使徒殲滅編 彼のなすべきこと
「マドルガータさん、そろそろおろしてくれないか……」
「とりあえずここまでくれば」
上空を人形に抱えられたまま移動させられるソルト。しかしマドルガータは何かに集中しているのか独り言をつぶやくだけで返さない。
チェリシュとかなり離れた場所まで移動してようやくマドルガータは停止し、人形で抱えていたソルトたちを地面におろす。
ようやく地面に足がついたソルトはシャルの容態を確認し、悪化していないことを確認するとマドルガータに向き直る。
「マドルガータさん、どういうつもりですか。シャルはチェリシュさんの治療を受けさせたいんですけど」
「あなたこそ落ち着きがありませんね。今の彼女が他人を治療できる状態に見えましたか」
マドルガータの正論にソルトは黙る。少なくとも彼女が人の話を聞くくらいには冷静でないと困るのは間違いない。
「でもそれならもっと話を」
「いえ、その前にある可能性をあなたに伝えておきたかったのでいったん距離をとりました」
「可能性……ですか」
「はい、チェリシュが神から何らかの精神汚染を受けている可能性です」
「精神……汚染?」
突然の話にソルトは思わず聞き返す。
「催眠のようなものです。ナイルがその可能性を口には出していませんが【何かある】というようなことを今までに何回か私たちにほのめかしていたのです。神届物を通じて、私たちは常に神とつながっている状態にあります。何か影響があってもおかしいことではありません。なぜこのタイミングで、とは思いますが」
シャルの傷口に簡単な手当てをしながら。恨めしそうに語るマドルガータ。その恨みは神に対するものか、それともこの状況に対するものか。
現在ソルトたちは隠れるための結界を張ったのち、シャルの手当てを優先していた。そしてマドルガータは同時に遠くの人形を動かしチェリシュを足止めしていた。
「よし、これでまたしばらくはもつでしょう。ソルト君、それでは」
「はい、いつでも行けます。シャルはここに?」
「チェリシュが操られている、なんてことであれば彼女はいるだけで危険にさらされます。ここであなたの結界に守られている方が安全かと」
まだ命に別状がないとしても危険あ場所に連れていくには躊躇する傷をシャルは負っている。戦闘がほぼ確実に起こる場所へ連れていくことはできない。
幸い、ソルトが強力な結界魔法を一つ使えるためその中でかくまうことにする。
準備を終えた二人は立ち上がる。
「それでは、行きましょう」
「はい」
ソルトは剣を、マドルガータは残りの人形をすべて呼び出し戦いの準備を終える。
彼は聞こえてきた声について考えながら、マドルガータを追ってチェリシュの場所へ向かう。自分の役目は何なのか。この場所に来る前にアクアに言われたのはどういう意味だったのか。
かくして残る戦場はたったの二つ。
遠山銀奈(元正義の使徒)対アクア、クルルシア。
チェリシュ対ソルト、マドルガータ。




