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道に咲く華  作者: おの はるか
私たちは希望の道を諦めない
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使徒終結編 皆殺

「なんなのだ……これは……」


 人が倒れていく。小規模ではない。何か、物体が落ちた場所を中心にどんどん人が爛れて死んでいく。

 半透明な爆風でも見えていれば違ったかもしれないが見えたのは目を焼き尽くさんばかりの光源のみ。爆風が来れば躱せるつもりであった二人の使徒も異常な事態に困惑していた。


 だが、それ以上使徒がしゃべることはなかった。二人の使徒はずるりと地面に倒れ二度と動かない。

 チェリシュの神届物はこうしてあっさりと二人の使徒。そして北野駐屯地に集まっていた群を文字通り全滅させたのであった。


〇〇〇


「傲慢の使徒に希望の使徒。随分とあっけないものでしたね」

「ま~ね~。魔王軍がいったん引いた時点で軍を再編成するのは読めたからね~。そこを叩けばはいこの通り」


 二人の女性が屍に埋め尽くされた駐屯地を眺めながら目的の人物、【傲慢の使徒】と【希望の使徒】の死体を確認しにいく。

 ともに悪魔喰いの団員。一人は人形遣いマドルガータ・ジオイア。万が一、あの攻撃に耐えた者がいた場合を警戒し人形を三体召喚。いつでも攻撃態勢に移れるように準備していた。

 そしてもう一人はナイル・パウラム。悪魔の脳の持ち主であり、この状況を作った一因でもある女性。


「しかし……原爆とはまた随分な兵器を持ち出したものですけど……チェリシュ、大丈夫ですか?」


 そしてもう一人、二人から離れたところで地面に手を突き、息を荒げている少女がいた。


 この北の駐屯地に移動した人間に対し神届物を使い、まさに皆殺しにした少女チェリシュ・ディベルテンテ。神届物の代償なのか立ち上がることも厳しいようだ。

 なんとか声を振り絞り、マドルガータの心配する声にこたえる。


「ええ、なんとか……もうじき動けると思うわ」

「そうですか。無理はしないように」


 口では淡白に、しかし心は心配で埋め尽くされているマドルガータ。一方ナイルの方はチェリシュの辛そうな理由を正確に推し量っているからか心配の様子は薄い。


「チェリシュちゃん、ご苦労様よ~。おかげで残った使徒と言えば……正義の使徒と知恵の使徒かしらね~。正義の使徒にはソルト君をぶつければ神届物はほぼ相殺できるでしょうし、知恵の使徒も戦闘能力は高くないわ~。もう邪魔者はいないって感じね~」

「そうね……早く終わらさないと……みんな報われない……」


 ぶつぶつと呟きながらチェリシュは痛みをこらえて立ち上がる。彼女の強く、歯を食いしばる表情から垣間見えるのは罪悪感。

 神と神、その代理戦争ともいえる使徒と悪魔喰いの戦いに何万人もの人を巻き込んだ罪悪感。チェリシュが今までにその治癒魔術や前世の医療技術を駆使していたとして、今回命を奪った人の数の方が圧倒的に多いのは事実だし、例え今までに救った命が多いからと言って彼女の中で許されるものではない。


 しかし彼女はもう決めていた。全てが終わるまで全力で突き進もうと。


「もう、考えるのは……つかれた……わね」

「チェリシュ?」


 何かを呟いたチェリシュの顔を心配そうにのぞき込むマドルガータだが少女がなんでもない、というのでそれ以上踏み込むことはない。

 ナイルが空気を読まずに声をあげる。


「さってと~。それじゃあ私はやることがあるから二人はここで待っててちょうだいね~。神へと通じる門だからね~。かなり時間喰うわよ~」

「今更敵なんてこないでしょうに」


 簡易的な軍施設の中に消えていくナイルを見送りながらマドルガータはぼやく。事実、人の軍隊はもう機能していない。人数はいても人並み程度の実力者など彼女たちの敵ではないし、少しくらい注意したほうがいいというレベルの人間はここ、北の駐屯地に移動させられ、現に死んでいる。指揮官であった使徒たちが死んでいるのも理由の足しになるだろう。

