使徒終結編 奇襲
腹を貫かれているにもかかわらず銀奈は右手に持っていた骨の剣で、後ろに立っているはずのクルルシアに向かって突き出す。が、心を読める彼女にとってその程度の速さならば問題はない。ゆうゆうと手を腹から引き抜き距離を取る。
「お前……なんで動ける……」
腹の出血を抑えながら銀奈は問う。が、クルルシアは自分の能力をしゃべるようなことはしない。雷を全身にまとい、再び臨戦態勢だ。
『さあ、なんでだろうね。教えないから考えてみな』
そう言うと再度クルルシアはとびかかる。銀奈は一瞬向かい打とうとするが、
「不味いっ!?」
「遅い!」
後ろに控えていたアクアがちょうど準備が整った瞬間だった。腰の位置まで下げていた一本の刀を一気に引き上げる。
この状況でどちらか片方の攻撃を防ぐことは、もう片方を食らうということに等しい。とっさに銀奈はアクアの剣の軌道から離れようとしながら右へ飛ぶ。当然躱しきることはできなかったが浅い傷で済ませる。
そのままバックステップで距離を取るがアクアと、そしてクルルシアの放つ雷の波状的に襲い掛かる。一つ一つ潰しながらアクアのさらに速度の上がった剣にも対応できるあたりは常軌を逸しているといえるだろう。
しかし、雷を放ったあとクルルシアは即座に移動。数秒後に銀奈が追い込まれるであろう位置を陣取り一撃を放つ。
『雷竜魔法【崩雷弾】』
雷を球形にまとめ、そして放つ。魔力で包まれた雷はバチバチと音を立てながら銀奈の背後から迫る。
そして同時に銀奈を追いやっていたアクアと雷も一斉に襲い掛かる。地面と、そしてアクアの剣。
だが、バチバチと激しい音がすれば銀奈も気づく。自身が一定の方向に追い込まれていることにも。であれば。敵の攻撃に気づいたのであれば利用する。それが遠山銀奈。
跳躍。雷の一斉攻撃、さらにアクアの剣すら届かない高さへ彼女は舞う。雷の弾を剣で弾き、アクアへ向かうように軌道修正することも忘れずに。
「自分たちの攻撃なら効くんじゃないでしょうか?」
勝ち誇ったような銀奈の笑み。さらに飛んだ銀奈を見て驚いているクルルシアに剣を投擲することも忘れない。反射で投げたそれはクルルシアにかわすことは不可能な速さ。
そして寸分狂わず剣はクルルシアの頭につきささり、雷の弾も暴発……
『ふふふ』
しなかった。
アクアの尻尾が動く。だが、一本ではなかった。ベールが外れるような空気の揺らぎとともに尾が二本になる。しかし、うち一本は半透明だ。
そしてその半透明の尾が迫りくる雷の弾を包み、そして再び、上空にいる銀奈へと投げつける。
『爆ぜろ』
そして剣で頭を貫かれているはずのクルルシアもタイミングを見計らっていたのかその時になって魔力の包みを解除。
結果、幾筋もの雷が銀奈を襲うのであった。
〇〇〇
「ぐぅっ!」
下から迫る幾筋もの雷。が、その瞬間的に迫る攻撃をもってしても銀奈は反応してしまう。体をひねり、身動きができないはずの上空でも重心をずらさずして攻撃の軌道から体の大部分を逃がすことに成功する。
「まだ仕留めきれませんか」
『あんまり時間かけたくないんだけどね……』
「なるほど……そう言うことですか……。猫の獣人ではなく猫又か、その類……。もう一人は傷を癒しているのではなく供給源があるとみました。たしか魔獣使いかその系統でしたよね。そのあたりが関係しているのでしょうか」
正義の使徒の時に得たクルルシアの能力と、今の戦闘だけで二人の能力のおおよそを理解する。
クルルシアの治癒。これは契約している雷龍ジャヌと生命を共有していることに由来する。人の体では絶命に至る傷もその傷を肩代わりしてもらうことによってクルルシアは生きながらえる。当然限界もあり、死ぬときはともに死んでしまう。
そして一方、アクア。彼女に関しては種族が猫の獣人ではなく幻想種の猫又であったというだけのこと。
「このせいで集落を追い出されたんでな……あんまりなりたい姿ではない」
『その後に使徒さんにひょいひょいついていったんだっけ? 災難だねぇ』
軽く一言交わし、構え直す。まだ銀奈の体力は削り入れていない。そして限界がまだまだなのはアクアとクルルシアも同じ。
戦いはまだまだ続く。




