってクルルシアが放り、地面に突き刺さっていた剣を引き抜く。すでに刀傷が複数、背には雷による火傷。そして腹部に大きくはないとはいえ決して軽傷にはなりえないクルルシアによって開けられた穴。

 この世界においても重症と言える傷を負いながら神の加護もなしに銀奈は動く。


「遠山流秘伝八の型【空蝉】」


 だが発動と同時に、アクアたちはすでに回避行動を終えている。銀奈が近づく前に離れ、決してその剣の間合いに入らないようにする。


「ちっ」

「神届技【疾風怒濤(シュトルム・ウント・ドラング)】」


 そしてそこにさらに、身体強化を施したアクアが強襲する。一合、二合と切りあうが一太刀交えるたびに銀奈は押されていく。


 そして剣が弾かれ、無防備になったその腹にアクアは容赦なく蹴りを叩き込み、離れた瞬間にクルルシアの雷が襲う。

 後ろに跳び軽rの威力を減衰し、雷も直撃を裂けるが確実にその傷は銀奈の動きをのろくしていく。


「く……悪……め……」


 ぎりぎりと歯を食いしばる銀奈。だが劣勢であることに変わりはない。


『まだやるつもり?』


 クルルシアが銀奈に問うが返事はない。銀奈は息を荒げながらまっすぐクルルシアを睨むのみ。


「クルルシア。無駄。こいつに妥協はない」

『みたいだね。残念』


 そして、クルルシアが銀奈の周囲もろとも消し飛ばす魔法を準備し始めた途端だった。


「貴様らのようなものが! 我が正義を! 我が家の掲げる正義を語るな!!」

「な?!」

『魔力が……どこから!』


 銀奈の体に、正義の使徒が破壊されてから空だった魔力が急激に補充されていく。それだけではない。傷も人では考えられない速度で回復していく。


「まさかこいつ……」

『最悪だね……せっかくソルトが撃破してくれたっていうのに』


 人ではない。しかし、この世界の人がなりえる強化など決まっている。


 遠山銀奈は使徒になった。その正義の志を神に認められて。


「我、正義を実行す!」


〇〇〇


「神届技【疾風怒濤(シュトルム・ウント・ドラング)】!」


 アクアは銀奈が使徒になったと判断した瞬間に自身に神届物を使用する。また、クルルシアも契約しているジャヌの力をもって身体能力の強化を図る。


 前の使徒と同じであればクルルシアたちは徹底的に悪人扱いされ、弱体化させられてしまう。それを無理やりに地力を引き上げ対処するのだ。


「遠山流秘伝十九の型【雷千来】」


 クルルシアの扱う魔法とは異なり、銀奈の使うのはあくまで地球にいたころから使っている技術。当然雷などは名前には入っていても出てこない。

 しかし使徒としての身体能力の強化、および魔力による瞬発力の増加。その二つが大きすぎる。


 先ほどまでは躱せていて、今さらに身体強化を施したクルルシアとアクアでさえ、飛来する幾千の剣による刺突を躱しきることは不可能であった。


 クルルシアの犠牲がなければ。


『アクアさん!』


 とっさに、アクアがいなくなれば確実に攻め手にかけることを理解していたクルルシアはためらうことなく自分の体を銀奈の攻撃の前に晒し、アクアをかばう。当然一撃一撃は致命傷。銀奈の型通りの動きが終わるまでにあっという間に絶命し、終わった瞬間に龍から借り受けている生命力で回復し距離を取る。

 銀奈からの追撃はない。余裕たっぷりにクルルシアに問う。


「さて、あと何回それができますか!」


 クルルシアの不死身にも思える回復の弱点を銀奈はすでに理解している。というかすでにアンデッドである魔王ワーリオプスを倒した際に不死に見える敵との戦い方は学んでいた。


 すなわち、殺し続けること。


 そしてそのことを一番理解しているのはクルルシア。


(すでに三回は人の身で死んだ……。蘇生はあと……)


 冷静に、自分の残りの命のストックを考えるクルルシア。その回数の間になんとか目の前の敵を撃破しなければあとはない。


「チェリシュ、あと何回生き返ることができる?」

『一、二回かな……一撃一撃が大きすぎてかなり厳しい……。ジャヌも今弱ってるからね……』


 アクアにだけ心を届けるクルルシア。それを聞いてアクアは表情にこそ出さないが危機を覚える。


「なら無理はするな。お前に死なれたら私に勝ち目がないのも同じだ」


 そう、クルルシアがいなければ今アクアが攻撃を食らったように、クルルシアの援護がなければアクアも一人で正義の使徒となった銀奈に勝つのは難しい。


「それにお前には家族がいる。ここで死ぬな」


 そう言ってアクアは一歩前に出る。クルルシアはその心を読み顔を青くする。


『あ、アクアさん!? それは』

「これで一矢報いる。その隙でもなんでもついてくれ」


〇〇〇


「相談はすみましたか? 殺される順番の」

「ああ、私が一番目、次にお前だ」

「それは……また面白いですね」


 挑発のつもりで銀奈は言ったのであって、自分が一番に死ぬと宣言されるとは思っていなかった彼女は少々面食らう。が、その理由をすぐに知る。


「狂獣化」


 外見の変化は劇的だった。今まで猫耳に尻尾が生えていたくらいだった度合いが、皮膚のほとんどを毛皮が覆うようになり八重歯もより長くなり牙となる。


 それはソルトの妹セタリアであっても発動すれば使徒に並べる実力を発揮できる能力であり、アクアが使えばさらにその何倍もの力を行使することができるのは想像に難くない。


 もっとも、使えば必ずその命を使い切ることになるのだが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