 だが、その理由は裏切られた。


「いや、やっぱり来るみたい……よ」

「? いったい誰が……」


 裂きに気付いたチェリシュが振り返る。遅れてマドルガータも。そこに立っているのは神から【勇者】の力を与えられたにもかかわらず、神に対して敵対を選んだ少年が血にまみれた少女を背負って立っていた。


「チェリシュさんたちが……これをやったんですか」


 ソルト・ファミーユ。彼に今、何ができるのか。


〇〇〇


「な、なんだあれ」


 シャルを背負っての強行軍。その最中ソルトが見たのは遥か遠くで起こる眩い光源。しかし爆発によって起こりえる空気の揺らぎは感じられない。


 しかし何かが起こったことに疑いの余地はなく、彼はその歩を早めるしかない。


 そして歩を進めたその先で、彼が目にしたのは死体の中を平然と歩いている三人の悪魔喰い。問い詰めるには十分な理由だろう。


「チェリシュさんたちが……これをやったんですか」


 その疑問はナイルがいなくなり二人となった少女たちにしっかりと突きつけられる。が、チェリシュはいまさら、質問の一つでおびえたりはしない。


「ええ。そうよ。私がやったわ。神届物でね」

「?!」


 毅然と、自分がやったことに対して答えるチェリシュ。その堂々とした態度に逆にソルトが驚く。が、背中のシャルのことを思い出し、話を変える。


「なんでこんなことを……」

「別に。これが戦争だからよ。文句があるなら戦うけれど?」


 短く詠唱し、半透明の鎌を取り出すチェリシュ。だがソルトに戦うつもりはない。


「ま、まってくれチェリシュさん! 俺は戦いに来たわけじゃ……」


 最初の言葉を間違えたことに公開するソルトだったがもう遅い。猛烈な勢いでチェリシュはソルトに切りかかる。


「くっ……」


 剣で受けてもすり抜けるチェリシュの神届物。躱すしかないわけだがシャルを抱えたままで機敏な動きは制限される。おまけに相手の武器は大鎌。間合いが測りづらい。

 躱し損ね、危うく腹に鎌を食らいそうになるソルト。だが、そこに救いの手が差し伸べられた。


「マドル? どういうつもりかしら」


 ソルトは気が付けば、背負っていたシャルもろともマドルの操る人形に抱えられていた。


「チェリシュこそ落ち着きなさい。今あなたのその手に持つ部位は命を刈り取ります。それをわかっての行動ですか?」


 チェリシュはその言葉にビクリと反応を示す。が、それも一瞬。


「何をいまさら!」


 怒気を含んだ様子で再びソルトたちに向かって走り出す。


 一方で人形に抱えられているソルトはマドルの言うことが一瞬理解できなかった。しかしチェリシュの様子をみて、その反応が意味するところを遅れながら理解する。


「チェリシュさん、あなた、人を殺したことが……なかったんですか」


〇〇〇


 ソルトとチェリシュが最初に出会ったのは盗賊の砦。そこではチェリシュは捕まっているだけであった。


 二回目であったのはソルトとシャルが傲慢の使徒に勇者ともども襲われた時。


 三回目はシャルトラッハ王国王都で悪魔喰いが反乱を起こした時。


 四回目は聖剣を持ったソルトたちを追って戦闘になった時。


 そのいずれにおいても、チェリシュが人の命を直接奪ったところを見ていない。


「じゃあ、なんで……こんなことを……」

「私が……終わらすの……こんな……腐りきった世界……」

「チェリシュ?」


 マドルガータが少女の異変を察知する。だから気付いた。その目がおかしいことに。


「まさか……ソルト君! 一旦引きます!」


 そういいつつマドルガータは二体の人形を使ってチェリシュの行動を阻害し、ソルトたちを抱えていた人形もろともその場から離れる。


「ど、どういうことですか」

「説明はあとで!」


 理解できないソルトだったがマドルの剣幕に押され、人形にされるがまま連れていかれる。


「待ちなさい!!」


 人形に足止めされたチェリシュの声が響いた。


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